6.0

右半身の痛みと共に風が吹き抜けた窓から抜け出して自転車に乗らば

この匂い知っとんなと思い探す野良猫がまだ食べたことのないカレーの味を覚えた

あの人優しいからもっとくれと呼ぶ

もっとくれ

もっとくれ

あの人死んだって

ああそうなの

あの蔦が絡まった家の陰で死んどったって

ああそうなの

なら仕方ないね


腹斜筋の痛みと窪みをなぞる度に何故だかあの川沿いでアイツと話した日々を思い出すのかもしれないしそうじゃないのかもしれない

これはスイッチに似ていてオレの記憶を取り戻すためのナニカ一助になるのかもしれない忘れた記憶などないのに忘れた気がするから

その感覚をメタ的にとらえ直す作業がどれだけ無為なのかをなんとなく知っているけどオレにとっては大事なこと


ああああ

すごい匂いだな

ほら今年も野良猫が川辺の茂みで腐っていく季節が来たよ

イヤーな匂いがするよモノが腐る匂いがするよだからすぐ横を通り過ぎるよ確認するのも怖いから死体の中の黄色い粘膜なんて到底見れたものじゃない見たいものじゃない見たいものじゃないけど

もっとくれ

もっとくれ

あの人しんだなら

もっとくれ

もっとくれ

もうないのね

もうないよね

なら仕方ないね


夏っていう季節は多分梅雨明け前が一番臭い

街の中の生物が占める領土

攻めてきてる

オレらの砦に攻めてきていてコワイな

うんもっと身体を硬くしていくこと

うんもっと身体を硬くしていくこと

もっと身体を硬く

硬く

硬く

硬く

シミなったらこまるから

オレら以外が

オレに

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