7つの水瓶、8ツの釜

店主はシエリアの店の閉店作業を終えた。

そして表通りに繰り出して、夕飯の買い出しにいった。

会計が終わると店のおばちゃんがチケットをくれた。


「なになに……商店街の福引? おー!! 当たってくれればいいなぁ!! 景品はなんだろう?」


そして彼女は回すタイプのガラポンの前に行った。


「えっと……1等賞はジンザネ島の南国バカンスツアー。2等賞はセポール温泉チケット、3等賞は商店街の欲張り飲食店クーポン……か」


上位景品だけあってどれも豪華である。

やはり1位の南国ツアーが魅力的だ。

当たったとすれば数日間、店を空けることになるが休養としてなら許してもらえるだろう。


妄想もほどほどに彼女は手に念をこめてガラボンを回し始めた。

チャンスは一回。ハンドルを回していたシエリアはピタリとその指を止めた。


「カラン……コロン……」


マシンからは銀の玉が出てきた。

受付のおじさんが大きく目を見開いた。


「あーっとぉ!! 2等のセポール温泉チケットが大当たりだーッ!!」


さすがに当たると思っていなかったので、少女はとても驚いた。

このチケットはそれなりに高額だ。普通に買うには勇気がいる。

少女がチケットを受け取ると周りが祝福の声を上げた。

思わず彼女は、はにかんだ。


「えへ……えへへ……」


翌日に休店のお知らせを出し、その次の日をまるまる休暇にした。

セポールの郊外には露天温泉がある。

温泉7女神像と呼ばれる彫像があり、それが持つ水瓶みずがめから温泉はいている。


どこからか本物の温泉を引っ張ってきているとかいないとか。

それでも効能はそのままであるので本家とは遜色そんしょくない。


ただ、入場料が高いので一般家庭がしょっちゅうという訳にはいかない。

たまに来るくらいの贅沢ぜいたくなレジャー施設である。

 ここの特徴は男女混浴で水着を着て入浴することだ。


シエリアは吹き出す温泉の美しさと、人々のくつろぐのどかな雰囲気に癒やされた。

しばらくゆっくりすると、少女はその場で服を脱ぎはじめた。

当たり前だが、下に水着を着ている。

そういうところはひどく子供っぽかった。


彼女は水着をあらわにして、ピンクのウェーブをお団子にすると露天温泉に浸かった。

フリルをふんだんにあしらった水色のフレアビキニである。

それは彼女の可愛らしさにピッタリだったが、同時に貧しめなボディラインがくっきり出た。


普段はゆったりした服を来ているので、店の客には体型がわからない。

さすがにそれに触れるのは余計なお世話だったが。


綺麗に洗った桃色のミディアムヘアは艶つやを取り戻した。

温泉水で顔もマッサージすると目の下のクマも消えていった。

白い肌もつるつるすべすべになっていく。

体で感じられるほどの効能が出てきた。


「うわぁ……高いだけあってすごい温泉だなぁ。いつ来てもこれはいいねぇ……」


シエリアは手足を伸ばしてくつろいだ。

熱風師のサウナ、薬草湯、ワイン風呂、打たせ湯、全身浴、ジャグジー、足湯、温泉ウォーキングなども完備されている。 

こうして彼女は7つの湯をふやけるまで堪能たんのうしたのだった。


売店ではフルーツ牛乳を買って、一気飲みした。


「ぐびっ、ぐびっ、ぷはぁ!! やっぱフルーツに限るよ。うんうん!!」


彼女は火照ほてった身体を冷やすとロビーから出た。

建物の外に出ると突如とつじょ、クラッカーを鳴らされた。

シエリアは驚いて飛び退いた。更にパン、パンと音がなった。


「うひゃあっ!!」


男性の声が聞こえる。


「おめでとうございます!! あなたは記念すべき5万人目のお客様です!! 感謝の気持ちをこめて、釜亭がまていのフルプレートセットの食券を贈呈ぞうていいたします!!」


少しずつ目を開けるといつの間にかシエリアは表彰されていた。

数え切れないほどの大人数に注目されて彼女は冷や汗がでた。

だが、すぐに気を落ち着けた。


そしてピースサインを出しながらあたりざわりのないコメントをした。


「5万人目、とてもラッキーで嬉しいです!! 食券はありがたく受け取らさせていただきますね!!」


彼女はここぞというときに度胸を発揮するタイプだったりする。

会場は拍手に包まれた。


「えへ……。えへへ……」


ようやく静かなところにやってきて少女は一息ついた。


「ふぅ。なんだかすごく疲れちゃったな。でも5万人目ジャストなんて本当にツイてるね」


彼女はもらった食券を確認した。


釜亭がまていかぁ。よく行くけど、フルプレートセットは頼んだことがないなぁ」


それを眺めているうちにお腹の虫が鳴った。


「ちょ、ちょうどお昼どきだし、とりあえず行ってみよう」


表通に出てしばらく行ったところに釜亭がまてい・セポール店が建っている。


秘伝のスープをやっつのかまている事が店名の由来らしい。

チェーン店がいくつもある有名店であるから万人に知られている。


シエリアが店に入るとウェイトレスがやってきた。

基本的には大衆食堂だが、高級な料理も取り扱っている。


「お一人様ですか?」


そう聞かれて、少女は食券を差し出した。


「はい。このフルプレートセットをお願いします」


カウンター席が空いているのに1人だけ客席に案内された。

シエリアは広い部屋でゆったりくつろいだ。


「フルプレートって確か高級料理だった気がするんだけど、いくらくらいなのかな?」


メニューで見たことがないので、彼女はその値段を知らなかった。


「どれどれ……うっ!!!!」


他の定食の10倍を超える金額だ。

さすがのセレブランチだとパンピーはただただ驚くしか無かった。

そうこうしている間に料理がやってきた。

様々な豪華グルメがプレートに集結する。


故にフルプレートというわけである。

食材を仕入れ、料理が得意なシエリアにはその真のゴージャスさがわかった。

食べながら素材を確認しつつ味わう。


(うわ〜。これは穴掘りビーフのステーキ!! 断崖だんがいワシのもも肉のソテーもある!! この尻尾はまさかのダイオウグソクエビのフライ!! 更に青いサラダはお化けマッシュ!!スープは丁寧に絞られた黒モモの絞り汁!!そして大事な主食パンは高級モッチ麦!!)


かなり量はあったが、おいしさのあまりあっという間に平らげてしまった。


「ふ〜。おいしかったけどお腹いっぱいだよ」


彼女が食休みしているとデザートがやってきた。


「これが皇帝バナナと女帝イチゴのパフェになります」


甘いものは別腹。そう自分に言い聞かせて少女はデザートを完食した。

こうして彼女は休日を満喫して家に帰った。

これでまた明日から雑貨屋としてもトラブル・ブレイカーとしても頑張れる。

そんな事を思いながら彼女はベッドに入った。


……福引でチケットが当たったのでお出かけしました。

温泉は気持ちよかったし、フルプレートとパフェもすごく美味しかったです。


今思い出したら八やツ釜亭がまていといえば…!!

ウナッ、ウナッ、ウナギこわ……で、でもウ、ウウナジューはおいし……こわ、うま…というお話でした。

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