第25話 射手の矜持

どうも、リングです。


今、僕はしたくも無い魔物討伐をやらされています。


眼前のサイクロプスが振るう縦の蛮刀を翻し、回避した後に弓の弦を引く。


僕は矢を番える必要が無い。何故なら、矢を無限に生成出来る『ギフト』を持っているから。


弓を引いた直後、本来矢を番える部分に矢が光と共に発生し、矢が番えてある状態になる。


詰まる所、発射するタイミングで矢が発生するのだ。


轟音と共に飛来する矢がサイクロプスの胸に突き刺さり、その瞬間、矢傷から爆炎が発生する。


「ガァァ!」


サイクロプスの胸が爆ぜ、焼け爛れ、壮絶に血を流し始めるが、少し浅い。


即座に再生が開始する。


「やっぱり、硬いなぁ。流石ランク4だよ」


だが、怯んだ隙を見逃す程、甘くは無い。


矢を三本番え、その全てを斉射する。


別々の軌道を描いたその矢は、美しい軌道を描いて飛来し、腹部、右大腿、右肩に突き刺さる。


その三本の矢は別々の挙動を見せる。


一つは火炎を、一つは雷を、一つは氷結を発生させ、そのどれもが激しくサイクロプスを削り出す。


僕は弓矢を行使する場合に限り、光と闇を除いた全属性を扱える『ギフト』を持っている。


後は矢を必中とする『ギフト』。


弓以外の武具を使えない制限の代わりに、弓矢の威力を向上させる『ギフテッド』。


これが僕の持つ『ギフト』と『ギフテッド』。


ここまで所有している人は珍しいらしい。


知らん。僕は商人がしたい。


サイクロプスはその負傷を完治させ、僕の放った追撃の矢を荒々しく弾き飛ばす。


「そうだよね。一撃で殺し切る火力が無きゃ、『射手アーチャー』なんて雑魚。『ウィザード』と差別化なんて出来ない」


だけど、僕は小賢しく勝ち星を上げてやる。


サイクロプスが振るう蛮刀の嵐を潜り抜け、横薙ぎの一撃を跳躍して躱し、空中で身を回しながら矢を連射する。


十本余りの矢が降り注ぐが、その全てを顔面の前で構えた刀身で受けられる。


でもね、必中って事は、操作が可能なんだよ。


降り注ぐ最後の一本が軌道を変え、盾とした刀身を素通りして、サイクロプスの単眼に突き刺さる。


防がせた矢は全部ブラフ、この一本だけを遅らせて放ち、本命のこの矢の威力は先程の比にならない。


突き刺さった矢が周囲を支配する程に光り輝き、煉獄の螺旋塔となってサイクロプスを焼き焦がす。


「ギャァァァァ!」


最大火力を叩き込んだ。これで溶かせなければ正直、独力で突破は不可能かな。


噴煙と共に爆ぜる螺旋塔は、包まれたサイクロプスを溶解させ、判別も付かない塵に変えるだろう。


しかし、


「そんな簡単に死んでちゃ、魔王さんに顔向け出来ないもんね」


その噴煙から悠然と歩み出る巨大な影、それはサイクロプスその人だ。


その肉体は殆ど負傷していない。


「無属性のバリアを張ったか、肉体強化で強引に耐え切ったか。どちらにしろ、僕じゃ削り切れないかな」


サイクロプスは牙の生えた口を歪め、悦楽に溺れた恍惚とした表情を見せながら、その単眼が光り輝いて行く。


その輝きは空間を白く染め上げ、万物を消滅させる破壊の顕現だ。


俗に言う、目からビームである。


凄絶な勢いで放たれる白光の光線は、周辺を白く染め上げ、大地を捲りながら迫って来る。


当たれば即死、この状況を打破する手段は無い。


でも、それは僕の独力では無理なだけ、


「あちゃぁ、これ使っちゃうのかぁ。僕の店の優良商品だったのに」


そう心底残念に呟き、懐から取り出した羊皮紙を生成した矢に突き刺し、それを弓で光線に放つ。


風切り音と共に光線に接近する脆弱な矢は、光線に衝突すれば塵一つ残さずに消え去るだろう。


そんな誰が見ても消え去る筈の矢は、


「ガァ!?」


無色の障壁を展開し、その光線と真っ向からぶつかり合う。


正確にはこの羊皮紙が展開した障壁。その名を、


