1-23b 祭りのクライマックス 2

「合計点を発表します! 1班ロナ、1万2447点! 対する24班キリ、6万4504点!! 勝者、24班!!」


 おおおおお!!と、メインコート中から怒涛どとうのようなどよめきが沸き上がり、声と拍手による振動がビリビリと建物を震わせる。

 そんな中、後方で控えていた24班の面々が、レフリーの合図でコート中央に集められた。リューエストは一番に霧の元に駆け付けると、抱きついて叫ぶ。


「ああ、キリ! 素敵だったよ、最高だったよ、素晴らしかったよ! コート中に響いた君の表現には、この場にあるすべてへの愛が込められていて、誰もが嬉しそうに顔を輝かせていた! 君が妹で、僕は本当に誇らしいよ!!」


「ちょ、ちょ……リューエスト、恥ずかしいから!」


 霧が焦りながらリューエストを引き離すと、リューエストは霧の手をそっと握った。そしてそのまま、霧をエスコートしながらコート中央の周囲を歩き始める。観客の歓声に応えるため、手を振りながら。

 霧は恥ずかしさのあまりリューエストを突き飛ばして逃げ出そうかと思ったが、諦めて引きつった笑みを観客に向ける。そのとき、チラ、と視界の隅に1班の面々が見えた。彼らはガスティオールが怒り心頭な様子で吠えているのを、困った顔でなだめている。

 アデルはガスティオールの悔しがる様子を小気味よく眺めながら、勝利班の一人として観客に手を振り、霧とリューエストのすぐ後ろを歩いていた。そのかたわらにリリエンヌが並び、トリフォン、アルビレオが続き、24班の面々は観覧席に手を振りながらコート中央をぐるりと回る。

 拍手と歓声が鳴りやまない中、レフリーは霧たちのそばに立ち、再び声を上げた。


「ご来場の皆様、本日はえある古城学園の新入生バトルに、ようこそお越しくださいました! 本年の新入生はご覧のとおり、期待の新人が目白押しで、皆さまも心行くまでお楽しみいただけたと存じます。最後のバトルは特に素晴らしかったですね!」


 観覧席から「おおおお!」という同意の歓声が鳴り響く。レフリーはうなずきながらコート中央の対象物の置かれた場所まで移動すると、トルソーに飾られたTシャツを手で示しながら再び口を開いた。


「勝者の24班の新入生には、なんとこちらのTシャツをプレゼント! ダサい文字がネタを提供して、友人知人との交流に笑顔が咲くこと、間違いなしです!」


 先程の霧の表現をもじったレフリーの発言に、ドッと場内が笑いに包まれる。

 レフリーは続けた。


「皆さんもこのTシャツ、気になってるんじゃ、ないですか? 欲しいですよね? そうでしょそうでしょ、欲しいでしょ! ご安心ください、売ってます! なんと今なら、エントランス売店からの出張売り子が皆さまの客席へとワゴン販売に参っております! 24班の方々とお揃いのチャンスですよ! 今日の楽しい思い出に1枚、ご家族に数枚、更にご友人へのお土産に何十枚! 売り切れの際はご予約も承りますので、是非!」


 レフリーの宣伝文句と共に、商品を乗せたワゴンが次々と登場した。Tシャツやらミニチュアやら、今回の対戦に使われたアイテムがどっさり積まれている。トリフォンが感心して、そっと小声でツアーメイトに話しかけた。


「ほっほっほっ、さすがじゃ。売れると見込んでワゴンまで出してきたわい。どれ、孫への土産にわしも何か買っておくかのう」


 トリフォンの楽しそうな様子に、リリエンヌがふんわり笑う。


「わたくしはあのミニチュアが欲しいですわ。アデルは?」


「辞典ホルダーが欲しいな。審判妖精のぬいぐるみ付きのやつ」


「審判妖精のちっちゃいぬいぐるみ、あたしも欲しい!!」


「そう言うと思ってもう買っておいたよ、キリ! ホラ! お兄ちゃんとおソロだよ!」


 24班の面々がそんな風におしゃべりしながら観客に手を振っている間も、辺りは騒然とした熱気に包まれていた。そんな中、レフリーが〆の挨拶を始める。


「では皆さま、一年に一度の魔法士学園新入生バトル、これにて終幕と相成あいなります!この後もどうぞ、各コートにて開催される競技をお楽しみください!! 最後に決勝バトルを彩ってくれた24班と1班の輝かしき新入生、そしてすべての新入生たちに、大きな拍手を!」


 割れるような拍手の中、方々ほうぼうから「良い入学旅行を!」と叫ぶ声が届く。よく見ると観覧席には紺色のショートケープを身に着けた新入生たちがあちこちにいる。彼らもまた、観覧者たちから「良い入学旅行を!」と笑顔で声をかけられていた。


(ああ……この世界の人たちは、心から、辞典魔法を、辞典魔法士たちを、魔法士学園を、そして表現バトルを愛してるんだな……)


 霧は心の奥底から熱い思いがわき起こってくるのを感じた。人々の熱気と拍手、エールの声に身を浸し、泣きそうな気持になってくる。この場にいる幸福感で、胸がいっぱいだ――そう自覚すると、何とも言えない甘酸っぱい、うずくような感情が喉奥からせりあがってくる。


「みんな……ありがとね」


 霧は震える声でそう呟く。

 その声は歓声にかき消されて、優しくコート内に溶けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る