第17話 はじめてのパリィ

 スキルはちゃんとセット出来ている、それにソニックブレイドのクールタイムも終了した。準備完了、あとはこの扉を開けてボスを倒すだけだ。


 僕は重い腰を上げて立ち上がり、右手を左胸に軽く触れた。


 ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……。


 鼓動は一定のリズムを刻んでいた。ここまでのゴブリンとの戦闘のおかげなのか、自分でも信じられないほど冷静だった。


「さて……久々のご対面といきますか!!」 


 ボスエリアに続く扉に両手を当て、そのまま一気に押し開けていく。


 ギイィィィィッ!!


 扉からは錆びた鈍い音が振動となり両手に、そして耳に恐怖を植え付けるように響いていた。


 扉の奥には通常のゴブリンよりもひと回り大きいゴブリンファイターが、ジッとこちらを見つめ静観していた。このゲームのボスはこちらから攻撃しない限りは、いまのように動かずに待ってくれている。

 

 ゴブリンファイターは刃こぼれしたブロードソード、それと急所を守るためか心臓を保護するように、小さめの革で出来た胸当てを装備している。


 僕は前進しボスエリアの中央に向かう。ボスエリアはダンジョンにつながるドーム状の建物を三分の一程度に縮小したような空間。ただ空間が似ているだけで壁や地面などは1~4階層の懐かしさを覚える、あのジメジメ洞窟と全く同じ。一対一で戦うには十分すぎるほど広い、まさにボス戦って感じの場所だ。


 ギイィィィィッ!!


 扉が勝手に自動ドアのように閉まっていく、この感じ懐かしいな。はじめてここに来た時はこのギミックだけで軽くパニックになってたっけ……。


「三か月ぶりだな……ゴブリンファイター!今度こそ、今日こそ僕が勝つ!!」


 僕は自己暗示をするかのように自分自身を鼓舞し、ショートソードとダガーを鞘から抜き戦闘態勢に入る。


 そして僕は雌雄を決すべく、開戦の狼煙を上げた。


「ソニックブレイドオォォ!!」


 ゴブリンファイターの胴体めがけて衝撃波が放たれる。しかし、その攻撃はやつの身体を切り裂く前に、ブロードソードによってかき消された。


「グルルルル!!ゴオオオオォォォォォォォ!!!!」


 怒り狂うゴブリンファイターは怒号とともに一気に駆け抜ける。そう攻撃を仕掛けてきた僕に向かって……。


 ゴブリンより少しばかり大きくなっただけで、これほどまでに迫力が違うとかやっぱボス、怖すぎなんだが……。


 その圧に押され僕は一瞬怯んでしまった。ゴブリンファイターのその瞬間を見逃さず、さらに速度を上げる。僕の首を切り落とすために、ブロードソードが届く距離に近づくために……。 


 この時の僕はゴブリンファイターに威圧された事によって、まだ使用していないスキルが4つもある事を完全に忘れていた。そのスキルを使用すれば、特に問題なく対応出来たかもしれないのに……。後手後手に回ってしまった僕は、ゴブリンファイターのブロードソードが届く距離まで近づかれてしまった。


 そして僕の胴体めがけてついにブロードソードが振り下ろされた。あぁ……今回も僕の負けかと振り下ろされるブロードソードに視線を移す。


 その時なぜかその振り下ろされるブロードソードの剣筋に見覚えがあった。それはアーティファクト・リズムのノーツだ。あの音ゲーのノーツは四角いキューブ状のものなので、全然似てはいないのだが、なぜか動きというかタイミングがすごく似ていた。


 僕はやけくそ気味に左手をブロードソードに向かって振り上げた。


 キィーーーーーン!! 


 ゴブリンファイターは後ろに仰け反り、そして自分の身に何が起こったのか分からず戸惑っている。


「はぁ……はぁ……はぁ……」 


 僕は呼吸を整えつつ左手に持ったダガーを見つめ、何とか死なずに済んだ事に安堵した。それにしてもあれは何だったんだろうか。


 ガードしたとしても必ずある程度ダメージは受けるはず、なのにダメージを受けた感じはしない。そういや、クローズドベータテストの時に同じような現象の事を修羅刹が、自慢げに話していた事を思い出した。


 ねぇタクト聞いてよ!この前ついにパリィに成功したのよ!!えっ、タクト……パリィ知らないの?しょうがないわねぇ、わたしが教えてあげるわ。パリィというのは相手の攻撃に合わせてタイミングよくこっちも攻撃するとね。相手の攻撃を無効にして弾き返す技みたいなものよ。これはスキルとかと違って……えっと、なんだっけ、サンがよく言うやつ。そうそう、プレイヤースキル!つまりわたし達の力量次第で制限なしに何度でも使えるわよ。ただタイミングがシビアすぎて、これするぐらいなら普通にガードとか回避した方が楽なのよ。まぁわたしは出来たけどね。


 あの時は何の事かサッパリ分からなくて、ほぼほぼ話をスルーしていたが、なるほど……これが『パリィ』とかいうやつか。


 もしパリィの成功条件が、アーティファクト・リズムのパーフェクトと同じタイミングならば……。


「よし……試してみよう。あ~、でもやっぱこえぇぇぇ」


 僕はこの自分の考えが本当に正しいものか証明するため、もう一度ゴブリンファイターの攻撃を受ける事にした。正直かなり怖いし不安ではあるが、ここで確証を得なければどちらにせよこの先進み続けるのは難しいだろう。それにこのパリィを使いこなせるようになれれば、それだけで自信がつくというもの。


 落ち着きを取り戻したゴブリンファイターは、ギロっとこちらを見つめ「グゴゴォォ!!」と吠えた。


「さっきの続きをやろうか!!ゴブリンファイター!!!!」


 僕はゴブリンファイターに向かって叫ぶ。


 冷静さを取り戻したのかゴブリンファイターは、初戦の怒り狂った様子も目も血走っておらず、僕との距離をジリジリと詰めてきた。僕もゴブリンファイターに合わせるように距離を詰めていく、そして両者ともに攻撃範囲に入った時だった。先に攻撃を仕掛けてきたのはやはりゴブリンファイターからだった。


 正直ずっと様子をうかがって攻撃してこなければ、どうしようかと思っていたところだった。


 ゴブリンファイターは手首を返し、ブロードソードの切っ先を地面すれすれの位置まで持っていくと、今度は一気に逆袈裟斬りの要領で斬り上げてきた。僕はそれに合わせて今度は、右手のショートソードをブロードソードめがけて振り下ろす。


 キィーーーーーン!!


 そしてまたゴブリンファイターは後ろに仰け反り、何が起こったのか分からず困惑していた。


 間違いない……パリィのタイミングとあの音ゲーのパーフェクトのタイミングは全く同じだ。


「ありがとう、ゴブリンファイター。君のおかげで僕はまだまだ強くなれそうだ」


 僕はクローズドベータテストからの宿敵ゴブリンファイターに感謝の言葉を捧げ、ダガーで腹部を斬りつけたあと、「ソニックブレイド!」と声を発してショートソードを斬り上げた。ゼロ距離から放たれるソニックブレイドは、遠距離から放つのに比べて威力が段違いだった。


 身体の内部で放たれた衝撃波は、ゴブリンファイターの内部をズタズタに切り裂いていった。そして……ゴブリンファイターは膝から崩れ落ちながら消滅していった。

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