第48話 4人目のギルドメンバー

 家族会議は案外すんなりと終わった。まつりちゃんにはアーティファクト・オンラインをプレイする上で二つ条件がつけられた。


 まず一つがアーティファクト・オンラインをプレイする時は、必ず兄の聖陽と一緒にプレイする事。もう一つはゲームに夢中になって成績を落とさない事。このどちらか一つでも破った場合、VRデバイスは即没収。


 そして夏未さんに相談もなく娘のために勝手にVRデバイスを購入した力一さんには、今後必ず夏未さんに相談する事、それと破った時はその度にお小遣いを半分にする事で話がまとまった。


 またこのお小遣いが半分になるというのはもちろん一生続く。


 僕という部外者がいる家族会議から数日後、無事にまつりちゃんの誕生日パーティーを迎える事が出来た。


 その時に僕はまつりちゃんに「どうしてこのゲームがやりたいと思ったの?」と質問した。すると、まつりちゃんは「魔法を使ってみたいから」とだけ答えてくれた。


 アーティファクト・オンラインに魔法なんてものは存在しない、他のゲームと勘違いしているのかもしれない。


 今回のアップデート内容は装備強化回数の上限10回から20回に引き上げられる。期間限定のイベントダンジョンに出現。そして最後が新武器実装とそれに伴いレーテ川の水が配布される。


 新武器という情報だけでどんな武器が実装されるかまでは書かれていない。


 【レーテ川の水】というアイテムはかなりの希少品。このアイテムは自分が取得したスキルを全てリセットしてスキルポイントを還元するというもの。スキルポイントが戻ってくるという事は、取得するスキルを選び直せるという事。


 スキルが変われば戦い方も変わる。もちろん使用する武器も変える事も出来る。ただ僕の場合だと、戦闘スタイルを変える予定は今のところないので、そのままインベントリーに直行だろう。


 あとは不具合の修正などがずらりと載っていたぐらいで、魔法を追加するという記載はどこにもなかった。だが、翌日まつりちゃんの言葉通りになった。


 アップデートで実装された新武器によって、魔法が使えるようになったのだ。


 そして……今現在。


 何かの事典かなと思えるほど、分厚い本を持ったまつりちゃんがいた。キャラ名はシノマツリ、髪はピンクで先端だけ明るめのツインテール。目の色はサンと同じスカイブルー。


 服装は白基調の膝丈フリルドレス、腰には大きなリボンが付いている。フリルドレスのスカート部分には数か所、薄い青色のルーン文字が刺繍されている。


 THE・魔法少女という言葉が一番最初に思い浮かぶ、そんな見た目のキャラだった。


 シノマツリが持っている本こそ【魔導書】と呼ばれる新たな両手専用武器。魔導書を媒体にして、スキルの代わりに魔法を使用する事が出来る。


 魔導書が片手ではなく両手なのにはもちろん理由がある。理由としては実に単純なもので、本を持つ手とページをめくる手で両手使うから。


 魔法はスキルのようにスキル名を発音するだけでは発動しない。魔法が記されたページをめくり詠唱しなければ発動しない。


 それもただ声に出せばいいというものでもなく、正確に読み上げる事が出来なければ不発に終わる。


 そして他の武器のようにそれを補うスキルもない。マルチダンジョンならまだ大丈夫かもしれないが、このゲームでのレベルを上げる方法はソロダンジョンをクリアする事。この時点で大体のプレイヤーは心が折れる事だろう。


 ただその代わり魔法にはリキャストがないため、詠唱さえかまずに言えたら連続発動が可能となっている。


 魔法は全部で火、水、風、土、雷、氷の六属性。サンプルとして一種類ずつ各属性の魔法が用意されている。またサンプルは新しく魔法を創造すると、その時点で全て使用不可となる。


 魔法では他の武器のようにスキルポイントを消費してスキルを取得するのではなく、スキルポイントを消費してスロットを増やす。スロット一つに付き、魔法を一つセット出来る。六属性全て使いたいのであれば、最低でもスロットを六つ用意しなければならない。


 スキルポイントの消費はまだ持っていない属性のスロットなら2、同属性のスロットを増やす場合、スキル強化のように倍になっていく。また同じ属性のスロットをたくさん用意したところで、スキル強化のように魔法の性能が上がる事はない。


 一属性特化より浅く広く色んな属性の魔法を使えた方がスキルポイント的にもお得。


 スキルと魔法とでは決定的に違うものがある。それは魔法は先に述べたように自分で魔法を創造する事が出来る。空きスロットに魔法を発動するための詠唱を書き記す事で、自分だけの魔法が創れる。


 基本的に詠唱は長ければ長いほど高威力の魔法となる。だからといって、全部の魔法が長い詠唱ばかりだと、唱え終わる前に魔物にやられるのが目に見えている。


 そういった点も考慮しながら、色んな魔法を創造するのが魔導書の醍醐味となっている。


 そんな新武器を携えたシノマツリはなぜか僕を睨みつけている。


 原因があるとすれば、それはきっと僕が一番最後だったからだろう。ただ一つ言い訳させてほしい、僕は確かに最後だったかもしれない、だけど遅刻はしていない。集合時刻の朝11時まで、まだ1分あるじゃないか……。


 なんだか自分で言ってて虚しくなってきた。


「えっと……それじゃ。みんな集まった事だし、早速ギルドに行こう」


 今回集まった目的は大きく分けて二つある。まず一つは雪月山花の新メンバーとしてシノマツリを

迎える手続きをするため、もう一つは期間限定のイベントダンジョンに参加するため。


 イベントダンジョンはマルチダンジョンと同じで、パーティを組んで全10階層を挑戦し、最後に待つボスを倒すとクリアとなる。難易度は参加するプレイヤーのレベルに応じて変化する。それと通常のマルチダンジョンよりも報酬がいい。


 そして最後にシークレットミッションのようなものがあるらしい。それをクリアしたプレイヤーにはユニーク武器が進呈される。ただこれはあくまで噂、憶測の域を出ない。


 というのも、今日イベントダンジョンが実装されたばかり、そもそもまだクリアしているプレイヤー数が少ない。そのためどういった条件下でそのミッションが開始されるのかが、一切判明していないのだ。


 誰かが発見したところで、その発生条件が開示されるのは無事シークレットミッションをクリアしてからになるだろうし、当面の間は各々で調べる事になるだろう。


 僕はこの後、挑戦予定のイベントダンジョンに期待を膨らませつつも、シノマツリをギルドに迎えるため、数か月ぶりにあの地方の役場っぽい雰囲気漂うギルドに向かった。

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