第31話 カンヅメ!

ポン、っと。


コンソールコマンドのクラフト画面は便利だな。


「原材料」と「必要機材」と「要求される能力値」があれば、ごく短時間で欲しいものが作れる。


不便なのは、「正規品」しか作れないどころか。


例えば、いつも作っている料理やハンドロード弾薬などは、アレは本来なら組み合わせないであろう、システムの想定外の結果を出しているため、手動でやるしかない。


だが今回のように、「鯖」と「塩」と「鉄板」と、そして「コンロ」に「製缶機」があれば……。


「はい、『サバ缶』」


「米」(炊いてなくてもよい)と、「ビニール」「粘着剤」「きれいな水」と、「コンロ」「ビニール作業台」があれば。


「はい、『災害用真空パックアルファ米』」


こんなこともできてしまう訳だな……。


俺は作ったサバ缶を積み上げて、段ボール箱に詰める。


何故俺がこんなことをしているのかと言うと、先日、こんなことを言われたのである……。




真夏の昼下がり。


流石に暑過ぎて、ありとあらゆる行動ができない。


こんな時に熱中症になったら、割とマジで死ねるので、俺達はエアコンがガンガン聞いているトレーラーハウスの内部に篭っていた。


そんな時、瞳の前に魔法陣を浮かべている魔術師が現れる……。


「お兄さん、ちょっと良いですか?」


冬芽である。


「何?」


俺は、リビングでだらけながら訊ねる。


あまり深刻そうじゃないな、と。


適当に聞けば良いやとこの時は思っていた。


だが……。


「京都に、かなり大型のコミュニティがあるようです」


この報告を聞き、俺は。


「えぇ〜……?めんどくせー……」


という気持ちになった……。


こちとらもう、メンタルが世紀末仕様なもんで、今更常識的発言をしてくるような奴とか出てきたらイラついちゃうのだ。


「どんな感じの何?」


「はい、使い魔の鳥で偵察したところ、各所にあるお寺に逃げ込んでいるようです」


「お寺」


寺か。


確かに、寺とかには外壁もありそうだし、建物もしっかりしているだろうな。


「寄る必要がありそうか?」


「はい。仲間候補と言うか、味方になりそうな人達が多いようです。前に、お兄さんは、そろそろ大規模に人を増やしたいと……」


あー、そうね。


そろそろ軍勢というか、チームを作りたい。


コンソールコマンドから出る食料のレパートリーも結構増えたし、四日市で大量の素材を得たのも大きいな。


ん?それより……。


「そのコミュニティ、飲食物とかはどうしているんだ?」


「飲み物は、お寺の湧水や古井戸を。食べ物は家庭菜園や……、畑なんかを作っていますね」


「はあ?足りるのか、それだけで?」


そもそもできるのか?


農家の生まれとして言うが、作物を育てるってのはそんな簡単な話じゃない。


街のど真ん中の土を掘り返して種を植えたところで、まともなものはできないぞ?


そんなニュアンスのことを俺が言うと……。


「どうやら、特別な野菜を使っているみたいです」


「特別……ってのは?」


「よく分かりませんけど、見たこともない植物を育てていて……。変な形のニンジンとか、楕円形のスイカとか……?」


ああ、そうか。


「そりゃ多分、放射能変異野菜だな」


「ほ、放射能、変異?」


この世界はアポカリプスZというゲームが混ざった世界なのは最早確定的に明らかなのだが、このゲームには様々なDLCやアップデートファイルがあった。


もちろん、バニラの状態でも良いゲームなのは保証するが、それだけだと難易度が高いと苦情が来たのだ。


元々AZは、リアルなゾンビパンデミック後の世界のシミュレーションのつもりで作ったサンドボックス型のゲームで、ゲーム内に文章などがあってもストーリーはない。


そして、デフォルトの難易度だと、そこそこ慣れてきたプレイヤーじゃないと三日ももたないようになっている。


そんな中でも特に指摘が多かったのは、「農業」関係だった。


作物ができるペースを、現実世界のように、植えてから二ヶ月とか三ヶ月とかに設定すると、「そんなに長く待てない!」と言われてな。


そんな訳で泣く泣く、数日で育つ野菜のDLCと言うか、公式MODを配布したのだった……。


その野菜は、俺達開発チームが好きだったポストアポカリプスもののゲームをパク……インスパイアしたもので、放射能で変異している病気の野菜というもの。


味は酷いが、世話は簡単ですぐに大きく育つという設定。


前も言ったかもしれないが、異世界と繋がるポータルゲートがそこら中にできているから、そこから流れ着いたんだろうな。


そろそろ、人類の死と絶望が増えてきたから、邪悪なる存在が増えているんだろう。邪悪なる存在が増えると、世界の歪みたるポータルゲートも増える。


そして、ポータルゲートからのヒト(?)やモノの流れが活発になっているんだと思う。


その際に、京都付近のポータルゲートから、放射能変異野菜の種がもたらされたとしても、何もおかしくないな。


放射能変異野菜は、核爆弾が落ちた後の世界でも、植えてからすぐに育つキモい作物だからな。


日本でも、その辺の公園に種を植えれば、一週間もせずに芽吹き、収穫できる……。


と、まあ、そんな感じで放射能変異野菜について俺は話した。


「なるほど……。でしたら、何か交易できるようなものを集めておいた方がよろしいのではないでしょうか?」


うーん、それなんだよな。


通貨はもちろん使えないだろうから、何かこう即物的な……。


そう、保存食。


保存食辺りを持って行った方がいいだろう。


取引をするしないはまだ考えなくても、取引できる材料があるだけで全然違う……。


いざという時のために貯金しておくようなものだな!


「うーん……、それならちょっと、過剰に保存食作りをするわ。もうしばらく、この四日市で待機ってことで」


「はい、分かりました」




……と、まあ。


こんなことがあったので、俺は。


鯖の水煮缶とアルファ米を無限に作るマシーンとなっている訳だな。


あ、魚だが……。


「餌撒くよー!」


女達に、刻んだシーフードミックスと小麦粉を練ったモノを撒き餌としてばら撒かせて。


『痺れなさいっ!!!』


電撃の超能力者であるエレクトラが、餌を食べにきた魚を感電させて。


「引き上げます」


冬芽が、魔法で引き上げる。


そしてその魚を俺がガンガン加工していく訳だな。


加工したサバ缶を箱詰めして、トレーラーハウスの倉庫に満載する。


塩と鉄板は既に見つけてあるIDから呼び出しており、サバは順調に釣れている……。


つまり、無から食糧を生成しているのだ!


これはかなりのアドだぞ!


因みに、「豚肉」「塩」「鉄板」でランチョンミートも作れる!勝った!第三部完!


……そうして、ダンボール十個分のサバ缶とランチョンミート缶とアルファ米パックを作り、更に水煮野菜パックを二種類程度のダンボール十箱分置いて……。


交渉用と個人利用用の缶詰も持って、準備を万端にして、俺達は京都に向かうこととした。

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