第22話 ギルドカードはトリプルS


「あれは、黄麒麟印の特大シェルリル貨だから。一億円」

 しずちゃんが焼き鳥を頬張り、御軽く言ってくれる。

「裏の肖像を御覧なさい」

 エポナさんが、額から出したシェルリル硬貨を手渡してくれた。

「あっ、シェリーさんだ」

「そうですわね。シェリーさんは、発見者が得るべき鉱山の所有権を放棄しましたの。以来、鉱山は博物館が管理して、硬貨の肖像は総てシェリーさんになりましたのよ」

「それって、凄い事ですよね」

「そうですわね。博物館の硬貨は純度が高くて鋳造も丁寧なので、全世界で高く評価されていますわ。宇宙の基準通貨にもなっておりますの」

「シェリーさんて、宇宙的有名人だったんですか」

「そう言うこと」しずちゃんが自分事のよう。自慢顔になった。

「でも、精霊界のシェルリル鉱山は百年前に枯渇してしまいましたの」

「百年前‥‥シェリーさんて何歳?」

「さあ、あの人そういう話しないから、分からないな」

 しずちゃんも幾つなのか気になる所だけど、はぐらかされた感が強いなー。

「お出かけの皆さんは、このシェルリル鉱山の取り扱いについて話し合いに行きましたの」

「なる程、納得です。長引きそうですね」

「ええ、乱暴者で有名な長兄のフェンリルも同席するみたいな話になってたからねー。まとまれば良しとするしかないんじゃないのー」

「そうですわね。あの方と黄麒麟様に暴れられると、魔界が消滅しかねませんからね」

 物騒な噂話になって来た。

 聞こえない、聞こえない。


「だっだいまー」

 珍しく、突然ではなく声が先に聞こえてから、三人が部屋に現れた。

 飲み始めたばかりなので、私達もまだ酔っていない状態だ。

「いっやー、上手くいっちゃったねー。七三でこっちが七。決まりましたよ」

「それはまた宜しい条件ですこと」

 エポナさんが忙しなく動きながら、黄麒麟さんに声を掛ける。

「まあ、発見したのは僕達だしね。彼らには加工技術がないから、シェルリル硬貨にしてからの分配になるんだけどね。それにしても良い話し合いだったよ」

 ここでシェリーさんが発言した。

「良い話し合いではなくて【良い食べ比べ】ではないですか。フェンリル様とチスイウサギの食べ競争をして、それだけで随分と時間を使ってしまいました。会談はほんの十分でした」

 なんて奴等だ。

「明日は精霊界だからね。深酒しないでよ」

 シェリーさんの意見をかき消すように、黄麒麟さんが焼き鳥に食らいついた。

 散々食ってきたんじゃないのか。


「そうだ、なっちゃん。君の部屋に飾ってあるあれ、エクスカリバーだよね」

「はい、そうらしいです」

「僕にちょうだい」

「えっ」

 突然の図々しいにも程があるおねだりに、次の言葉が出てこない。

「エクスカリバーとシェルリル鉱石を使って、刀を作ってあげるよ」

 何だかちょっとだけ良い話に変わってきた。

「それは良い考えです。エクスカリバーはしなやかで戦闘時に折られる事はありませんが、切れ味が悪いのと重いので扱い難いソード。それをシェルリル鉱と一緒にして、軽くて切れる日本刀に仕上げるんですね」

