第16話 <独白>さよなら、ジンタ(おチエ視点)
どうしてこうなってしまったのだろう。
どこで間違ってしまったのだろう。
なにが狂ってしまったのだろう。
ジンタを虐める村人達に復讐する為に、廃坑に閉じ込められた蜘蛛の異形の力を借りて、そして我が子が辛い目に遭う苦しさを味合わせてやろうと罪のない子供たちから襲って、良い匂いがする女の子だけを攫って、そして……どんどん自分じゃ無くなっていく感覚に苛まされながら、異形に心も体も乗っ取られて……
終いには、折角匿ってくれていた父さんだって殺してしまった。
何人目かの子供を攫った時に、座敷の畳に血だまりが出来たのを父さんに見られてバレてしまった。
慌てて畳を張り替えてくれて、その後も黙っていてくれたみたいだけど、良心の呵責に苛まされたのか、カイリって陰祓師にはとても協力的だった。
離れで話している様子を子蜘蛛を通して窺っていたが、父さんは今にも犯人は異形で正体は娘だって言いそうな顔をしてた。『面倒な事になる前に』と異形が勝手に父さんを殺したけど、結局は時間の問題だった。
父さんは血の繋がった家族だから私の事を匿ってやりたいが、それと同時に娘の過ちを正したいとも思っていたんだろうと思う。真面目な性格で、曲がった事が大嫌いだったから。
それでいっつも、怒られてたっけ。村の人たちに迷惑かけるなって……
そんな父さんとの思い出はあっても、私には母親との思い出が一切無い。
何故なら、私を産んですぐに亡くなったから。
だから、物心ついた時にはすでに父さんと二人きりだった。
男手ひとつで娘を育てるのは、とても苦労しただろうなって想像できる。
男親が娘を育てる上で、勝手が分からなくて面倒をかけたかもしれない。
ジンタを授かって、私はそれを実感したから。
私も女親として、男の子をどう育てていいか分からなくて凄く悩んだ。
親になるってとっても大変だって、父さんの気持ちが少し分かった気がした。
でも、それ以上に幸せも貰えた。ジンタの将来を考える事に幸せを感じた。
ジンタが大きくなったら、どんな青年になっているだろうか。どんな女性と結婚するのだろうか。ふと、寝る前に考えたりした。
そんな風に考えるのがすごく楽しくて、とても幸せだった。
もしかしたら、父さんも私の事をそんな風に考えていてくれたのだろうか。
私がどんな大人になって、どんな男性と結婚して……とか、そんな風に楽しみにしていてくれたのだろうか。
だとしたら、少し悪い事をしたかなと思う。父さんの気持ちを裏切って、私は宗太郎さんと駆け落ちをしたから。
でも後悔はしていない。
彼との生活は楽しかったし、何よりジンタが生まれてきてくれてたから。
私がジンタから幸せを貰っていた様に、私は父さんに幸せをあげられていたかな。
それはもう分からないけれど、もしもそうだったのなら……いいなって思う。
父さんとジンタが笑い合って遊んでいる光景が、遥か遠い昔の様に感じる。
もう、戻れない。眩しくて幸せな家族の光景……二度と、戻る事は出来ない。
私は償いきれないほどの大きな罪を犯してしまった。だから、ここで罰を受けるのは道理と言うもの。
私が手をかけてしまった子供たちに、どんなに謝ったとしても許してはもらえないって言うのは分かっている。
でも、それでもごめんなさい。犯しただけの罪は罰としてしっかり受けるから。
父さん。面倒ばかりかけて、困った娘でごめんね。そっちにいったら……
あ、でも、父さんと母さんは天国で、私は地獄か。死んでも、直接謝りにいけないんだ。ホント、最後まで親不孝者でごめんなさい。
そして、宗太郎さん。何故、私たちの前から姿を消したのかは分からないけれど、何かしらの理由があるんだと思う。だから恨んでないよ、今でも愛してる……出来るならもう一度だけ、あなたに会いたかった。
ジンタ。大好きなジンタ。生まれて来てくれてありがとう。それと、こんな母さんで本当にごめんね、ずっと一緒にいてあげられなくてごめんね。
世界で誰よりも、あなたのことを一番愛してるよ。
……最後に、匣のカイリ様。
ジンタのことをどうか、どうか宜しくお願いしま……
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