第25話 救国の女神はアルティを喚ぶ。
タイミングよく現れた本。
メーライトはバナンカデスの事もあり張り切っている。
アーセワ達は拒む事はないが、言いようのない違和感に乗り気にはなれずにいた。
探せとは言ったが、たった3日、こんなにすぐに出てくることはおかしい。
アーセワは帰還した日、自身が入浴中の不在時に、バナンカデスと一悶着あった事に、早速頭を抱え、「あのお嬢様が関わると、大概良くないことがある」と呟いて、アーセスから「あら、珍しい」と笑われていた。
「アーセスはあのお嬢様を知らないから言えるのよ」と呆れていて、それもあってこのタイミングの本には喜べなかった。
【詐欺師の冒険】
本の中は取ってつけたような、メーライトのために書かれているような内容で、詐欺師の父娘が探窟家になる物語で、父1人、娘2人の3人家族で、足手纏いの妹がメーライト、父の片腕を務める姉はメーライトの姉のような存在で、物語の序盤は家族3人が詐欺を生業に面白おかしく生きているが、父が捕まり投獄されてしまい、解放される条件として受けた[死神の涙]という宝石を求めて冒険をするものだった。
当然、父を釈放し、3人で行かせれば、逃げられる可能性もあり、逃げられると宝石は手に入らないので、父は身代わりに役立たずの妹を置いて姉と[死神の涙]探しの旅に出る。
名前もない姉妹、主人公のいない物語。
横で物語を眺めるアーセワは、メーライトがどの登場人物に自身を重ねて、その者の物語を作ってもいいように、スポットライトが当たるのは父ばかりで、姉も妹もチョイ役のようになっていて、物語も[死神の涙]を手に入れて戻ってきた父が街に入る所で終わっていた。
変な事にならないように、アーセワは気を使い、言葉を選んでメーライトにどうするかを聞いていく。
「神様?決まりましたか?」
「うん。私は妹の子にする。名前はアルティ」
メーライトはそのままアルティの事を書いてしまう。
アルティが父と姉の足手まといだったのは、2人の考えとアルティの考えが違いすぎていた事、詐欺師の腕にしてもアルティの方があった。
その証拠に、アルティは投獄中にも言葉巧みに人々に取り入り、牢獄の中なのに自由な生活を確保していた。
また上手いのは、若い間にこそ、さまざまなモノを学びたいと言い、父と姉が命懸けの冒険に出ている間に、剣士からは剣を、格闘家からは格闘技を、そして魔法使いからは様々な魔法を習っていた。
父が迎えに来た時、生まれ変わったアルティを見て父は目を丸くする。
それでも父相手にうまく立ち回るアルティは、解決してくれた父に感謝をすると、父と姉に「足手まといは嫌だから」と別れを告げて旅立っていた。
足手まといは嫌だから、それは父と姉はアルティの事を思ったが、アルティは父と姉こそが足手まといだと思っていた。
アーセワは困っていた。
見るからにアルティには能力を付与しすぎている。
だが、今はこの本がなければ太刀打ちできない以上、致し方なく「神様、それでは離れていても平気な事などを意識して、付与してからお呼びください」と言った。
「うん。アルティさん、来て」
光と共に喚ばれたアルティは、濃いピンクの髪色で、真っ黒いセクシーな革鎧姿をしていた。
ひと言で言い表せば、これまでの使徒達とは明らかに雰囲気が違っていた。
「にひひ。呼んでくれてありがとね神様」
アルティはニマニマと笑うと、メーライトに「神様、仕事はわかってるよ。すぐにやってくるからさ、終わったらアルとお友達になって?それでアルのお願いを聞いて?」と矢継ぎ早に言う。
アーセワがアルティの態度に苛立ち間に入ろうとした時、アルティはアーセワを睨みつけ、「下がってろよアーセワぁ?目的は一緒だろ?」と言い、圧を放って邪魔をすると、メーライトの首に手を回す。
キスの距離で「そうしたら、ずっとアルが守ってあげるよぉ〜」と言い、メーライトの返事を待たずに窓を開けると「風魔法加速」と言い、「神様、視覚共有を許してあげるから、アルのお仕事ぶりを見ていてね」と言い残すと、文字通り飛び立って言った。
アーセワはアルティを信用できずに、メーライトに視覚共有をするように提案すると、メーライトは「うわぁ、速い」と喜びを口にする。
「神様、あの子」と言って顔を出したアジマーが、「戦闘職で魔法も使えて、神様から離れても平気とか、私って役立たず?」と質問をすると、顔を真っ赤にして照れたメーライトが、「ううん。魔法ならアジマーさんには敵わないし…、剣ならアルーナさんには敵わないって思ったの、アルティには大変だけど、苦戦する人の所に助けに行けるようにって思ったんだ」と説明をする。
横で聞くアーセワは「ひとまずの不安は払拭できた」と思っている。
最悪、アジマーとアルーナ、アーシルの3人がかりで、アルティを制圧してしまう事も視野に入れていた。
5日後、アルティはダンジョンコアと数個の「お土産」を持って帰還した。
お土産はゴブリンや人喰い鬼の頭だった。
驚くメーライトに「あれ?見てくれなかったの?まだ無傷の巣穴があったから、滅ぼしてきたんだよ。アル凄いでしょ?」と言って馴れ馴れしく接するアルティ。
「うん。ありがとうアルティさん」とメーライトが返事をした時に、アルティは首を横に振りながら、ゴブリンの首を見せて「お願い、聞いて」と言い、「首の数だけお願いを聞いて欲しいの」と甘えてくる。
「アルティさん?」
「その、【さん】をやめて。アルティで呼んで。一つ目のお願い」
アーセワは眉をひそめたが、まだ許される範囲だと思い黙っていると、メーライトが照れながら「あ…アルティ」と名前を呼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます