第50話 お悩み相談


「つまり、【VR-14Sこれ】のせいで朱音さんが魔王じゃないかって疑われているってこと?」


「うん」


 反省して神妙に頷くボクを訝し気な表情で蒼ちゃんは尋ねる。


「なんでバレるに決まってるのにコピーなんかしたの?」


 も、もっともなご指摘です、蒼ちゃん。


「え~と……推しのアイテムが欲しかったから……かな?」


 あんまりなボクの返答に蒼ちゃんは、おでこに手を当ててげんなりした。


「もしかして、つくも君ってバ……意外と考えが短絡なところがあるのかな?」


 蒼ちゃん、そこは素直に「つくも君ってバカなの?」って言ってもらった方が良いかな。回りくどい言い方はかえってダメージが入るんだけど。


「も、申し訳ない……ミーハーなんで」


 ボクが面目なく頭を下げると蒼ちゃんは深い溜息をつき、ボクに確認を求めた。


「整理すると、この『魔王の憩所いこいじょ』はつくも君が望んだアイテムなら何でも生成できる――で合ってる?」


「うん、素材と情報は必要だけど概ね正しいかな。さすがに何でもって訳にはいかないけど……あ、もしかして蒼ちゃんも【VR-14S蘇芳オリジナル】欲しかった?」

 

「いりません」


 能面のような表情でぴしゃりと答える。


「え~かっこいいし、ボクとお揃いだよ」


「おそろ……いえ、やっぱりいいです」


 一瞬の迷いを見せるが、頭を振って邪念を追い払うときっぱりと否定する。


「……とにかく、ある程度想像通りの物が作れるなら私に良い考えがあります」


「え、そうなの。ぜひ、教えてよ。ホント困ってるんだ」


 ボクの懇願に蒼ちゃんは思いついた案を提示してくれた。



 ◇◆◇



「…………なるほど、わかった。その案、意外とイケるかも。次に配信する機会があったら、やってみるよ」


「ダメ元だけど、やる価値はあると思う……それより今回の件だけど、朱音さんにはどういう対応するつもり?」


「どういう対応って?」


「ほら、つくも君の性格だと、正体を明かして今回の件について土下座してでも謝るのかと思って……」


 土下座て……さすがにそこまでは。でも、確かにそうだ。今回の件で蘇芳さんに迷惑をかけてることは絶対に間違いない。自分の不注意でしでかしたことだから、正体を明かして誠心誠意謝りたい気持ちがあるのも事実だ。


「確かに、あおいちゃんの言う通りかも……」


「つくも君の気持ちはわかるけど、私はあまりお勧めしないかな」


「え?」


 清廉潔白で不正なことが嫌いな蒼ちゃんとは思えない発言だ。


「彼女の濡れ衣を晴らすことには賛成だけど、正体を明かすのはもう少し待った方がいいと思う」


「どうして……?」


「たぶん、つくも君は朱音さんに『他人には内緒にして欲しい』って頼むつもりだと思うけど、それが守られる保証が無いというか厳しいんじゃないかな。朱音さん、嘘つくの下手そうだし、意外と表情に出そうだもの」


 確かにまっすぐ物を言うところが蘇芳さんの魅力で、他人を欺くのに長けているようには思えない。


「ましてや、お父さんはあの蘇芳秋良さんで、迷宮協会日本支部の副支部長さんでしょ。バレるのは時間の問題な気がする」


 う~ん、あまりに説得力のあるお言葉。


「それに間違いなく他の探宮部員にもバレると思う。まあ、朱音さんに正体を明かすなら他の部員にも教える必要があるのかもしれないけど」


 探宮部のみんなで秘密を共有するってことか。確かに蘇芳さんにバラすなら、残りの二人に話すのも順当かもしれない。


「ただ、翠さんとはるかさんを信用していない訳じゃないけど、秘密を知る者が増えるってことは情報漏洩のリスクが増えるってことと同義だよ」


「じゃあ、あおいちゃんとしては?」


「最初に言った通り賛成できないかな……でも、つくも君がそのリスクも覚悟で話したいって言うなら、止めるつもりはないけどね」


 つまり、ボクが決断しなきゃならないってことか。


「別に今すぐ結論を出さなくても良いと思うよ。もうちょっと考えてみたら?」


 真剣に悩むボクに蒼ちゃんは心配げに言ってくれる。


「うん、ありがとう、あおいちゃん。いろいろ、よくわかったよ。もう少し考えてみて結論を出すよ」


「それがいいよ……ところで、つくも君。今後の活動の話なんだけど、『魔王配信』は続行するとして、探宮部の活動はどうするつもりなの?」


 探宮部か……。


「せっかく入部したんだし、ボクが抜けたら部存続の条件を満たせなくなるから、辞められないんじゃないかな」


「それはそうだけど……探宮するだけなら、『魔王』単独そろだけでも良い気がして」


「部活には部活の良さがあるし、何よりもあおいちゃんと一緒に探宮できる点が外せない理由かな」


「え? 別に『魔王』の従者として活動しても良かったんだけど……でも、そうか。それじゃ足手まといにしかならないか」


「あおいちゃんなら、そんなことないと思うけど。ただ、彩芽さんに宣戦布告しちゃったんだ。あおいちゃんと絶対にパーティー組むって」


 MyTubeでチャンネル登録者数100万人を越える人気探宮者『残像のアイリス』こと天川彩芽さん――あおいちゃんをスカウトに来た親戚のお姉さんにボクは宣言したのだ。


