第3話 ダンジョン

「ではこれよりB班の侵入を開始する」

 ムルティの合図で俺やカインのいるB班二十人がダンジョンへと入っていく。

 三十分ほど先に入ったギュースたちA班。俺たちの目的は、A班が最初の分岐で辿ることの出来なかった通路側のマッピングおよび罠等の捜索である。狭いダンジョン内での行動を考えて、最初から二班に分かれて計画を立てている。


 天井が高く、ゴツゴツとした岩肌がむき出しになった洞窟のような空間が広がっていた。壁から微かな光が漏れ出ており、薄暗い空間を幻想的に照らしている。足元には湿った土が敷き詰められ、ひんやりとした空気が漂っていた。そして、約五分程周囲を警戒しながら歩き、最初の分岐に辿り着いた。右側の通路横にA班が進んだ目印となる魔石灯が置かれており、その魔石は深紅色の光を放っていた。


「アベル。そっちは頼んだぞ」

「善処しますよ」

 ムルティは最後尾を歩いていた俺にそう声をかけ、自らは右側の通路から先を行くA班の後を追っていった。


 分岐に差し掛かるとメインの道筋を決め、別の道へはパーティーを一組送る。そのパーティーは次の分岐まで進んでから引き返して合流。メインの道筋が突き当たると引き返しながら奥から次の分岐を目指す。こうしたことを繰り返しながらマップを完成させていくのだ。

 三度目の分岐を過ぎ、残ったのはカインと別のパーティーの二組。それまでの分岐で別れたメンバーはまだ合流してきていない。俺は今回に限りカインのパーティーメンバー扱いという事になっているので、最終的に引き返す時点を決めるのはカイン達ということになる。

 ここまで現れた魔物はスライムやゴブリンといった下級のものばかり、罠らしき罠もなく、過去の例に当てはめるならば、このダンジョンはCランクのものだと思われる。

 別ルートに進んだ者たちにも大きな危険は無さそうだが、そうなると今度は別の心配が生まれてくる。


「なあアベルさん」

 金髪の男が声をかけてくる。

 もう一組のパーティーメンバーのクロードという男だ。


「もし下層へのゲートを見つけたらどうするつもりだ?」

 やはりそう来たか。


「どうもこうもない。そこで引き返すに決まっているだろう」

 クロードがそんなことは解っているのを理解した上で素っ気なく返す。


「相談なんだが――」

「駄目だ」

「まだ何も言ってないだろう?」

「下層に下りてレアアイテムを探したいんだろう」

 これが別の心配だ。

 安全なダンジョンだと分かってしまえば、依頼を無視してでも先に進もうとする者たちが出てくる。一度しかドロップすることのないレアアイテムは、例えCランクダンジョンであっても高額で取引されるからだ。


「分かってるなら――」

「分かった上で駄目だと言ったんだ。どうしても行きたいというなら、この依頼を終わらせてから正式に探索をすれば良い」

「そんなこと言っても、別のルートにいった奴らがゲートを見つけてたらどうするつもりだ?」

「どうもしない。俺の仕事は目に見える範囲の者たちの管理をすることだからな」

 正直なところ、誰がどうなったとしても別にどうも思いはしない。個人的な依頼を受けてここに来てはいるが、探索者はあくまでも自己責任で行動するものであるから、俺の目の届かないところで死んだとしても気にする必要はないし、俺がそのことで咎められることもない。

 ここはそういう世界なんだから。


「チッ!ああ!分かったよ!」

 俺に対する不満を微塵も隠そうともしないクロード。まあ、それも仕方ない。


 そもそも俺に誰かを救うような力は無い。

 俺が選ばれた理由は、あくまでも都合のつく経験者の中から消去法で残ったというだけのこと。

 レベルやステータスでまさっているはずのカインやギュース、このクロードと戦ったとしても、俺が勝てる可能性は限りなく低いだろう。


 記憶が戻ってからの十五年。

 この世界で生き残る為に必死で修行に明け暮れた俺の限界点。


 そして、俺はこの世界の『欠陥品』と呼ばれるようになった。



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