第43話 救国の女神は諸悪に遭う。

ザイコンに追い付いたメーライトはすぐに異質な平原に出た。

普通と変わらない、草が生い茂り、花も咲いている。


だが、前に追いやられた土地で、魔物の巣に近づいた時のような緊張感があった。


そしてその草原の真ん中に2人の男が居た。

1人は先程別れたタミラーシ。

もう1人は痩せ型高身長。ナイヤルトコの地で見た皇帝ビエンテに似ている。


恐らくゲアマダだろう。


メーライトはアーテルを空中で待機させて草原に降り立つと、ザイコンが苦しげに「ゲアマダ!何故俺をここに呼び、お前がここに居て、タミィを連れている!?タミィに長距離移動なんてさせるな!」と声を荒げる。


倒して動けないはずのザイコンが再始動してここまで飛んだのはゲアマダの意志があった様子だった。


ゲアマダは呆れた顔で、「君ねぇ、仮にも公爵様に無礼だよ?」と言って笑うと、腕を縛られたタミラーシを前に突き出して「甥っ子くんなら女神の力で元気になったから旅行さ。城の周りしか知らない彼には刺激的だね」と言った。



ゲアマダは笑いながらメーライトを見ると、「やあやあ女神様。僕の思い通りになってくれてありがとう」と言う。


突然話を振られたメーライトは「え?」と聞き返してしまうと、ゲアマダはニヤニヤ顔で「君に素敵な言葉を贈ろう。『敵を欺くにはまず味方から』だよ。僕は何一つ本当の事を言っていないんだ」と言った。


再び、「え?」と驚きながらも、嫌な予感がしたメーライトはアイの目でゲアマダを見ると、人間ではなかった。


「人間じゃない?」

「おお、その使徒の目を使ったんだね?そうさ。僕はこの「融合の手袋」を手にしたゲアマダが最初に融合してしまった存在。クアマダ。ゲアマダに名前も近くていいよね。で、僕は愚かなお兄さんには願いを叶えるなんて嘘をついて魔界の扉を開けようとしたんだよね」


「嘘?」

「蘇生魔法なんて魔界にはないよ。治癒魔法すら無いんだよ?あはは」


横で聞いていたザイコンが怒りに震えながら、「なら…、なら俺たちは…」と言うと、クアマダは「ザイコン、うるさい。お座り」と言い、ザイコンは花畑に膝から崩れ落ちて動けなくなる。



自分の体に起きた異変に目を丸くするザイコンに、「ああ、自分の意思で魔物達を大人しくさせられていると思っているんだよね。でも不思議じゃない?ここまで僕が呼んだら来たよね?女神の攻撃で弱ったから?残念。魔物達は皆僕の命令待ち。待機状態だったんだよね。だから少し命令してあげればね。まあそれでも5個持ちとか凄いよね」と笑いながら説明するクアマダ。


「それにしてもゲアマダもバカだったよ。融合の手袋を使って、よりにもよって魔界の者と融合するなんてね。こっちが遊び半分にアイツの中に侵略して、なんとかしようと薬を飲んだり自分を鍛えたりして、少し耐えられるようになると、また上被せて絶望させるんだ」


ニコニコと嬉しそうに話すクアマダに、メーライトが顔をしかめて「許さない」と言った時、「君にそれを決める資格はないさ。それに、君はもう助からない。いいのかい?傷の浅いうちに尻尾を巻いて逃げればいい」と言ってクアマダは更に笑った。


状況が読めないザイコンが「女神…」と言うと、儚げに笑ったメーライトは「覚悟はしていました。この身体は人造人間だけど、人以上の身体。今、アルデバイトにいる身体は、弱い人間の身体。私は長時間アイになってると、戻った時に身体が違いすぎて、動けなくなるのはわかってたんです。それでも私は女神様に選ばれて、救済のペンを授かった救国の女神だからいいんです」と説明をする。


シムホノンの思惑を超えたメーライトの発想と行動に、ザイコンが身体を震わせてなんとかしようとしている時、クアマダは「それにその左肩の奴、ダンジョンコアだよね?怖い事を考えるね。それすら君の力にする。だが、その力でさらに高次元の力を振るうと、君の本体との乖離が酷くなる」と言った。


クアマダの言葉に驚かないメーライトを見て、「女神…」と言って驚くザイコンに、メーライトがまた微笑むと「お父さん、お母さん、お姉ちゃん」と呟く。


「助けられなかったバナンカデスさんの家族の人、アルデバイトの人達。私に助けてと言ったナイヤルトコの人達、アルデバイトで助けを待つ人達。皆の為なら死ぬ事なんて怖くない。ここであなたを倒して魔界の扉を塞ぎます!」


メーライトが剣を構えて前に出ると、「まあ、そういう流れだよね。でもまあ…」と言ってニヤリと笑うと、クアマダは「ザイコン、僕を守るんだ」と指示を出す。


直後にザイコンは自分の意思に反して前に出てきてメーライトを迎撃する。


「何!?お…俺の意思で…、う…動けないなら!女神!俺を殺せ!そしてタミィを助けてやってくれ!」


メーライトに蹴りを放ちながら、必死になるザイコンを見て笑ったクアマダは、「何のためにザイコンと女神を呼んだのさ?目の前でタミラーシを生贄に捧げて、魔界の扉を開くんだよ。ザイコンは女神の足止め係さ」と言うと、気絶しているタミラーシの元に歩いていく。


「女神!俺を殺せ!」

「それは最後です。お姉ちゃん…アーテル!私の援護!ザイコンさんの足止めをして!」


超上空から降りながら魔法攻撃を加えるアーテルと、ザイコンの一進一退の戦い。


アーテルは「今は1人だから本気で動く」と言ってザイコンに斬りかかった。

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