チューチュー・トレイン
雑貨店に依頼の手紙が来た。なんでも鉄道関連の仕事らしい。
店主はゆるふわ系ワンピースからガチのつなぎに着替えた。
そしてウェーブがかったミディアムヘアをヘルメットに押し込んだ。
そして蒸気機関車に乗り込み、集合場所である北セポール駅に到着した。
途中、大橋や
このあたりは市街地に比べると乾燥しており、気温も高めだ。
駅から降りると作業員らしい男性が声をかけてきた。
坊主頭に丸々とした体型で、おにぎりのような印象をうける人物だ。
暑い場所だからか、白のランニングに作業ズボンを履いている。
「あんたが。例の嬢ちゃんか? うっす。おらはバーバー。今回は手漕ぎトロッコをセポール駅まで運んでもらうだ。万年人手不足でな。猫の手もかりたいとこだよ」
腕がいいと聞いて頼んだのに、やってきたのは肉体労働の"に"の字もなさそうな少女だ。
バーバーは額に手をやった。
「ま、やるこた簡単だ。交互にレバーを押してトロッコを進めりゃ良い。力仕事だが、リズムさえ掴めば流れにのってける。とりあえず行くべ」
そして2人はトロッコに乗り込んだ。
押して動力とする向かい合ったレバー。
そして床板と車輪がレールの上に乗っているだけだ。
壁はないし乗り込むと言うほど大したものではなかった。
この鉄道は一車線であり、駅で入れ替わるようになっている。
よって列車が走るのは上りが下りがのどちらか1本である。
シエリアは丸い水筒をちゅーちゅーと吸った。
バーバーはそんな彼女へ
「ほらいくどぉ!! ほれ、いっちに!! いっちに!!」
シエリアも掛け声をあわせて精一杯こいだ。
「いっちに!! いっちに!!」
全く戦力にならないかと思われた雑貨屋だったが、意外と筋が良かった。
順調に進んだ2人は休憩をとった。
「トラブルなんたらさん。なかなかやるでねぇか。気張りすぎるとバテちまうでぇ。休み休みいくべぇ」
街の北にはセポール・キャニオンという
そのため、線路は崖っぷちの高所を走っていた。
思わずシエリアは線路脇を
「うわ〜高いですね〜。落ちたら助からないですね…」
高いところが平気な彼女はドライにそうつぶやいた。
「んだな。もし、こんな時、ぽっぽが突っ込んできたら逃げ道はねぇだな」
シエリアとバーバーはゆったりとトロッコを
作業員はこまめに時計を確認しながら作業を進めていく。
「あたりめえだどんも、次のぽっぽまで時間があるでぇ。このまんまなら丸々1時間くれぇ休んだとしても追いつかれるこたぁねぇでな」
やがて、
市街地の北部のシュレイン湖がキラキラ輝いて見えた。
そこにかかる大橋を抜ければ目的地に到着する。
その時だった。キャニオンの方からけたたましい
恐る恐る振り向くと山の合間から黒い鉄の塊が走ってくるのが見えた。
そう。蒸気機関車が襲いかかってきたのだ。
「そんなバカな話があんめぇ!!
バーバーは震えた。シエリアも震えた。
「滅茶苦茶速いじゃないですかぁ!! 追いつかれちゃいますって!!」
トロッコはまだ
こんなところから飛び降りたらひとたまりも無いし、橋脚を降りる余裕もない。
かといって列車に後ろから追突されれば同じく高所から落ちることになるだろう。
それどころか
バーバーはだらだらと大量の脂汗あぶらあせ流した。
「おれらが助かるにゃ必死こいてトロッコこぐしかねぇ。だどもそれにゃ大橋も越えてセポール駅まで滑り込むしかねぇだよ…」
バーバーはあまりにも厳しい現実に手を止め、膝をついてしまった。
少女もうなだれた。
(あ〜〜、無理だよ〜!!列車より速いスピードでセポールにたどり着くなんて!!…ん⁉ そうだ!! これを忘れてたよ!!)
雑貨屋は
そして
「さぁ、
相変わらず彼女はボトルをチューチューしている。
シエリアは
ボトルの中身はエリキシーゼのエナジー・フレーバーだ。
これには興奮作用、筋力アップ、スタミナアップの効果がある。
カフェインが多く、中毒性があるのが玉にキズだが。
シエリアが足手まといにならなかったのは、このアイスのおかげだった。
彼女はそれを溶かし溶かし飲んでいたのである。
そして2人の激闘が始まった。
「「いちにいちにいちに!!」」
列車がガンガンスピードを上げて迫ってくる。
「プオップォーーーー!!」
流石に人力では無理がある。みるみる接近を許してしまった。
はねられそうで、はねられないギリギリの状況になった。
そして湖の上の大橋にぬける。
だが、駅はまだ見えない。
するとシエリアは吸ったボトルをバーバーに渡した。
ノドの乾いていた彼もそれを思い切りすすった。
もはや間接キスがどうこうなどど考えている余裕はない。
そして2人は
それが効いてシエリアとバーバーはまたあがき出した。
火事場の馬鹿力というのは恐ろしいもので、トロッコは列車を突き放して一気に加速した。
その速度はゆうに時速100kmを超えた。
エナジーフレーバーの効果か、シエリアとババーは快感を感じていた。
まるで絶叫マシーンに乗ったときのようなそれである。
このまま走れば空気と一体化して風になれる。その域まで達した。
シエリアもバーバーも
あっという間にセポール駅が迫る。
「いいだか。ブレーキをかけたら構内下のくぼみに飛ぶだ。おらぁ緊急スイッチを押して列車を止めるだ!!」
非常に危険な作業に少女は戸惑った。
「そんな!!」
バーバーは首を左右に振った。
「いんや。こりゃおらの仕事だ。おめえはよくやってくれたで。チューチューアイス、最高だったなや!!」
ブレーキがかかって速度が落ちると、シエリアは構内に逃げ込んだ。
駅のエアバッグが
バーバーは間に合わなかった。
そう思った直後、彼が列車の間から親指を立てているのが見えた。
鉄道会社に
……今回はいつになくピンチだった気がしますが、スリリングで楽しかったです。
だからか、鉄道恐怖症にはならずに済みました。
ただ、あれ以来、エナジー・フレーバーにハマってしまいまして。
1日にアイスカップ5杯くらい食べないとソワソワしてしまう…というお話でした。
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