第2章 メイドな隊長、出撃!

第11話 メイド服な隊長、現場に向かう1

 州都レージュの空気は、収穫祭二日目の喧騒に満ちていた。

 その熱気の下では、静かに――だが確実に、何かが動き始めていた。




   ■■■




魔物モンスターだぁ!?」


 サイカの言葉に、カーラが思わず叫ぶ。


 シェラの使い魔がもたらした『闘技場の地下で、魔物が暴れている』――その情報は、場の空気を凍りつかせるには十分だった。


「これはまずいね……」


 レオナが眉をひそめる。

 この場で、その重大さを誰よりも深く理解していたのは、レオナだった。


 だが、店の前を行き交う群衆には、そんなことはわからない。

 発信源がメイド服を着た女子供たちだと理解すると、そのまま「ああ、あの話題で盛り上がってるのか」と納得した顔で通り過ぎていく。


 収穫祭のこの時期に、この街で「魔物モンスター」といえば、思い当たるものはひとつしかないからだ。

 それは――


「それって、武闘大会用に捕らえてるやつのことだよな?」


 カーラの確認に、レオナとサイカが同時にうなずく。


 武闘大会と言えば、収穫祭の目玉の一つ。


 毎年恒例の武闘大会。

 そこでは、剣闘士の試合やパーティ対抗戦に混じって、命懸けの対魔物戦モンスターバトルも人気を集めている。


 大会の裏で準備されている魔物モンスターたちは、当然ながら強力な個体ばかり。

 そして、それが今、檻を出て暴れているという。


「隊長、休憩に出ている者も含めて、全員招集しますか?」


 サイカが、副官の顔で聞いてくる。


 部隊は後衛職バックアップも含め、レオナ以下、十六名。

 ただ、今はマリア以下四名がとある事情で不在なので、街にいるのは十二名だ。


「んー……その必要はないかな」


 シェラの使い魔が届けてきた報せ。

 そこから読み取れる情報を整理し、レオナは首を振った。


「店が回らなくなっちゃうし、まずは少人数で様子を見よう。もし戦力が足りないようなら、使い魔で応援を呼ぶよ」

「承知しました」

「わたしと、休憩中で祭り見物してるメンバーで行ってくるよ。店長マスターに伝えといて」

「隊長、オレも――」


 ゴンッ。


いてぇッ!」


 叫んでしゃがみ込み、頭を抱えるカーラ。

 顔を上げると、そこには拳を握り締めた店長マスターの姿があった。


 じんわりと涙を浮かべながら、カーラは「なんで……」という顔をする。

 だが、返ってくるのは静かな怒気だけだった。


(い、いつのまに……!?)


 拳をもらったわけではない。

 なのに、レオナはその威圧感オーラに思わず一歩、後退あとずさっていた。


(やっぱりこの人、只者タダモノじゃないよね)


 短く刈られた黒髪の中に、苦労を匂わせる白髪が混じっている。

 身体は、服の上からでも、鍛えられたものであることが容易に見て取れた。

 そしてその精悍な顔には、左目を切られたかのような縦の傷跡。


 レオナの目に映る印象は、まさに『歴戦の戦士』だ。


(まー、エプロンさえつけてなかったら、だけど)


「ま、店長マスター……いきなりなにすんだよ」


 カーラが、涙目で抗議の声を上げた。


 この男こそが、ティアよりこの酒場ファミレスを任されている店長マスター兼料理長。

 今この場に限っては、レオナたちの上司である。(まあ、隊員たちの阿鼻叫喚を見かねて手伝っているだけのレオナは、厳密には違うが)


「おまえは留守番だと言われてるのがわからんのか、馬鹿が」

「で、でもよ」


 頭を押さえたまま、さらに言いつのろうとしたカーラの前に、サイカが立つ。


「カーラ。隊長が、全員で行く必要はないと判断されたのだ。従え」

「……ちぇっ、わかったよ」

「わかればいい――さ、行きましょう隊長♡」


 ゴンッ。


いったぁ……!」


 サイカは頭を押さえながら、それでも食い下がる。


わたくしは隊長の副官です。当然、同行の責――」


 ゴンッ。


 今度は言葉の途中で叩かれた。


「ううっ……料理、運んできます」


(この二人を、拳ひとつで涙目にできるなんて、この人店長以外いないよなー)


 などと、レオナは他人事のように目の前の光景を眺めていたが。

 そこで、ふと。


(いや、やれそうな人はもう一人いるか……)


 レオナは、無意識だった。

 無意識に、お尻を押さえていた。


 それに気づき、慌ててブルブルと首を振る。

 思い浮かべたあの人メイド長の姿を、全力で振り払うように。


「レオナ。店の方は、こいつらで回させる」


 サイカとカーラが口を開きかけた瞬間――

 店長マスターがちらりと視線を向けた。


 その一瞬で、二人の顔色が変わる。

 開きかけた口は凍りつき、まるで死を宣告されたような顔で黙り込んだ。


「その様子だと、さすがに店が終わるまで放ってはおけんのだろう」

「そうですね。それに、早く行かないと――」

が自分で乗り込むとか言い出しかねんしな」


 後半を店長マスターが続け、フッと小さく笑う。


「そうなる前に、早く行ってやれ」

「はい。じゃあちょっと行ってきます」

「ああ。店に残ってる連中が過労死する前に、終わらせて来い」


 店長の言葉に、サイカとカーラの表情が引きつった。

 レオナは、店長の顔に視線を移す。

 店長は、真顔だった。


 そろそろ、日も暮れる。

 これから、夕食を求める人波が、店に押し寄せてくる時間だ。

 しかも今日は祭りで、街に人があふれかえっている。


 レオナにだって、これからやってくる店の状況修羅場は、容易に想像できた。

 だから。


「ゴメンね、みんなっ!」


 レオナは叫び、サイカとカーラの泣きそうな表情を振り切って、街へと駆け出していった――。

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