旦那様! 私と愛し合いましょう!
I.Y
本編
第1話 前世を思い出す
西の空。燃え
海岸。西の空に沈みゆく太陽を眺めるのは、ひとりの
「奥様。そろそろお時間です」
「……帰りたくないけど、仕方ないわね。今行くわ」
侍女に呼ばれ、女性は
「!?!?!?」
驚いた女性が
「お、奥様っ!!!」
侍女の叫び声が聞こえるが、ろくに返事もできない。意識が
世界的に大人気となった小説〝レオンに恋して〟。ヒロインのリリアンナがヒーローのレオンに恋をして、様々な障害を乗り越えて愛し合う恋愛物語だ。とにかく純愛、純愛、純愛。読んでいる側が思わず恥ずかしくなってしまうほどの綺麗な愛なのだ。ドロドロとした愛情はない。
一般企業に勤める新社会人、
(実写映画公開、ついに明日ね。楽しだわ……! 俳優さんも豪華だし、主題歌も最高だし。公開日に合わせてわざわざ休み取ったんだから楽しまないと損よ!)
夕焼けに向けて拳を突き上げる。行き交う人々が
〝レオンに恋して〟の実写版映画の公開日が明日に迫る中、紗南は浮かれていた。そう、足元に転がっていたフンを踏みつけてしまうくらいに。
「っ!?」
購入したばかりのヒールの底にフンがべったりと付着してしまった。明日は映画の公開日だというのに不運だと
「え?」
振り返った時には、もう遅かった。何が起こったかも分からないまま、気がついたら地面に倒れていた。じわりと地面に
(明日、映画の公開日なのに)
残念ながら、映画を観に行くことは叶いそうになかった。
照川紗南。待ちに待った日を明日に控えながら、
目を覚ます。長い眠りから覚めたような、そんな感覚。両親より先に天国に来てしまったのか、と思いながら見を起こした。起き上がった
「あれ……」
ふたつの記憶が
自身の手を恐る恐る見つめたあと、景色を見渡す。病院ではない。こんな中世の城の内装をした落ち着かない病院があってたまるか。怪我をした直後の体に無理を言って、走り出す。シミひとつない鏡の前に立ち、自身の姿を見つめた。
「私、前世の記憶を思い出したの?」
なぜ、そう思うのか。それは、鏡に映る人物を見れば、
紗南が暮らしていた世界ではない。〝レオンに恋して〟の世界の悪役。ベルガー帝国名門エルヴァンクロー
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