4.5

 「クソっ垂れが」と言って独りにやけるのが彼の趣味だ。それをすると、悟の心は少し慰められるのだ。アスファルトに灰の混濁した粘り気のある髄液を吐き出すことと同じように、少しばかり社会から吐瀉物を流し込まれるような感覚を覚える、その行為を辞められる術を彼はまだ知らなかった。

 対象を定めて、弄る。


 虚飾、不誠実。せっかち、焦り、憤り。無鉄砲な悪意、それこそガキである特権。馬鹿、アホゥ、髪の毛の艶が無い女児。黄色い出っ歯に、吊り上がった眼。どもり。やり過ごすための不衛生な笑み。○○菌。全部、彼の心をそっと撫でるような存在だった。


 そのような対象を定めて、弄る。それが根本的に気持ちイイ行為なのだと、幼少期の彼は言語化せずとも理解できた。「フツウは人は人のことを殴らないよ」と、中学一年の春に、とある女に悟は諭された。それ以来、彼は無差別な暴力を断った。


 高校生になった悟の携帯電話に、その女からの着信があった。


「久しぶりィ」と、粘膜のような声をしていた。

「どしたの」

「いやぁ、悟くんサ……ワタシ、ヤッちゃった」

「なにを」

「せっくす」

「はあ」

「もゥ、すっごい気持ちよかったーーーワタシ、二回も気絶しちゃったモンw」

「はあ」


 悟の頬骨は硬く、高く留っていた


「ワタシ、悟くんのことイイと思ってたんだよw」

「はあ」

「悟くんは童貞卒業した?」

「まだ、だ、けど」

「ふぅん」

「……」

「……ねe」

「デブスがw」(ここで電話を切る)

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