第44話 ヤールングレイプルとスカジ

 タクトがログアウトしてから数分後、今度は修羅刹が入れ違いで酒場にいた。


「そぉ……タクトちゃんの様子がおかしかったのはそういう事なのねぇ~」


「そうなのよ、ママ。まぁそれがタクトのいいとこでもあるんだけど、今回はかなり深く刺さったみたいで……」


「ママはあなた達の話を聞く事しか出来ないから、修羅刹ちゃん。タクトちゃんの事おねがいね♪」


「任せておいて、ママ!」


 快諾する修羅刹を横目にママはポツリと呟く。


「う~ん。ママの意味合いとは少し違う気がするけどぉ~」


「何か言った、ママ?」


「えっとぉ~、あ~。そうそう!修羅刹ちゃん武器新しいのにしたのぉ~?それも前と違って今度は左右で見た目違うのねぇ~」


 ママは修羅刹の両腰にぶら下げている籠手を指差した。


「あ~、これね。昨日の防衛戦報酬で貰っちゃった!こっちがヤールングレイプルで、こっちがスカジっていうのよ」


 修羅刹はイスから立ち上がって、その場で左に向き右腰にぶら下げているヤールングレイプルを見せた後、今度は左腰にぶら下げているスカジがママに見えるように反転する。


 ヤールングレイプルはムスペル撃破報酬の武器、見た目は無骨な鉄製の籠手。ドロップ品どころか普通に店売りしていそうな外見とは、裏腹にこの籠手はテュルフィングと同じユニーク武器。


 ユニークスキルは灼熱を統べし獄炎の王 ヤールングレイプル 、その能力は火属性攻撃を無効にする。また無効にした火属性攻撃を拳に纏わせることが出来る。というもので、使用回数は10回。


 最終都市防衛戦でMVPを取った修羅刹には、もうひとつユニーク武器を進呈されていた。それが鉄の籠手と相反する洗練された外見をしている籠手、スカジである。


 スカジは決して溶ける事がない万年氷から作られた籠手。装飾といったものはほとんどなく、ただ一点、手の甲にバラの華が一輪刻まれていた。


 ユニークスキルは氷雪を統べし極寒の女 スカジ 王、能力は氷属性攻撃を無効にする。また無効にした氷属性攻撃を拳に纏わせることが出来る。こちらも使用回数は10回。


 この二つのユニークを同時に入手した事で、さらに修羅刹はあるスキルを手に入れていた。


 それはタクトと同じユニークスキルに分類されるもの。


 その名も氷炎を極め使役する者 アフームザー 。取得条件は相対する属性で、尚且つ武器種が同じものを二つ以上同時に入手する事。


 このスキルは同じ武器種で相対する属性のユニーク武器に限り、装備制限を無効にする事が出来る。このスキルはパッシブ効果、取得した瞬間から常時発動しているので、もちろん回数制限は存在しない。


 通常ユニーク武器は一つしか装備出来ないが、このスキルはその制限を取っ払う事が出来る。一部条件はあるにしても、その条件も知らず知らずのうちに修羅刹は突破している。


 炎属性のヤールングレイプルと氷属性のスカジ。つまりこの二つを手に入れた時点で、もうすでにアフームザーの取得条件も装備条件もクリアしているという訳である。


「あとね、コタロウとカエデちゃんも貰っていたわ!」


「あらあらあらあら、それじゃお祝いしないといけないわねぇ~。そのためにもタクトちゃんには早く元気になってもらわないとね」


「大丈夫よ、ママ。そのために拙僧とサンがいるんだから!という事で、ママ。その作戦準備しないとだから、今日はもう帰るわね」


「はぁ~い!いってらっしゃい、修羅刹ちゃん」


 修羅刹は手を振るママに向かって手を振り返し酒場を後にした。その後、サンと合流するべく修羅刹はギルドハウスに向かった。


「はぁ~、もう何か月もここに通ってるってのに……」


 ギルドハウス前まで来た修羅刹は正面ゲートに手をかけながら、ため息をついていた。


 タクト、サンが隣にいれば全然大丈夫なのだがひとりでここに来ると、ギルドハウスをはじめて見た時のあのゾワっとする感覚が呼び起こされる。窓から零れる薄暗い明り、雨風に打たれ酷く傷んだ外壁など、数えればきりがないほどだ。


「中に入ってしまえば大丈夫なんだけどなぁ~」


 修羅刹は未だにこのギルドハウスの外観、ホラーテイストな洋館を克服出来ていなかった。


「サンも待っている事だし……行こう!」 


 修羅刹はかけ声に合わせてゲートを押すと、そのまま勢いに任せて洋館の扉を開けた。中に入るとサンが絨毯の上で気持ちよさそうに寝っ転がっていた。


 それを見た修羅刹は呆れ顔でため息をつく。


「おっ、修羅刹やっと来たか!もう少し来るのが遅かったら俺様、昼寝していたかもしれん」


「そうでしょ~ねぇ。それはもう本当に気持ちよさそうな顔してたもの」


「んじゃ早速、作戦会議といこうか!」


「……そうね」


 修羅刹はサンが寝ている場所からテーブルを挟んで対面にあるソファーに腰を下ろす。サンは身体を左右に揺らし、ある程度勢いがついたところでその反動を利用して起き上がりあぐらをかいた。


「アバターとはいえ、何度見てもその光景慣れないわ」


「修羅刹もタクトも毎回それ言うよな。そんなにおかしいか?」


「フルプレートでそんな動きされたら、誰だっておかしいって思うわよ」


「ふむ、確かにそれもそうか。俺様も他人が同じ動きしてるのを見たら、同じ事言うかもしれん。っと、そんな事は今はどうでもいいんだよ。修羅刹、俺様が送ったメッセージは見たか?」


「もちろん、目は通したわよ。最近、みんなで行ってなかったし、あの案に拙僧は賛成よ」


「いや……見たのなら返事よこせよ。まぁ時間が遅かったのも悪かったが、それでもせめてここに来るまでには返せよな?」


「どうせ今日会うんだから、別に返さなくてもいいじゃない」


 キョトンとしながら返答する修羅刹を見たサンは頭を抱えるのであった。


「まぁ見たのなら分かってると思うが、当日のざっくりとした予定はそれで行く。んでだ、今日はそれのルート決めだな」


「あ~、だからテーマパークの部分だけ色々なアトラクションに乗る!としか書いていなかったのね」


「そういう事だ」


 サンと修羅刹はタクトを元気づけよう作戦の詳細を詰めていくのであった。

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