クーデレVR配信っ娘の話
@atla-tis
プロローグ
「おはよ。れいチャンネル、今から配信する」
コメント
・わこつ!
・待ってました!!
・相変わらずの無表情。
・声に感情が出ないタイプか?
・俺たちのれいちゃんだからなぁ……
僕の名前は空条玲。現在高校二年生で、今年17歳になる。身長は170cmくらいで、体重も50kgと平均的。顔立ちだって悪くない、はず。ただちょっと目つきが悪いけど。
そんな僕は今、動画配信サイト『YourrTuube』通称『よるつーべ』という動画投稿サイトで活動している。主にゲーム実況を行う配信者。……ただし、本業は配信者にあらず。
「それじゃ、早速ウオーミングアップ開始」
僕の宣言と共に、ガイコツの戦士が辺り一面に現れる。その数はざっと100を超えていた。
コメント
・相変わらずシュール
・もはや初期Vtuberだろレイちゃん
・↑【03】ガイコツと戦ってみた
・↑四天王時代か。確かにあの時のVtuberの動画はVR空間を生かしたものが多かったな
・VRゲームの中で配信できるなんて、いい世の中になったものだよ
・この数を相手に一人で戦うのかw
・奴の名は『スカルキング』最強レベルの雑魚敵だぞ。この数を相手にするなんて無謀だ。
・↑初見乙。レイちゃんなら余裕だから
ガイコツの集団が僕に向かって突進してくる。それに対して僕は……。
「ふっ!」
軽くガイコツの攻撃を避けると、そのまま地を駆け抜けながら剣を振り回した。するとガイコツたちは次々とポリゴンとなって消えていく。そして最後に残った一体には……。
「やっ!!」
力一杯振り下ろした大剣によって、最後の一匹も消えた。こうして今日最初の戦闘が終わる。
コメント
・うおおおっ!?
・なんだ今の攻撃速度は!?
・まるで、しなやかに降り注ぐ雪のような動きだったぜ……
・さすが『雪撃の剣姫』様
・人間離れした動きを平然とやってのける女。それがレイちゃんの正体である。
・これは期待できそうですね。
画面上に表示されるコメント欄では驚きの声が上がったり、感心したりする人がいた。……そう、僕はかなりのゲーマーなのだ。それも普通じゃないほどに。
「ふう、ちょっと休憩」
息を整えてから、部屋のベッドに横たわる。……うん、気持ちいい。
コメント
・気持ちよさそう
・癒されるぅ~
・ゲームの中で寝るのか。壊れるな常識
・……今は、配信中だよ(小声)
・ゲームをしながら配信しつつ眠る女
・↑強い
視聴者の言う通り、ここはゲームの世界であり現実ではない。人気VRゲーム『Defective World Online』通称『DWO』と呼ばれるゲームの中だったりする。いわゆる仮想世界という奴。僕は今、DWOの『エントランス』という場所で配信している。
『エントランス』はプレイヤーの家のような場所であり、そこではいろいろなことが出来る。ここからフィールドに出て冒険することも出来るし、今みたいに室内でトレーニングをすることも出来る。テレビをつけてソファーで横たわりながらゲーム内のニュースを見ることも出来るし、フレンドを呼んで雑談することだって出来る。
……でも、僕にとって一番大切なのは対戦機能である。僕はベッドから起き上がり、対戦するための装置をいじる。
「ロール:ファイター、動画投稿:許可、ルーム:フリー。マッチング、開始。……今日は息抜きにフリー対戦にする」
こうすれば、知らない人と気軽にチームを作って対戦することが出来る。ランダムで選ばれたチーム同士が勝負することになる。……まぁ、結構マッチまでに時間がかかるんだけれど。ロール(役割)が被らないようにチームを組まなきゃいけないからしょうがないか。
コメント
・待ってました!
・わくてか
・わくわく そわそわ
・やっぱこれを見ないと始まらないよね
・俺もこのゲームはしてるが、レイちゃんほどの実力はないんだよな。
・なんせトップランカーの『雪撃の剣姫』様だからね。
うーん、なかなか始まらない。全14人の内、まだ3人しかマッチしていないし。……とりあえず、コメントでも読みながら待つしかないかな? 僕は流れてきたコメントを読むことにする。
コメント
・れいちゃあああん!!!
・れいたん可愛いんじゃあ^~^
・はやくれいちゃんの無双が見たい
・れいちゃんの剣さばきは神業
・↑凄まじいよな
・剣姫様の動きが凄すぎてバグが発生しないか心配
・↑『雪撃の剣姫』様、ゲームの処理速度を超える可能性あり
・↑それはそれで見てみたいなww
・運営の想定外の強さを誇る剣姫様
「前回の放送でも言ったけど、恥ずかしいから変な称号で呼ぶの止めて? 僕は普通のプレイヤーだから。それに、僕の動きがコンピューターを越える訳がないし」
ネタコメントに対して、ツッコミを入れる。変な称号で呼ばれるほど、僕は特別なプレイヤーではない。それに、みんなこのゲームを甘く見すぎ。最新型のサーバーを利用したこのゲームは、思考してから行動を起こすまでの間がほとんどなく、現実世界と同じように動くことが出来る。つまり、処理能力に優れている。僕がどんな動きをしたとしても不具合なんて発生しないだろう。
コメント
・↑それが出来るかもしれないのがれいちゃんなんですが?
