5.5
夏前の豪雨が土瀝青を突刺す響きに対して、「悟 aka str」は大して何も思えないでいた。ましてや、それが他人の腹横筋を基節骨で貫く響きと同化することなど、あり得なかった。
悟は雨が嫌いだ。蒙昧とした気圧差と湿度は、彼の脳波の揺らぎを鈍臭くさせる。彼はこの梅雨の時期にだけ、古に閉ざされた筈の彼の大泉門が再び、炎天下に晒された条鉄の如く、僅かに隙間を作る。そこから爛れた様相の前頭葉が「高温サウナみテェなこんな囹圉から早く出してくれェ!!!!!!!」と叫び、無理やりにそれをこじ開けようと前頭骨を軋ませる。
……みたいな痛みが、彼を悩ませた。朝起きれば蒙昧としてるし、気分転換に外を走り出そうとすれば頭痛が痛いし……何も思い浮かばないし……何もやる気起きないし……友達からは「はーーしにてえ」だけライン送られてくるし……オレはオレでそれに何か返そうとも思わネエし……めんどくせえし……オレだって死にてえシ……いや、ウソだけど……みたいな戯言を、彼は脳内で反芻させながらカラッとした夏が訪れるのを待っていた。その最中、突然、肩峰辺りの触覚が騒ぎ始めた。
「悟クンってさ、運動得意なんだよね」
「ンぇ」
「今度の体育祭の話合い中なんだけど、人数色々足りなくて、悟クンに色々出てもらえたらなァって」
「アァ」
「今入ってるのバレーボールだけでしょ? 良ければ騎馬戦とバスケにも出て欲しいんだけど」
「イヤ…マァ」
「え、日本語話せてる?w」
「」
彼はただ、涎が垂れてクシャクシャになったプリントを手で覆って隠すことに集中してしまっていた。それでいて、自分のフケが肩に落ちていないか、とか、そういうことばかり気にしていた。どっちにしろ、関わりの無い女子生徒に対し、こういう風に求められるのは彼にとって少しばかりの緊張感を齎した。
「イヤ、別に……なんでもイイけどェ……w」
「オッケー☆⌒d(´∀`)ノ じゃあ、バレーとバスケと騎馬戦、ね。今日の放課後それぞれで話し合いあるみたいだから、イイ感じに参加したげて! 話はつけとくから」
「アァ」
その女子生徒は足早に悟から離れていった。
彼は心の中で、密かに闘魂の
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