第144話 戦線合流(3)共鳴

「しない!」


 テンマの物騒な問いかけに、銀次は即座に反応した。


「……というより、したとしても一先ず落ち着け。アンタもだ浅霧局長。俺達がアンタ等と敵対するつもりだったなら、端から各地で手間の掛かる救助活動なんてしていない!」


 銀次の言葉は、テンマと浅霧の双方に向けられ、その声には有無を言わさぬ強さがあり、一触即発の空気を強引に引き戻そうとする意志が込められていた。


 それにテンマは不満げに頬を膨らませながらも、銀次の視線を受けて大きく息を吐いた。


「……はいはい、分かったよ!もう、ようやくどっちの方が強いか白黒付けられそうだったのに…」


 まるで楽しみにしていたイベントが中止になった子供のような口調で呟きながら、テンマは周囲に張り巡らせていた風の気配を徐々に和らげていく。


 その変化を察したのか、浅霧もまた、先程まで放っていた殺気をゆっくりと収めていった。


「やれやれ…夜叉君も相当厄介だと思ったけど、君も大概ヤバそうだね。一瞬肝が冷えたよ、本当に天災級?」 


 そして、浅霧は軽く肩を竦めると、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「でも、散々手を貸してもらっているのに疑って悪かったね。その点に関しては素直に謝るよ」


「本当だよ!全く失礼しちゃうね!僕等が居なかったら今頃どうなっていたことか!」


「ははは、それはご尤も。正直マジで助かってるよ。でも、ほら…君達って良くも悪くも読めないところあるじゃない?だから、この程度の警戒は勘弁して欲しいな」


 その言葉に、テンマと銀次は思わず顔を見合わせる。


 確かに、過去を振り返れば心当たりがありすぎた。遊び半分で能管の任務に介入したり、わざと騒ぎを起こして場をかき回したり…。


「うぅ、それを言われると被害者ぶれない…」


「そうだな。自業自得という言葉がこれほど似合う状況もそうそうない」


 テンマは気まずそうに視線を逸らし、銀次もただ頷くしかなかった。そんな2人の反応を見て、浅霧は小さく笑みを漏らす。


「まぁ、過去は過去。今は協力できるなら、それが一番だよ……だから、君達も思うところがあるのは分かるけど、そう殺気立たずに一先ずは落ち着いて?」


 そして、自分の背後で未だ威嚇する猫のようにテンマや銀次を…いや主にテンマを睨み付ける2人を宥める。


「…分かりました。局長がそう仰るなら、私も一時的に手を組むのも吝かではありません。実際、彼等のお陰で被害が格段に減少しましたし。まぁ、とはいえ一部でヒーロー扱いされてるのは未だに納得いきませんが…」


 森尾が淡々とした口調で協力の意を示す。その言葉には個人的な感情よりも合理性を優先する彼女らしさが滲んでいた。


 一方で、火焚は苛立たしげに口を開いた。


「いや、物分かりの良い森尾ちゃんはともかく、アタシは借りがあるあのチビにだけは絶対一発入れるよ!そうしなきゃ気が済まない!」


「火焚さん。話がややこしくなりますから、今は待てです。待て…」


「森尾ちゃんさ、いい加減そのナチュラルに煽るのやめてくれない?下手すりゃ、アイツより腹立つんだけど?」


「煽る?」


 きょとんとした顔で首を傾げる森尾に、火焚の眉がピクリと動く。


「も、いいわ…どうせこんな状況じゃ満足に戦えないし、勝手にすれば。なんか今のでどっと疲れた」


 通じているようで全く話が通じない森尾の天然度合いに火焚は諦めたように深いため息をつく。そして、後はどうとでもなれとばかりに投げやりに浅霧を見る。


「よ、よし…何にせよ、とりあえずの了承は得られたみたいだし、一先ずはこのまま協力する方向でいいかな?」


「まぁ、目的が合致している以上は、僕等も別に異論はないけど…今のを合意って事にしちゃうんだね。めちゃくちゃタメ口利かれてるし、なんか僕の想像してた局長像と大分違うんだけど」