「『魔符スクロール』、マジックバリアが封じられてたんだけど、ここで使っちゃうのは辛いなぁ。まぁ、命よりは安いか」


スクロールにより展開された障壁は、サイクロプスの光線を完全に吸収、分解してその役目を終える。


白光が空間から消え去り、明瞭になった視界。


光線の隙は逃さない。


光線の隙で硬直するサイクロプス、その眼球に疾風を纏った矢が幾つもぶち込まれる。


その矢に纏われた疾風は爆ぜ、風の刃となって眼球を滅茶苦茶に傷付ける。


「ガアァァァァァ!」


余りの壮絶な痛みに絶叫し、顔面を左手で覆ってしまうサイクロプス。


「痛みに悶える暇とか、与えないから」


絶叫するサイクロプスを置き去りにして、右足と左足に凄まじい量の矢を放つ。


弓が放たれる轟音が轟き、風切り音を発しながら、鋭利に突き刺さるその矢が鮮血を噴出させる。


その矢に籠めた属性は、


「さっき焼いちゃったから、冷やしてあげる」


――瞬間、全ての矢が氷結を発生させ、凄まじい冷気を発しながら、両足を氷塊が覆い尽くす。


足は封じた。後は仕上げ。


「次の商品はこれ!」


そう言って、矢に羊皮紙を突き刺し、サイクロプスの足元に向けて飛来させる。


その矢の軌道は、サイクロプスの足元に一直線に向かい、そして目標通り地面に突き刺さる。


「ワープゲートのスクロール、出血大サービスだ!」


――瞬間、サイクロプスの足元にワープゲートが出現。


地面と水平に展開された異次元の扉は、サイクロプスを飲み込んでいき、下半身が完全に隠れた所で止まる。


「思うんだけど、こう言う状態で、ワープゲートを解除するとどうなるんだろうね」


そう言葉を紡いで、指を鳴らす。


――次の刹那、ワープゲートはサイクロプスが未だに間に居る状況で閉じ始める。


当然、時空間に干渉している状態を終わらせているのだ。間にある物は悉く切断される。


「ギャァァァァ!」


――瞬間、サイクロプスの上半身と下半身が、閉じる異次元の扉に締められる形で切断され、完全に閉じた頃には、その上半身だけが眼前に横たわっていた。


「これでも死ねないんだから、辛いものだよねぇ」


「ガッ、グゥゥ」


サイクロプスは今も体を動かし、眼前の僕を殺そうとこちらを睨んでいる。


そのドス黒い内臓が平原に撒かれ、濁流の様に噴出する血液を流しながらもお構いなしだ。


それでも、抵抗する力は残されておらず、その自慢の蛮刀すらも握れていない。


「はい、止め刺すからね」


そう言いながら一歩ずつ緩慢に近付く。勿論、詠唱をしながら、


「――『蛮勇を胸に抱き、主をたおそうと蛮刀を握った愚かなる反逆の使徒よ。その無謀の対価に、我は貴様の心血を以って杯を満たそう。破滅の因果から逃れられぬ者共に苦痛の贈り物を』――」


淡々とした調子で魔の符丁を唱えて、それが完全に終了する。


「『爆裂の彗星バーン・アロー』」


「ギャ!?」


恐怖に引き攣った顔面を晒すサイクロプスが、馬鹿みたいに開けた大口に、紅に光り輝いた矢を番えた弓を構え、至近距離で矢を放つ。


その大口に一筋の矢がぶち込まれた瞬間、頭部の内側が瞬いたと思えば、壮絶な爆炎が発生する。


耳を劈く轟音が木霊し、周辺を赤く染め上げるそれは、天にまで届かんばかりの噴煙と爆炎を発生させながら、頭部を粉々に粉砕する。


血飛沫や脳漿が撒かれる事は無く、一瞬にして灰燼に帰したサイクロプスの肉体は、噴煙が空気に溶けると、影も形も無い。


その噴煙から緩慢に抜け出し、独り言を呟く。


「終了。サイクロプス程度ならこんな物だけど、ドラゴン相手は辛いし、雑魚狩りに専念するかぁ」


そこまで言葉を紡いで、少し引っかかる事が、


「イツキさん、死んでないかな?」

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