飛び、跳ねるように。
雨世界
1 約束だよ。絶対だからね。
飛び、跳ねるように。
本編
約束だよ。絶対だからね。
「……君、ぼくのことが見えるの?」
四月の突然の雨の中で、小学校六年生の女の子、木立木蔭が家の近所にある神社の社で雨宿りをしていると、そこにはお賽銭箱の隣のところに立って、ぼんやりと雨の降る空と、それからときどき、神社の境内に生えている緑色の大きな木々を眺めている、髪型をポニーテールにした私服姿(翡翠色のワンピース)の霰と同い年くらいに見える、小学生の女の子がいた。
その女の子は突然降り出した雨の中を走って神社の中に避難してきたびしょ濡れの木蔭のことを見て、すごく不思議そうな顔をして、そう言った。
「うん。もちろん、見えるよ」
神社の社の短い階段のところに立って、木蔭は言った。
木蔭の言葉を聞いて、女の子は目を丸くして驚いた。
それから女の子は軽い足取りで木蔭のすぐ近くまでやってくると、「本当だ。ぼくの姿が見えるだけじゃなくて、ちゃんと言葉が通じてる」
と、そんなことを木蔭に言った。(木蔭はなにをいっているだろう? この子は? と思って少し変な顔をする)
木蔭がそんなことを考えながら、じっとその女の子の姿を見ていると、女の子はにっこりと笑って、それから木蔭のいる階段の段に下りてきて、(女の子の動きを目で追っている)木蔭のすぐ目の前までやってくると、そっと、その小さくて綺麗な白い右手を木蔭に向かって差し出した。
「よろしくね。ぼくは、飾。東雲飾って言うんだ」
と言って、木蔭が自分の手を握るのをその体勢のままでじっと待った。
木蔭はそのさしだされた手と飾の顔を交互に一度見てから、「……えっと、よろしく」と小さな声でそう言って、飾の手を遠慮がちに握った。
「うん。よろしく」
と飾はもう一度、よろしく、と木蔭に言った。
それが木蔭と飾の初めての出会いだった。
「……木蔭は変わってるね」
と神社の階段のところに木蔭が座って本(有名なファッション雑誌)を読んでいると、柱の横に立ってのんびりと空を見ていた飾が木蔭にそう言った。
「私が? どうして?」
本を読んでいた木蔭が顔をあげて飾に言う。(木蔭は白のティーシャツとミニのデニムのジャンパースカートを着ている。足元はスニーカーだった)
「変だよ。だって、ぼくが幽霊だってわかったあとも(めちゃくちゃびっくりはしていたけど)ぼくのこと全然怖がったりしないしさ。もちろん、ぼくの姿が見えたり、声が聞こえたり、それどころかこうして、ぼくと『手と手をつなぐことすらできる』って言うんだから、これはもう変わっているというよりは、木蔭の『変な力』のようなものかもしれないね」と飾は木蔭の手をぎゅっと握りながらそう言った。
「どうもありがとう」木蔭は飾に手を握られるままにして笑顔でそう答える。
それから飾は木蔭の座っている神社の古い木の階段の横に自分も腰を下ろして座った。 『本物の幽霊』である飾には、体重というものがほとんどない。(魂の重さというのだろうか? 本当に少しだけ(数グラムくらい)飾には質量というものがあった)
だから、飾が古い階段の上に座っても、ぎいぎいする音は全然しなかった。(まるでそこに東雲飾という幽霊の女の子なんて本当はいないのかもしれないと、木蔭が思ってしまうほどに……)
「それで木蔭はこうしてその変な力を使って、物珍しい幽霊のぼくとお話をすることで、毎日のように学校帰りの放課後の時間を神社で潰している、ということだね」
「うん。そうだよ」
木蔭は飾の言葉ににっこりと(満面の笑みで)嬉しそうに笑ってそう言った。
木蔭は飾とこうして小学校の帰りの放課後の時間に神社で一緒にお話をするのが、本当に大好きだったからだ。
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