「…そう言ってやるな。俺も驚いたが、あれで意外と苦労してるんだろう。世の中間管理職ってのは意外と肩身が狭いらしいからな」


「…あれ、なんか俺同情されてる?」


 そう浅霧が微妙な表情で呟いた瞬間、その場の空気が少しだけ和らいだ。そして、緊張が解け、ようやく会話らしい会話ができる雰囲気になってくる。


 銀次はその機を逃さず、表情を引き締めて浅霧へと向き直った。


「…それで、浅霧局長。率直に聞きたいんだが、能管側は今回の異常現象についてどこまで把握しているんだ」


 少なからず因縁がある相手とはいえ、協力すると決めた以上は情報共有は必須。


「正直な話、俺達はこの場に異常を感知して急行しただけで、現時点ではこの瘴気が有害だってことしか分かっていない。だが、アンタ達は俺達より先にこの場に来ていたはずだ。何か掴んでいるんじゃないか?」


 その言葉に、浅霧は少し苦い表情を浮かべる。


「んー、情報源として期待してもらっている所、言いづらいんだけどさ…正直に言うと、こっちもその点に関してはあまり役に立てそうにないんだよね。君の言う通り、俺らも異常を察知してすぐに動いたんだけど、着いた時にはもうこの有様でね。だから、原因の究明どころか、周辺の避難民を移動させるので精一杯だったよ」


「そうか。お前達ならもしやと思ったんだが、そういうことなら仕方ないな」


 周辺に民間人がいないと分かっただけでも収穫だ。これで随分と動きやすくなる。


「だが、この異常現象を阻止するには、いずれにせよ原因を突き止めるのが先決だろう。それに関して、何か策や意見はあるか?お前達の先程までの装備を見るに、発生源とまでは行かなくとも、発生地付近にまでは行ったんだろ?」


「まぁ、逃げ遅れた避難民の確認も兼ねて少しだけね。でも…」


 浅霧は言葉を区切り、そこで一度息をついた。


「発生地付近の…いや、正直な所、俺達が到達した地点が発生地付近なのかさえ定かじゃないけど、瘴気の毒性が想定を遥かに超えていてね。原因まで辿り着く前に撤退せざるを得なかったよ」


「へぇ…それって、君程の能力を持っていてもどうにもならなかったってこと?それなら正直ちょっとガッカリなんだけど」


 テンマが首を傾げながら問いかける。その言葉には悪意はなく、ただ純粋な疑問が込められていた。


 それに浅霧は小さく首を横に振る。


「いや、今みたいに一時的に難を凌ぐだけなら出来ないことはなかったよ。でも、それをするには問題が山積みでね。あの状況では、いずれにせよ一度この場まで戻ってくるしかなかったんだ」


「問題?」


「そう問題。大まかに分ければ二つね」


 そう言って、浅霧は指を一本立てる。


「一つは、瘴気の拡散速度が尋常じゃないこと。毒性が強いのは言うまでもないけど、それ以上に厄介なのが拡散の速さだ。普通、毒性の強い瘴気というのは重く、広がりにくい性質がある。でも今回のものはその性質を差し引いて尚、積極的に広がろうとしていた」


「それはつまり…発生装置が性質を上回る勢いで有毒物質を生み出しているということか」


「そういうこと」


 情報を整理するように続けられる銀次の言葉に、浅霧は肯定するように相槌を打つ。


「事の深刻さは、現状を鑑みれば火を見るよりも明らかだよ。俺達がここに着いたのは、ほんの一時間前やそこらだったけど、その時点ではまだこの辺りは十分に安全地帯だったんだ。でも今はこの通り、スキルでの分散を少しでも緩めれば、たちまち瘴気に覆われてしまう。この調子だと、原因を探っている間にも被害範囲がどんどん広がっていくだろうね」


