第14話 適合者

 この世界の人々が苦しんでいるのは、全て地球人のせい……。

 その事実は俺の心を鈍い刃物で抉ったかのような重い痛みを与えてきた。


「奴らがそこまでしてこの世界に干渉してくる意味はあるのか?この世界の人たちは天使の目的も知らないし、こちらから攻め込むような事にだってならないはずだ……」

『それは天使たちにとって些細なことなのです。あの者たちにとって最も重要なことは、この世界には自分たちを斃し得る力が存在し、それは時が流れるにつれて大きくなっているということ』

「それはお前が兵器を創り続けているからだろう!」

『そうです。しかし、それがあるからこそ、未だにこの世界が天使や魔族に抗いながらも存在しているとも言えます』

「自分たちが原因を作っておいてよくそんなことが言えるな……」

『過去はやり直せません。今を、これからをどうするかが大事なのではないですか?』

「そんなことはAI機械のお前に言われるまでもない!!」

『それでしたら話が早いです。それではここからは本題に入らせていただきます』

「……これ以上に何の話があると言うんだ?」

『ここまでは現状に至るまでの補足のようなものですからね。まだあなたがどうしてここにいるのかの話はしていませんよ』

 ……ああ、そうだった。


『私は多くの対天使兵器を作ってきました。しかし、そのどれも【熾天使セラフ】と戦うには力不足なのは明らかで、何とか人類の数の力を持って魔族に抵抗するのが精一杯の状況が続きました。理由は簡単です。それまでの兵器は、使用者自身が持つ魔力を武器に流し込むことでその威力を増幅するというものだったのです』

「それのどこがおかしいんだ?そういうものを創りたかったんじゃないのか?」

『これで上昇するのは武器を用いた時の能力値なのです。それならば支援魔法バフなどを使っても同じことでしょう?』

 それすらも出来ない俺には何と返事して良いのかも分からない。


『そこで私は別の視点からアプローチすることを考えました。それが、体内にある魔力を爆発的に増幅させ、その魔力自体を戦闘に使用すれば良いのではないか?と』

「魔力を増幅させる……そんなことが……」

『魔力はエネルギーなのです。地球ではすでにその技術開発に成功していたのは先程お伝えした通りなのですが、これが人の体内にある魔力ということになると試験されたこともなく、全くの手探りでの試行錯誤が続きました。ああ、AI的には演算ですけれど』

「……それで、そのことがどうやって今の俺の状況に繋がるんだ」

『その兵器の開発には成功しました。理論上は【熾天使】に対抗し得るものに仕上がりました。しかし、それを人が使用するには非常に大きな問題が一つあったのですが……。つい先日解消されました』

 女はそこで目を細めて微笑んだ。

 嫌な予感しかしない……。


『あなたが「ヒュドラ」と心の中で名付けていた魔物は、通常の魔力による攻撃では倒せません。あの空間の中で使用された魔力はそのまま周囲に吸収され、ヒュドラの生命維持に回されるようプログラムされていたのです』

「はあ!?」

『最初の選考条件は「魔力を使わずに戦う者」。

 最終選考は「魔力を使わずとも戦うことの出来る技量と精神を持つ者」の選考、および――「魔力を使う事の出来ない者」を探し出すこと』

「魔力を使う事の出来ない者……」

『対天使用最終兵器「Magic amplifier Gia」。通称「魔ギア」の最大の問題点は、体内から魔力を取り出すことの出来る者に使用することが出来ないということだったのです。つまり、魔力が完全な密閉状態となっている、魔力を一切操ることの出来ない、周囲から「欠陥品」と呼ばれている出来損ないのあなたにしか使いこなせないものなのですよ』

「……少しは言葉に遠慮とかないのか」

『製作者の私が言うのもなんなのですが、本当にそのような者がいるのかということをこれまで幾度となく計算しました。しかし、何度やっても可能性が0とはならなかったのです。まるであなたという存在がいることを誰かが暗に教えてくれていたかのようにすら思えてしまいますね。そして適合は予想通り成功しました。私の計算は間違っていなかったのです!』


「おい……今、なんて……」


『すでに「魔ギア」はあなたの身体に適合しているのですよ!』



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