第13話 人気者は大変

 天宮さんに結衣を連れていく了承を得て三日後。

 俺と結衣で一緒に横浜に来ていた。

 今日は天宮さんとみなとみらいでショッピングをする予定になっていた。

 デートプランはいろいろ考えたけど、結局無難なところに落ち着いた。


 駅の改札から出て結衣と天宮さんを探す。

 休日だからか凄く人が多くて天宮さんを見つけるのも一苦労……って、あれは。


 駅の改札前の広間に人だかりができていた。

 集まっている野次馬たちは、我先にとスマホのカメラを構えて中心に突撃していっている。


「ねえ、結衣。あれって天宮さんかな……?」

「うん、多分そうだと思う」


 俺が結衣に尋ねると、結衣は引き攣った表情で頷いた。

 よくよく群衆の声を聞いてみると、


「あの【アルカイア】の天宮がいるってよ!」

「マジかよ! 天宮って俺の推しじゃん!」

「えっ……お前、ロリコンだったのかよ」

「いっ、いいだろ、別に! 新城さんに罵られたがってるMのお前よりかはマシだよ!」


 そんな会話が聞こえてくる。

 ……てか、あの人たちってそんなイメージがついてるのか。

 確かに天宮さんはロリっぽいし、新庄さんはしっかりしてそうなイメージはあるけど。

 知り合いがそんなふうに言われるの、ちょっと複雑。


 とまあ、そんなことより。

 あそこに「ごめん、待ったぁ〜?」と入りにいけば間違いなく目立ってしまうよな。

 俺は何がなんでも正体を隠さなければならないので、入りにいくわけにはいかなかった。

 でもどうするか……。

 連絡取ろうと思っても、ここには家電もパソコンもない。

 結衣のガラケーの電話番号も教えてないので、天宮さんに連絡を取る手段がないのだ。

 こういったときにスマを持ってないのが悔やまられるな……。


「──分かった。私が行ってくるよ」


 悩んでいると、結衣が決意したように言った。

 いやいや、大丈夫か……?

 行ってくれるのは嬉しいけど、あの人だかりを見ると大変なことになりそうだが……。

 まあ俺が目立つよりかは数倍はマシなんだろうけど、そのために結衣を犠牲にするのも憚れる。

 そう思い、黙ったまま悩む俺に対して、結衣は手をギュッと握ってきて言った。


「お兄ちゃん。私はもう子供じゃないんだよ。子供じゃないってことは、お兄ちゃんにばかり頼ってちゃいけないってことなんだよ?」


 おおっ!

 おおおっ!

 結衣が大人びたことを言ってる!

 お兄ちゃん、感激だよ!


 結衣の成長を実感できた気がして、思わず頬が緩まる。

 そんな俺を見て結衣は「またいつもの兄バカが始まったよ〜」と呆れたようにため息をつくが、その口元は嬉しそうに緩んでいた。


「じゃあ、行ってくるね」

「ああ、気をつけるんだぞ!」


 そして意を決した結衣が、人だかりをかき分けて人だかりの中心の方に向かっていく。

 結衣が人だかりに揉まれ、姿が見えなくなって数十秒後。

 人だかりが一気にざわめき出すのが分かった。

 おそらく結衣が天宮さんのところにたどり着いたのだろう。


「おい、またロリが増えたぞ」

「あの子も可愛いな」

「俺、天宮さんよりあの子の方がタイプかも」


 おっ、おおお、お前らァ!

 うちの妹を変な目で見るんじゃない!

 群衆のキモいセリフに思わずスキルをぶっ放しそうになるが、なんとかゆっくり深呼吸をして気持ちを沈める。


 ふぅううう、ふぅうううぅううう。


 …………危なかった。

 もう少しで大量殺人犯になるところだった。

 まあ、天宮さんより結衣の方が可愛いと思った点だけは、認めてやろう。

 確かに天宮さんも相当な美人だが、結衣の方が数千億倍は可愛いからな。


 そして結衣が来たことにより、群衆も待ち合わせしていたことに気がついて徐々に離れていく。

 人が少なくなったところを見計らって結衣と天宮さんはその場を離れ、俺もその後ろをこっそりとついていくのだった。



   +++



 さっきので疲れ果ててしまった天宮さんの要望で、買い物をする前にカフェに入ることになった。

 俺たちは飲み物を頼み(天宮さんに奢ってもらった! やったね!)四人席に座る。


「はぁああああぁああ。疲れた」

「お疲れ様です。すいません、俺たちがもう少し早くついてれば」

「ううん、それは関係ないと思う」


 天宮さんは重たいため息をついて机に突っ伏す。

 俺が思わず謝ると、天宮さんは突っ伏しながらも首を横に振ってそう言った。


「ふふん、やっぱり私を連れてきて良かったよね、お兄ちゃん!」


 そんな重たい空気をものともせず、結衣が胸を張ってそうドヤる。

 確かに結衣がいなければ、あの群衆たちを退けることはできなかった。


「ああ、そうかもな。ありがとう、結衣」

「お兄ちゃんのためだもん! それくらい平気だよ!」


 結衣はそう言ってさらなるドヤ顔をして、机に突っ伏す天宮さんを見下ろした。

 見下ろされて天宮さんはムスッとした表情になって、口を尖らせて言った。


「……妹だからってデートの邪魔するの、良くないと思う」

「えー、でも天宮さんってお兄ちゃんと付き合ってるわけじゃないんですよねぇ?」

「くっ……そ、そうだけど」


 結衣の正論パンチに言い返せなくなる天宮さん。

 俺はそんな二人をなんとか宥め、仲直りしてもらうと(表面上だけだった気もするが)、カフェを出てようやくショッピングに向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る