 浅霧の説明を聞きながら、テンマはふと何かを思いついたような表情を浮かべた。


「まぁ、理屈は分かるけどさ。でも、それなら僕が単独で発生源まで行ったら簡単に解決出来るんじゃない?風を操れば瘴気をある程度押し退けられるだろうし、機動力ならこの中の誰にも負けない自信があるよ。素早く元凶を見つけて排除すれば、被害の拡大も防げるんじゃない?」


 テンマの提案は銀次にも一見合理的に思えた。


 しかし、その言葉が終わらない内に、浅霧は食い気味に首を横に振った。


「いや、マナが有り余って仕方ないって言うなら話は別だけど、そうでないなら流石の君と言えどやめた方がいい」


「どういうことだ?」


「んー、毒性についても補足するとね、これは通常の瘴気とは明らかに異質なんだ。この辺りの薄い瘴気程度ならともかく、濃い瘴気に直接触れた場合は、恐らく瞬間的に細胞レベルでの侵食が始まる。だから、例え防護服や防護結界を張っていたとしても、時間稼ぎにしかならない…おまけにそこに視界不良まで加わるとね。正直、偏に発生源を探すといってもそんなに簡単じゃないよ」


「元凶に近付けば近づく程、必然的にマナの消費も激しくなる訳だな」


 浅霧の話に銀次は堪らず眉を顰める。


 マナの底が見えない快ならともかく、豊富なマナを備えたテンマとて無限にマナがある訳ではない。ここ数日と戦い続きで満足な休息が取れない中となれば尚更。事実、いつもなら直ぐに反論しそうなところを悔しげに押し黙っている。


 恐らく、マナの底が見えてきているのだろう。


 そして、それは俺も同じ。全く戦えない程、消費している訳ではないが、決して考えなしに使って良いほど余裕がある訳ではない。


 となると、必然的に能管メンバーも同じということになる。ここ数ヶ月で能管の面々がどれだけマナの総量を底上げしていたとしても、その総量はそれよりも前から日常的にマナの器の拡張をしてきた鬼灯メンバーよりは遥かに劣る。


 それでも強引に活路を開くという選択肢を取れないこともないが、その後の戦闘や不測の事態を想定した場合は、やはり主力となるテンマや浅霧局長のマナの消費は極力抑えるべきだ。


 連戦に次ぐ連戦による消耗。恐らくはこれらも全てアヴァロンによって仕組まれた事なのだろうが…


「…ままならないものだな」


 銀次が険しい表情で頷く。


「全くもって同感だよ。まぁ、何かと大胆な行動を好む君達からしたらこれは消極的な選択に映るかもしれないけどね。そこは一つ理解してくれると助かるよ」


「はぁ…まぁ、確かにまどろっこしいけどこればっかりは仕方なさそうだね。こっちはこっちでボスからの命令もあるし、下手に動いて状況を悪化させる訳にもいかないから、一先ずは君の判断に従うよ」


 テンマがそう言って渋々といった様子で頷くと、浅霧は安堵したように小さく息を吐いた。


「助かるよ。まぁ、君達のことだから最終的には好き勝手やるんだろうけど、今だけは大人しくしていてくれると嬉しいね」


「…で、二つ目の問題って?さっき大まかに分ければ二つって言ってたよね」


 テンマが話を本筋に戻すと、浅霧は「ああ、そうだったね」と指を二本立てて見せた。


「それで、二つ目だけど…って、これは単純に君達の気配を感じたからだよ」


「…僕達の?」


「そう、君達の。だってこんな見るからに危険地帯の中に自らやってくるのなんて明らかに怪しいでしょ。普通に考えれば、十中八九この事態を生み出した元凶だよ。まぁ、これに関しては完全に杞憂だった訳だけどね」


