第29話 カウントダウン

「お前こそどうしてここに?命がけで街を護ろうなんてタマじゃないだろう?」

 実力はある。そのことへのプライドも持っている。しかし他人の利益を考えて行動するような性格ではないということが、相互協力を重んじるギルドにおいてのギュースの立場を悪くしていた。


「俺だって来たくて来た訳じゃねーよ。ちょっとばかりあいつらに借りが出来ちまったからな。そいつを返す前に死なれたら気分が悪いってだけだ」

「借り?お前がカインに?」

「うっせーな。悪いかよ」

 そう言うとギュースは気まずそうに顔を背ける。

 流血の跡にボロボロになった服。ああ――


「お前、死にかけ――」

「うるせえって言ってんだろうが!」

 ギュースは怒鳴りながら持っていた杖先を俺の鼻先へ突きつける。


「……結構義理堅い性格だったんだな」

「借りっぱなしはしょうに合わないだけだ」

 どうやらどこかで死にかけていたところをカインたちに助けられたらしいな。


「で、お前はどうすんだ?このままここで寝てるのか?」

「出来ればそうしていたいんだけどな」

「本気で言ってんのか?お前だって分かってんだろ。あいつらだけじゃ勝てないってよ。どうやったのかは知らねえけど、あの黒い奴はお前だったんだろ?あの時悪魔たちをぶっ飛ばした力じゃねえと、あのデカブツを倒すのは無理なんだよ」

「そうか?カインたちだけでも倒せそうに見えるけどな」

 実際に一方的と思える程に攻め続けている。

 このままいけば十分に倒せる気がするが。


『戦闘中の人間たちの残存魔力が二割を切っています。このままでは【力天使ヴィーチェル】のエネルギーを削り切る前に枯渇することになります』


 ああ、そういうことか。


「AI。今の俺は外部からの魔力干渉を受けることが出来るか?」

「……何の話だ?」


『可能です。【魔ギア】との融合により、魔力の入出力が可能になっています』


 今しれっと融合って言いやがったな。


「分かった。ギュース、お前の補助魔法をありったけかけてくれ」

 俺は身体の具合を確かめながら起き上がる。

 まだ多少の痛みがあるが、動けないことはなさそうなまでには回復していた。


『現在の身体損傷率22%。内臓機能回復率100%』


 それだけあれば十分だ。


「アベル……あいつらを頼んだ。」

 初めて見せる真剣な表情。

 俺はその目をしっかりと見ながら頷いた。


Make ready for input入力準備





「ソードスラッシュ!!」

「鉄甲斬!!」

「インパクトクラッシュ!!」

火炎槍ファイヤーランス!!」

 力天使と交戦しているのはカイン、ハンス、サレンとムルティのパーティ五名の計八名。

 彼らは即席のパーティとは思えない程の連携を見せ、互いをフォローし合いながら力天使を一方的に攻め続けていた。

 ヒットアンドアウェイを繰り返し放たれる斬撃。前衛を援護するように四方から飛び交う魔法。それらは確実に力天使のエネルギーを削っていたのだが。


「くそっ!まだ再生しやがるのか!」

「大丈夫です!時間さえ稼げれば必ずアベルさんが来てくれます!」

「アベルか……。まあ、今はそれを信じてやるしかねえなあ!!――鉄甲斬!!」

 ムルティの戦闘斧バトルアックスが輝きを放ちながら力天使の背中を大きく抉りとる。

 力天使は衝撃を大きくよろけながらも、斬られた箇所は瞬時に回復していく。


「なぜ ただの人間が ここまで の力を 持っている」


「おいおい……。このバケモノ喋れるのかよ……」


「残存エネルギー33% これ以上の消費は 帰還に影響 を及ぼすものと判断 しかし この人類を放置 することは 危険 よって 最優先事項を この人類たちの殲滅に変更 する」


「何か物騒な事言ってやがるな……」

「元々逃がすつもりは無いですから、これはこれで好都合でしょう」

「そんな簡単な話じゃねえと思うがな……」


熾天使セラフプログラム最終段階ラストフェーズに移行 全原子核融合を開始 保管 膨張後 解放」


 それまで光を放っていた力天使の身体が熱を帯び始め、その光が白から赤へと変化していく。核融合によって発生した高熱。そして膨大なエネルギーが力天使の体内に蓄積されていく。

 臨界点を突破し、全てが解放された場合は国土全てが灰塵と化す程のエネルギー。

 当然力天使も消滅を免れないが、このままカインたちを放置しておくことが、自らの本体ともいえる熾天使にとっては不利益であると判断。命への執着を持たない力天使は自爆することで後の憂いを消すことを決めた。


「――カイン!あれはマズイぞ!!」

「分かってます!何かされる前に潰しましょう!」

 力天使の異変に気付いた八人が一斉に攻撃を繰り出す。


「ソードスラッシュ!!」

「鉄甲斬!!」

「インパクトクラッシュ!!」

氷槍アイスランス!!」


Breath of God神の息吹


 力天使の周囲に巻き起こる突風。

 衝撃波ともいえる大気の壁が、向かってきていたカインたちを吹き飛ばす。


「うおっ!!」

「があっ!!」

「きゃあ!!」


 これまでは帰還の為のエネルギーを残す為に攻撃の加減をしていた力天使。しかし帰還することを放棄し、自爆への道を選択した力天使の全力の攻撃は、それまで何とか攻撃を防いできていた魔法障壁を完全に破壊し、接近していたカインたちは数十メートルほど吹き飛ばされて激しく地面に激突した。それでも皆辛うじて即死は免れたが、再び戦闘に復帰出来るとは思えない程のダメージを負っていた。



「臨界点到達 まで 残り 20秒」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る