第15話 救国の女神は司書の本気を知る。
撤退戦に切り替えても、あの竜を見た以上、不満は出なかった。
逆に絶望的状況でも諦める事なく砦を目指すと言ってくれたアノーレや、今も戦うアルーナ達に国王達は感謝を告げる。
そんな中、致し方なく、そしてままならないのは目覚めたシムホノンで、この先で必要になるからと最後の一冊までメーライトの為に本を用意して、追走をすると言い出した。
メーライトよりも先に話を聞くアノーレと老神官に「砦の先は[追いやられた土地]、今の人数を賄える余裕はありません。もう秋になります。次は冬です。今のままでは冬を越せるのは半分にも満たない人数で、とても奪還なんて出来なくなります」と説明をする。
「追いやられた土地?」
「それは後でレーカンパー様やロシピキ様から聞いてください。とりあえず冬を越す為の本と、城を奪還する為の本、とりあえず冬を越す為の本が少し足りないのです。貸し出した覚えはないので探す必要があります」
「だけど…アンタの知識が神様の救いになってるんだよ?アンタが行かないでどうすんのさ?他の奴らに本を頼んで一緒に」
アノーレの言葉に首を振るシムホノンは、「いえ、他の方には任せられません。私の命はメーライト様の為に使います。必ず本をお届けしますから、ご安心ください」と言って力強く微笑んだ。
「止められないねぇ。時間が惜しいけど神様の為に声だけかけてよ」
「勿論です。まずは昼前まで探していた今最高の一冊を持ってお邪魔します」
寝癖まみれのシムホノンの顔を見た時にアノーレは、堪らない気持ちで抱きしめて「いい男ってのはどこにでもいるね。砦で待ってる。私との時間もおくれよ」と言うと、シムホノンは真っ赤に照れて「使徒様。勿論です!」と興奮していた。
当然シムホノンの行動に、メーライトは困惑の顔で考え直すように言う。
「メーライト様、移動して終わりではありません。その為に新たな使徒様達をお迎えする必要がございます。バランスも考えたいので急げません」
「ですが!司書様がいてくださらないと。私不安です!」
嬉しそうに微笑んだシムホノンは、「ありがとうございます。私の命に価値が生まれました。男とは戦ってこその男と、騎士をしていた父からはよく言われましたが、本が好きで捨てられませんでした。その私の人生を賭ける価値がありました。ありがとうございます。必ずメーライト様の力になります。お任せください」と言うと、一冊の本を渡し「昼までかかってしまいましたが、今一番必要な一冊です」と伝えた。
「この本は?」
「【魔術と魔法】、2人の若者が魔法と魔術、それぞれに出会い、切磋琢磨します。最後にはどちらが上かを競い、戦い、悲しい別れに見舞われる作品です」
本を渡したシムホノンは少し恥ずかしげに、「万一…読み終わられてから、また使徒様の事で悩まれましたら、私のメモをお読みください」と添えて紙を渡す。
中を見ようとするメーライトにシムホノンは、「悩まれた時ですよ。現れた使徒様を見て、私と同じ方でしたら、私を思い出して笑ってください」と言う。
その言葉の意味がわからないアーセワではない。
アーセワが心配そうにシムホノンを見た時に、「本を届けるまでは、この身体が朽ちようとも、魂魄の一欠片になろうとも、私は尽き果てません」と言い、メーライトに「メーライト様、アノーレ様に砦でお時間が欲しいと言っていただきました。メーライト様のお許しは本を持って参じた時にくださいませ」と言って「時間が惜しいので、私は本棚へと向かいます!それでは!」と走っていってしまった。
「え?司書様?アノーレさん?」
困惑するメーライトと、「あなた何をやってるの?」とアノーレに聞くアーセワ。
アノーレは「あはは。いい男を見たら声をかけたくなるじゃない?」と誤魔化していた。
アーセワはすぐに老騎士に撤退準備を命じて、メーライトは着替え以外では「落ち着かなくてごめん。読書して」とアノーレに言われていた。
アーセワは城のバルコニーに出ると、「アルーナ!撤退準備を始めています!前に出過ぎずに!」、「アナーシャ!あなたはギリギリまで足の速い連中を優先排除!」、「アーシル!殿はあなたになります!アルーナの指示で裏に来てください!」と各個に指示を出していく。
「了解だ!デカブツはどうする!?」
「神様が倒れられると困りますが、司書が残って本を探すと言っています。後顧の憂いは取り除きます!消し去る必要はありません!息の根だけを止めなさい!」
「了解だ!アナーシャ!お前の必殺の矢とアタシの必殺なら、どっちが神様の負担にならない?」
「日数面でもアルーナの方がいいわよ!私は数撃って敵を減らします!」
「わかったぁ!アーセワ!神様の元に戻れ!アーシル!アタシがデカブツをやったら、お前は馬車に行け!」
「りょーかいだよ!」
アーセワは連携が取れている事を見て安心してメーライトの元に戻った。
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