 そう言い、浅霧は肩をすくめて見せた。


「…まぁ、こんな状況なら疑われても仕方ないな」


 銀次は納得したように頷く。確かに、客観的に見れば自分達の行動は不審極まりない。


「まぁ、少なくとも君達が敵じゃないと分かった今、こうして情報を共有できるのは大きいよ」


 浅霧はそう言って、周囲の瘴気に目を向けた。徐々にではあるが、確実に濃度を増しているのが分かる。


「とはいえ、時間もあまりないし、そろそろ本題に入ろうか」


「はいはい。それで、結局のところ具体的にこれからどうするの?本題って事は既に何かしら瘴気の拡散を防ぐ算段は考えてあるんでしょ?」


 テンマの問いかけに、浅霧は真剣な表情で答えた。


「一応ね。ただ、それに関しては、君達がこの場に来たのは嬉しい誤算だったよ」


「というと?…因みに期待される前に一応言っておくけど流石の僕でもこの街全体に広がった瘴気をどうにかするなんてのは無理だからね。僕は世界で2番目に強いけど、等級で言えば中級に過ぎないんだから」


「ははは、世界で2番目とはまた大きく出たね。でも、期待しているのは別の部分だから大丈夫だよ」


 浅霧はそう言うと、手のひらに薄い水の膜を浮かび上がらせた。それは瘴気を遮断する結界の縮図のようで、淡く青白い光を放っている。


「瘴気の拡大を防ぐやり方は至ってシンプルだ」


 そう前置きをして、浅霧は説明を始める。


「俺のスキルで瘴気が広がる街一帯を丸ごと包み込む。言葉を選ばずに言うなら隔離だね。そうすれば、少なくとも被害の拡大は防げるはずだ」


「確かに単純だが有効な解決策ではあるな。これだけ派手な技なら上手く行けば、潜んでる奴等がいた場合、そいつらを炙り出すきっかけにもなる。だが、それは相当な負荷がかかるんじゃないのか?」


「あぁ、その通り」


 銀次が示した懸念を浅霧は確認事項とばかりに率直に認める。


「これの問題点は二つある。一つは、俺自身が連戦に次ぐ連戦で既にマナに余裕がないこと。だから、結界を発動した後は、戦力としてはあまり役に立たなくなる」


「なるほどな。都合が良いと言うのはそのことだな」


「そういうこと。だから、君達には戦力として大いに期待しているよ。なんせ、この国を代表する厄介者集団だからね、その力を遺憾無く発揮しておくれよ…そして、あわよくば俺を…俺達をしっかり守ってくれ!」


「局長、そのお願いは流石に図々しくて能管の体面が悪いです。大変な戦闘を一任するのは良いですけど、せめて最低限の自衛くらいはしましょう」


「いや、それフォローになってねぇから。森尾ちゃんも大概図々しいから…」


 こんな状況でもコントのようなやり取りを繰り広げる上司2人の態度に火焚が呆れたようにため息をつく。


 それに、テンマは特に気にした様子もなく話を先に進めた。


「…まぁ、守る守らないの話はともかく、戦闘に関しては僕1人でも十分だと思うから、とりあえずは分かったよ。それでもう一つは?」


「拡散する瘴気を無理に抑え込むことによる毒の濃度上昇だな」


 テンマの問いに、浅霧に代わり銀次が深刻な表情で続けた。


 そして、浅霧もその銀次の言葉に同意する。


「理解が早くて助かるよ。結界内に閉じ込められた瘴気は、行き場を失って濃縮されていく。つまり、結界内部の毒性は時間を経る毎にどんどん強くなっていくんだ」


「となると、攻略の鍵となるのはやはり一にも二にも時間だな…この瘴気を生み出している正体が何であれ、結界発動後どれだけ迅速に元凶を取り除けるかに掛かっている」


 厳しい状況なのは間違いない。


 しかし、メンバーを考えれば十分に現実的なラインに思える。素の肉体的な耐久性に優れた獣化能力を持つ森尾に、限定的といえど毒に有力な効果を発揮する火を操る火焚。


 恐らく、浅霧局長はこういった事態になる事も見越して、毒性に対するある程度の抵抗力を有するメンバーを選んだのだろう。


 臨機応変に動く柔軟さといい、その思慮深さには驚かされる。


「だが、浅霧局長……承知の上だとは思うが、この作戦は言うまでもなく、アンタが一番リスクを負うことになるぞ」


 能力者にとって、マナは生命線だ。厳しい状況を打開する力であり、命綱そのものと言える。戦場でマナが枯渇することの重大さは、平時の比ではない。例えるなら、鳥が空中で羽をもがれるようなものだ。