・過大評価されすぎて草
・↑マスターランク・ランク1位のレイちゃんをなめるな
・ランク1は最強だからな
「あ、やっと始まった」
コメント欄を見て楽しんでいる間に、どうやらマッチングが終わったようだ。装置には14人の名前が記され、7人ずつに分かれている。確認してからしばらく経った後、部屋の中にアナウンスが流れる。
『これより、会場に転送します。ご武運を』
その言葉と共に、僕の意識が一瞬にして切り替わった。目の前の景色が変わり、気付けばそこはコロシアムのような場所に立っていた。
「……準備完了。始めようか」
呟いてから数秒後、戦闘開始の合図が鳴る。僕は一番近くの敵プレイヤーへ向かって走り出し、大剣を振り下ろす。
コメント
・速いっ!?
・初手攻撃とは積極的だな。
・↑それだけレイちゃんが本気ということだろう
・まさに、剣技『瞬閃』と言うべき斬撃
・流石、『雪撃の剣姫』様だ
「…………ふっ」
相手も反応が早い。僕の一撃をジャンプで回避し、地面に着地するとすぐさま反撃を仕掛けてきた。しかし、それを紙一重でかわす。そして再び大剣を振るう。今度は相手の剣とぶつかり合う。鍔迫り合いになり、お互いの力で押し合った。その際、衝撃により距離が離れ、相手の顔を見る余裕が出来た。……えっ、嘘でしょ?
「驚いた。まさか、こんなに小さな女の子がここまで強いなんて」
「…………それは、私の言葉。何故、あなたは私と互角に戦ってるの。まるで理解できない」
僕と戦っていたのは、小学生ぐらいの少女だった。プレイヤーネームは『リーゼ』。僕より身長が低く、可愛らしい容姿をしている。髪は銀色をしており、瞳の色は青色だった。服装は黒を基調とした鎧に、白銀のマントを着用している。……綺麗な子だけど、何か怪しい雰囲気。
コメント
・強い(確信)
・幼女強すぎるだろ
・見た目詐欺にも程がある
・もしかして、ロリババア?
・↑そんなの現実にいないからwww
・まさか、『雪撃の剣姫』様が小さな子供に負けちゃうのか?
・ないない。マスターランク・ランク1位の剣姫様が幼女に負けるはずがない
・レイちゃんはランク1だから、どんな相手でも絶対に勝つぞ!
……女の子に驚くのは後でいいや。今は戦況を確認してみよう。時間がたって場面も動いただろうし。
ええと、低耐久のアサシンが両チームともリタイアしている。防御力自慢のナイトがお互いにが切り合っていて、後衛職がそれぞれをサポートしている感じか。……僕達ファイターは、完全に無視されてるみたい。道理で何も飛んでこなかったわけだ。現在、戦況が2つに分かれてる。
僕達の隣で、大人数による戦いが繰り広げられていた。防御力自慢のナイトを中心に、魔法や弓矢、ヒーラーの回復魔法が飛び交っている。……うーん、ちょっと近づきにくいな。今はとりあえず、目の前の敵に集中しよう。今回のような意思疎通の困難な野良チーム戦の場合、避けれる集団戦は避けた方が勝率が高くなるのだ。
僕は少女に向かって駆け出す。向こうは剣を構えて迎え撃つ体勢を整えてる。僕は相手に肉薄し、横薙ぎの攻撃を放った。
「…………甘い」
彼女は後ろに下がって攻撃をかわすと、すぐに反撃してきた。僕は剣を盾代わりにして防ぐ。金属音が響き渡り、火花が散った。剣を押し返しながら後退すると、少女は追撃するために距離を詰めてきた。剣を横に振るい彼女の攻撃を受け流す。そのまま剣を滑らせ、腹を狙って突きを放つ。
しかし、彼女も僕と同じように剣を滑り込ませて攻撃を防いだ。僕は身体を捻りながら、回転斬りを繰り出す。しかし、彼女はバックステップで回避し、こちらから距離を取った。
「……やる」
彼女の呟きと同時に、僕は地面を蹴って飛び出した。剣を両手で握りしめ、力任せに振り回す。しかし、全て避けられてしまった。なので、さらにスピードを上げて少女を翻弄しようとする。しかし、彼女は冷静に対処してきてなかなか攻撃が当たらない。
コメント
・これは熱いバトルだ
・『雪撃の剣姫』様が押されている?
・↑かなりピンチなんじゃないか?
・でも、なんだかレイちゃん嬉しそう
・ピンチなのに、笑っていやがる!?
・彼女の頭には、逆転の一手が思い浮かんでいるのか?