「彩芽お姉さんと? あれ、お姉さんと面識あったっけ」


 そういや、あおいちゃんが心配しないように彩芽さんと会ったこと話してなかったっけ。


「え~と……」


「どうやら、まだ隠し事があるみたいね」


 あおいちゃんはにっこり微笑んだ。





「へえ~、そんなことがあったんだ」


「はい、そうです」


 ボクは再び直立不動で答える。


 あ、決してあおいちゃんが怖いとか尻に敷かれているって訳じゃないからね。


 あくまでボクが自分を律しているだけだから、誤解しないように。


「彩芽さん、わざわざつくも君を面接しに行ったんだ」


「きっと、あおいちゃんのことが心配だったんだと思うよ。お眼鏡にかなったかどうかは自信ないけど」


「ううん、やっとわかったよ。彩芽お姉さん、スカウト断った後しばらく渋ってたのに、ある時いきなり『スカウトは諦めたから友達と頑張りな』って連絡が来て『?』ってなったの、それが理由だったんだ」


 納得がいったのか、蒼ちゃんは少し嬉しそうだ。


「まあ……だから、あおいちゃんと部活は続けるよ、パーティーのみんなで探宮するのも楽しそうだから。正体を隠しながらになっちゃうけど」


「了解、つくも君それで良ければ決定だね。じゃあ、そのためにいろいろ細かいルールを決めていこうか」


「ルール?」


「だって、つくも君。放っておくと何するかわからないでしょ」


「え~と……はい、ごめんなさい。仰せの通りです……」


 あっ、怖いわけでも尻に敷かれている訳でもないぞ、探宮を円滑に進めるための大事なルール作りだからね。



◇◆◇◆◇◆◇


 翌日は5月の連休ゴールデンウイーク中日なかびで学校があったので、あおいちゃんと一緒に登校する。


 教室に入ると、スマホを片手に盛り上がっているグループが一定数いた。人気アニメかドラマの最新話でも話し合っているのかと思えば、『切抜き動画』とか『魔王』などと不穏なワードがちらほら聞こえてくる。


 もしかして、けっこう話題になってる?


 気にはなったけど無視して通り過ぎると、隣を歩く蒼ちゃんが意味深な笑みを浮かべていた。


「な、何かな? あおいちゃん」


「いやいや、大人気だね、つくも君」


 笑いを堪えているような表情だ。


「もしかして馬鹿にしてる?」


「そんなことないよ、嫌だなぁ……くく」


 絶対に揶揄ってると憤慨して文句の一つでも言ってやろうとするが、聞き捨てならない会話が耳に飛び込んでくる。


「……嘘っ! 『魔王』の正体があの蘇芳さんだって?」


「しっ! 大声出すな。本人に聞こえたら、どうすんだ」


 やっぱり、あの噂は出回ってるんだ。


 そう思いながら教室を見渡すが、肝心の蘇芳さんの姿が見えない。まだ、登校していないんだろうか?


「朱音さん、まだ来てないみたいだね」


「うん、そうだね」


 蒼ちゃんも気付いたらしくボクと同じ感想を口にする。


 気にはなりながら席に着いていると、教室に入ってきた常磐さんがボクを見つけると急いで近寄って来る。


「おはよう、翠ちゃん」


「おはようございます、つくも様。一昨日は講習をご一緒していただき、ありがとうございました。とても楽しかったですわ」


「こちらこそ、ありがとう。後半戦もよろしくね」


「はい、もちろん……で、ではなくてですね。た、大変なことになってしまいました!」


 普段お淑やかな常磐さんとは思えないほど慌てている様子だ。


「何か、あったの?」


「朱音さんが……」


「朱音さん? まだ来てないみたいだけど……」


「朱音さんが迷宮協会に呼び出されたまま帰って来ていないのです……」


 あ、これマズい展開だ、きっと。


~~~~~

 あとがき

  第50話をお読みいただきありがとうございました。

 つくも君、完全に尻に敷かれていますねw

   まあ、夫婦(?)が上手くいく秘訣でしょう(>_<) 

   

   ※ 応援コメントお待ちしてます。

     モチベが爆上がりしますのでm(__)m

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