「まぁ、そうだね。でも、他に方法がない以上は、やるしかないでしょ」


 浅霧はそう言うと、瘴気に覆われた空を見上げた。


「このまま放置すれば、被害は長野全域…いや、下手をすれば周辺の県にまで及んでしまうことになる。それだけは避けなければならない」


 そして、視線を銀次達に戻し、どこか申し訳なさそうに笑った。


「それに…理由が何であれ、君達がここまで尽力してくれたんだ。多少のリスクがあるからって俺だけ安全策をとる訳にはいかないよ。といっても、結局は君達頼りになるんだけどね…ってことで、改めて任せてもいいかな?」


 銀次の最後通告とも取れる言葉に、浅霧が当然とばかりに淡々と応えると、その場の全員が沈黙した。


 やがて、銀次が口を開いた。


「…分かった。やろう」


「僕も異論なし」


 テンマがすぐに続ける。


「君とはいずれ決着をつけないといけないからね。今死なれるのは僕も困る」


 そう言って軽く笑うと、いつもの余裕を見せつけるように付け加えた。


「要は敵が居たら速攻倒して、居なかったら速攻で発生装置を壊しにいけばいいだけでしょ。余裕余裕」


 その空気に後押しされるように、森尾と火焚も浅霧の覚悟に応えるように無言で頷いた。


「…感謝するよ。じゃあ、早速始めるよ。正直これ以上、広範囲に瘴気が拡散されると俺もキツくなるからね」


 そう言って、浅霧は静かに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


 次の瞬間、その身体から膨大なマナが溢れ出し始める。


 それは視覚化できるほどの圧倒的な量で、青白い光となって周囲を照らし出した。


『!?』


 その滝のようなマナの奔流に、テンマと銀次が思わず息を呑む。


 マナに余裕がない…先ほど、浅霧は確かにそう言っていた。それだけに、今この瞬間、目の前で放たれる膨大なマナの量は明らかに常識を超えていた。


 通常、マナの総量を底上げするには、一度すべてを使い切り、肉体と精神を引き裂くような尋常ではない痛みを乗り越えなければならない。


 しかし、浅霧がスキルを獲得し、その術を知ったのは去年の夏。年月から逆算すれば、その激痛を日に何度も経験しなければ、ここまでの出力には到底届かない計算になる。


 ——異常


 テンマと銀次は、その浅霧の姿に自然と自分達がよく知る人物を重ねていた。


「待て、浅霧局長」


 そして、銀次が前に出る。


「やはり俺も手伝おう。俺の持つ上級の錬成スキルなら、結界の構築を補助できる。余力を残すためにも全てとはいかないが、それでも恐らく3割程度なら無理なく負担を軽減できるはずだ」


 その言葉に、浅霧は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに小さく笑みを漏らした。


「助かるよ…って、薄々そんな予感はしてたけど、やっぱりあの時に夜叉君に奪われたスキルは君が獲得してたんだね」


 浅霧は苦笑混じりに呟く。


「はぁ、後の事を考えると既に頭が痛いよ。でも、今回ばっかりは都合が良い。じゃあ、改めて頼むよ。細かい調整は俺の方でやるから、君はスキルの発動に集中してくれ」


 そう感謝の眼差しを向けると、浅霧は再び目を閉じた。銀次もまた己のマナを解放する。


 2人のマナが共鳴し、やがて一つの大きな奔流となって濁った空へと昇っていく。


 そして、2人が同時に呟いた。


「水操術『凍界』」


「錬成系統術『鋼陣』」


 その瞬間、空中で収束したマナが一気に膨張し、青白い光の奔流が四方八方へと奔る。


 そして、それは天を突き、瞬く間に街全体を包み込んでいった。




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