聖女一行と大帝国
帝都から命からがら逃げかえってきた聖女一行。
その体たらくはアルムガルドの国民たちに不安を植え付けるのに一役買っていた。
聖女ですらこの混沌とした世の中を正すことはできない。
いずれ魔の時代がやってくる。
ただ、そんな中で一筋の光が見出されていた。
「この国を出て行ったテオドール第三王子が魔王軍を壊滅に追い込んだらしいぞ」
「嫌われ王子と言われていたけど、真の勇者は彼じゃないのか?」
「むしろテオドール王子を嫌っていた聖女様やジークハルト王子の方が悪じゃないのか?」
「俺たちも逃げ出すか?」
そんな言葉が街中でも囁かれるようになっていた。
暗い表情を浮かべながら王城へ戻ってきた聖女たち。
国王に帝国での出来事を報告し、失望されたところだった。
「ちっ、なんでこんなに色んな所へいって魔物と戦っている俺たちが悪なんだ!!」
ジークハルトは部屋の壁を思いっきり殴りつけていた。
「仕方ありませんよ。私たちは結果を出していませんから」
ミハエルは悔しそうに口を噛みしめていた。
「それがそもそもおかしいだろ! なんで俺たちが結果を出せないのに
「……おそらくは汚い手でも使ったのではないでしょうか? 食事に毒を盛ったりとか」
「ひ、ひどい……。そんな人の所業とも思えないことがどうしてできるのでしょうか」
聖女ミリアが口に手を当てて驚きの表情を浮かべる。
「それが平気でできるから嫌われなんだろ? ちっ、すぐそばにいたら俺が殴り飛ばしてやったのに」
「それにしても嫌みったらしい人ですね。わざわざ私たちの妨害をするなんて」
一切妨害もしておらず、魔王軍の壊滅も偶然の産物なのだがそんなことは知る由もなく、一方的に
「そんなことを言ってはいけませんよ。テオドール様も魔王から人の世を解放するために持てる力を尽くしてくれてるのですから」
「それがあいつが今いるリンガイア王国に秘密裏に魔王が訪ねてきたって話だぞ?」
「えっと、あの国は確か結界で守られているから魔族は入れないはずじゃ……?」
「だからこそ何か裏があるとは思えないか? 実は結界なんてなくてあいつらが魔族を隠した。それで秘密裏に今回の帝国崩壊を引き起こした、とか?」
「あなたにしてはいいところを突きますね。私も同様の考えですよ」
「ならあいつをぶっ飛ばせば終わりだな。これで国民たちも目が覚めるだろう」
勝手なことを言って勝手に敵認識をするジークハルト。
「……勝手に動いていいの? 国王様に聞かなくても?」
いつもは眠そうにしているキールが珍しくしっかりと目を開き聞いてくる。
「どうせあいつに聞いても帰ってくる答えは変わらないぞ? 勝手にしろ、以上は言ってこないはずだ」
「……そう」
もう興味がなくなったのか、それ以上キールが何かを言ってくることはなかった。
そして、国庫にある武器を適当にかっさらったジークハルトたちは再びリンガイア王国へ目指し、歩を進めるのだった。
◇◇◇◇◇◇
その後ろ姿を眺めていたのは第一王子ルーベルトであった。
「計画通りにあいつらはリンガイアへ行ったか?」
「もちろんです。あれだけ嫌われ王子のことが賞賛されれば彼らは黙っていられないでしょうからね」
「人気取りのために色々と動いてもらっていたが、それもそろそろ限界だろうからな。ここらで私のために消えてもらうとしよう」
「しかし、なにもそのために帝国を消さなくてもよかったのでは?」
「元々はそんなつもりはなかったのだ。かの帝国の最終兵器たる賢者さえ手に入ればそれで……」
「その割にはすぐに手放されてましたが?」
「まさか絶世の美少女と聞いていたのにあんなちんちくりんだとは思わないじゃないか!? すべては彼女を手に入れるために準備した作戦だったのに」
手を固く握りしめるルーベルト。
その手からは血が滲み出ていた。
よほど悔しい出来事だったのだろう。
残念ながらそのことは報告してきた貴族には理解されなかったが。
「まぁ、王国の敵を一つ潰したのだからいいじゃないか」
「それはそうですが、あまり戦力を削ぎすぎると大帝国が襲ってくるのでは?」
「あぁ、あれか。あれは問題ない。そもそもあれは私のものだからな」
「……はぁ?」
貴族が思わず聞き返す。
「仕方ないだろう。この国は奴隷が禁止なんだ。そうなってはあの子もこの子も俺のものにできないではないか。ならば奴隷が許可される国を作るしかないであろう」
「で、ですが、かの国は普通の方法では行くことができない国で……」
「そんなもの、
「はぁ?」
貴族が呆けていた。
どうやら本当に知らないようだ。
「まぁいい。嫌われが魔族の勢力を削ぎ落してくれたおかげで今周辺で危険な国はない。一気に大陸を統一するチャンスだ。聖女が蹂躙されたとなると一気に開戦ムードになるからな」
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