・↑多分違うんじゃないかな
「…………ここまで熱い気持ちになったのは久しぶり。どう、私とフレンドにならない?」
「お断り。ちょっと戦ったくらいで熱くなるなんて、クールじゃない」
目の前の彼女が僕に語り掛けてきたけど、丁重に断る。今は戦闘中、友達になるかどうかは後で決めたい。そう考え冷たい言葉を放ったのだが、何故か彼女に笑われてしまう。
「…………そういうあなたも、ほおが緩んでる…………やっぱり面白い」
「生憎、僕は強い相手と戦うとこういう顔になるだけ。別に、熱くなってるわけじゃないから」
僕は剣を握る手に力を込め、再び攻撃を仕掛けていく。しかし、彼女に受け止められてしまう。そして、鍔迫り合いが始まる。お互いに一歩も譲らず、押し合う。
「…………楽しかったよ、レイ。今度は私の番。これから、猛攻を仕掛ける。つまらないから、すぐに果てないでね」
「リーゼこそ、簡単に負けちゃダメだから」
鍔迫り合いを止めて、お互い距離を取る。ここからは、小手調べなしの本気勝負だ。
「…………行く」
相手の声と共に、こちらへ走り出してくる。僕も同時に動き出し、彼女との距離が縮まっていく。同時に武器を振り上げ、衝突した。衝撃により、お互い吹き飛ばされる。けれど、空中で一回転すると、地面に着地した。直後、僕達は再び走り出し、お互いの武器をぶつけ合った。そこからは激しい打ちあいが始まり、何度もぶつかり合った。その度に衝撃が発生し、周囲の地形を変えていく。
お互いに、強力な斬撃をぶつけ合う。衝撃により、再び僕らは空中に放り出された。今度は先ほどよりも高く舞い上がり、上空から戦況を見渡すことが出来た。ナイトとナイトが切り合い、ヒーラーが回復魔法を放ち、ウィザード達が魔法による遠距離攻撃を放っている。先ほどと同じような光景が続いている。
だが、しばらく経つと状況が動いた。敵のナイトがリタイアしたのだ。その結果、こちら側が一気に有利になった。味方の軍勢が、敵の後衛職に向かって突撃していく。
……でも、なんかおかしい。どうして僕は空中にいる状態で、戦いをじっくりと見ることが出来ているのだろうか。普通ならそんな余裕ないはず。疑問に思い、リーゼの位置を確認してみる。
……僕の隣には、空中にとどまっているリーゼの姿があった。
「…………なんか、私達ずっと飛んでるみたい」
「……そうだね」
コメント
・どういうことだってばよ
・え?
・いやいやまて、飛んでるぞ
・さすが『雪撃の剣姫』様。俺たちにできないことを平然とやってのけるッ
・レイちゃんの困り顔が見えるw
・↑リーゼちゃんの困り顔も可愛い
・やはり、『雪撃の剣姫』様は最強だな!
「……なんか、私のチームの負けみたい。楽しかったわ、『雪撃の剣姫』」
「え、なんで……」
リーゼが空中にとどまりながら自チームの敗北を宣言する。それはいいんだけど、……何故僕の事を雪撃の剣姫と呼んでいるんだ? それは、配信内だけで使われている呼び方のはずなんだけれど。
コメント
・レイちゃん可愛い
・レイちゃんはぁはぁ
・これで『マスターランク・ランク1位』の称号は守れたな
「…………レイちゃん可愛い、レイちゃんはぁはぁ、これで『マスターランク・ランク1位』の称号は守れたな」
「どうしてっ、それは……」
おかしい。その言葉は、今流れているコメントだ。どうしてそれを、リーゼが知っているのか。…………まさかっ!
「……変なのが、見えてる。…………やっぱり、リーゼは面白い」
「…………」
僕の顔が、赤くなるのが分かった。完全にコメントが流出している。恥ずかしいし、怒りが湧いてくる。
これは恐らく、ゲームの不具合だ。不具合によって、僕の配信のコメントが晒されてしまっている。僕たちが空中に留まってしまった事と、関連があるかもしれない。
「雪撃の剣姫様っ、俺たち勝ちましたよ!!!!!」
「横からちらっと見ていたが、ナイスファイトだったよ、雪撃の剣姫様っ!!!!!!!」
「滅茶苦茶強いリーゼちゃんを引き付けてくれてありがとう。おかげで勝てたよ、雪撃の剣姫様っ!!!!!」
僕が下に降りると、味方チームの人たちが口々に感謝の言葉を述べてきた。僕はどう反応すれば良いのか分からず、「……どういたしまして」とだけ返すことにした。……うう、やっぱり恥ずい。
コメント
・あーこれは確定ですね
・【悲報】レイちゃん、動画のコメントを対戦相手にさらされてしまう
・レイちゃん、ドンマイ!!
・切り抜き班、仕事しろよ
・お顔が真っ赤のレイちゃん可愛いwww
・これは流石に草
・『雪撃の剣姫』様可愛いよwww
このままゲームを続ける気にはなれなかったので、配信を打ち切り現実世界へ戻る。そして、そのままリアルベッドに飛び込んだ。
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