夢に戸籍があるわけがない

アテもなく三分くらい歩いただろう。さっき時間を確認しようとしたスマホはなんか消えていた。街並みを見るに西洋っぽい。判断基準が和風か住宅街かトカイかソーテルヌしかないからそれ以上分からない。ちなみにクイズにでてくるのはトロッケンベーレンアウスレーゼが多い。寒いかもしれないが貴腐ワインは甘いので冷やすくらいが美味しいらしい。




流石に人に聞いた方が良さそうだ。


「すいません。道に迷ったんですがどこに行けばいいとかありますか?」


絶妙に話しかけられそうな人がいたので話しかける。


「そっちに屯所がありますからそこなら分かりますね。」


「ありがとうございます。」


屯所、明治とかその辺の交番の呼び名だった気がする。中世か?


そのまま指さされた方向へ歩いていく。夢なのに不便だ。日本語が通じるだけマシだが。




屯所に来たわけだが交番と町役場が合わさったものが一番近い。


僕は市に住んでいるから町役場の規模は知らないが市役所より小さいから多分役場だろう。


待合室は既知のスケールダウンだ。設備がレトロである。


整理券を手で受け取る。番号は10番、暫く待たされそうだ。なにか読んで待とうか。


そういえば、夢の中での本の内容はどうなるのか。


辞書に不可能が印刷されていないとかあったりするのか。


いや、そこまで僕は馬鹿じゃない。


「整理券番号10番のかた。こちらへどうぞ。」


ほぼ待たされることなく窓口へ通される。待ち時間が嫌だという意識が反映されたのか。


「ご用件は何ですか。」


そういえば外見について触れてこなかったが極端なアンチルッキズムだからではない。


理由を言えば冷たい人間に見られる可能性がある。


人の顔をすぐに忘れる。顔から目を話した二秒後には顔がもう思い出せない。


三歩歩けば忘れることを鳥頭と言うが僕のことは半減期に合わせて炭素15脳と呼んでほしい。


カウンターの窓口だ。


「記憶をなくしてしまいました。」


「悪戯ですか。最近多いんですよ。身元の確認をしますね。」


悪戯が最近多いのはどうなんだ。


「正確にはこの町に来てからの記憶がないんです。こんな紙がポケットに入っていました。」


謎の紙を渡す。何かわかるだろうか。


「一応見ます。…はい、分かりました。次こちらに手を当ててください。」


暫く席を外された後に、水色の水晶が目の前に置かれる。


「年齢 19」


「え、これどういうことですか。」


水晶の色が変わっているが多分そのことで驚かれてはいない。


身元の確認ができるはずなのに年齢しか出てこなかったことに驚かれている。


多分本当は戸籍とか出てくるんだろう。


これからどうしようか。

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