 しずちゃんの目が輝きっぱなしだ。

「そうそう、二・三本作れるしね。今回のメンバーで分けようと思って」

「どうせこのままじゃ使い道ないし、私は使ってもらっていいですけど、誰が加工するんですか。シェルリル鉱石って、加工がとっても難しいって聞きましたけど」

「金庫の妖精達とソロキャンプ・ピクニック君に頼みたいんだけど、それじゃ連絡しちゃっていいかな」

「いいですよ」


 こう答えてから数分もしないで、ちっこい妖精みたいのがやって来た。

 うおー、ティンカベール。

「始めまして、ソロキャンプ・ピクニックです。ティンクって呼んでね」

 ‥‥ティンカーベルで良いんだよね。

「これなんだけど、何本作れるかな」

 黄麒麟さんが、エクスカリバーとシェルリル鉱石をティンクに見せる。

「んー。これだと、日本刀が二本と短剣が一本、包丁が一本と針剣が一本てところかなー」

 ティンクが自慢げに腕組みをして胸をはる。

「ティンク、今回のパーティーに合わせて言ってないか」

 私だけではない。

 黄麒麟さんも不自然な出来上がりに気づいた。

 他の皆さんも何度となくうなづいている。

「やだなー。偶然、偶然だよー」

「まあいいや、明日の朝までにできるかな」

「小一時間もあれば、すぐに作って持ってくるから待っててね」

 態度と発言は信用ならないけど、仕事はできそうだ。

「じゃあ頼んだよ。ここで飲みながら待ってるから」

「はーい」


 エポナさんが、お酒によく合うチョコレートを出してくれた。

「チョコレートとアイスクリームって、悪魔のレシピですよね。虫歯にはなるし太るし、分かっていても止まらないの。もう中毒になってますから」

 私はかねがねこう思っていた。

「ごめん、アイスクリームは私」

 しずちゃんが笑っている。

 本当かな。

「ちなみに、チョコレートはルシファー様が」

 エポナさんまで。

「チョコレートといえばさ、僕、なっちゃんからチョコレート貰ってないよね。地球のカフェで食べられたからいいんだけどさー」

 黄麒麟さんが、突然ヒガミ根性を丸出しにした。

 いかん、いかん奴にいかん事を知られてしまった。

 ここはダンマリを決め込むしかないだろう。

「今回の件が片付いて、帰宅したら買ってまいりますわよ。ねえ、奈都姫様」

 エポナさんがフォローしてくれた。

「はーい、楽しみに待ってまーす。と言うか、この後の予定なんだけど、出来れば二・三日で片づけたいんよね。しずちゃん、ちょっと予定言ってみて」

「はい。明日からは精霊界で、魔界から流入した盗賊団の一斉討伐。本来は魔界に配置してある冒険者ギルドの仕事ですが、今回は訓練の為に引き受けています」

「それって、ヘルに言ってギルドに任せない。事情が事情なんだからさ」

「やってみます。次に、神界で魔獣・精霊・人間を、奴隷にしている神を退治してもらいたいとの依頼があります」

「んー、面倒だなー。下手に手出しできないし、時間かかるものね、それって。いいや、僕から赤に連絡して、奴にやってもらうよ。それでいいかな」

 赤とは赤麒麟の事で、四界のうち神界を支配している。

「私はかまいませんが、皆さんは」

「問題ないです」

「そうなると、最後に残るのが人間界でして、異状気象で甚大な被害に苦しむ民を救うのに協力してくださいとの事でした」

「それも一日二日で終わる仕事じゃないものね。白には僕から連絡するとして、ズボラ、博物館の緊急支援物資放出してくれるかな」

「人間界の支援物資だけで足りるかと、博物館の物資は、ルシファー様にお会いしてからどうするか決めた方が無難かと思われます」

「なるほどね、だったらそうしようかね。これで全ミッションクリアで良いかな。しずちゃん」

「はい。よろしいです」


「では、なっちゃんの卒業式を始めます」

 急ぎなのは分っているが、残念なほどに忙しい展開だ。

 聞いているだけで疲れた。

 そんなにチョコレートが欲しいか。

「これから異世界司書講習の卒業式を行います」

 黄麒麟さんが、一枚のカードを私に差し出す。

「おめでとうございます。これは全宇宙共通のギルドカードです。存在する全ギルドに加入していて、ランクは【SSS】トリプルSです。期限はありません。あっ、後でみんなにも配るからね」

 なんだ、みんな貰えるのか。

 喜んで損したような気分。

 トリプルSって、きっと最上級だよね。

 そんなハイレベルでいいのかな。

 自信ないなー。


「これから博物館に寄って、二日間の準備休暇です。博物館に再集合して目的地に出発しますから、遅れないで来てくださいね。あと、なっちゃん。チョコレートよろしく」


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