第4話 救国の女神はアーセワを喚ぶ。

中庭を抜けて奥に通されると、老神官が駆け寄ってきてメーライトの手を取ると、「よく来てくださいました神託の女神様」と挨拶をしてきた。


「はい?神官様?」

「神様から神託がございました。救国の御力をメーライト様に授けたとありました。ですが、ナイヤルトコが攻め込んでくるとは思わず、またメーライト様をお探しした為にお迎えに行く事が遅くなりました。しかしこうしてお会い出来たことを光栄に思います」


メーライトは確かに夢も見たし、女神が現れて「救済のペン」を授けてくれた。


だがこれで何が出来るというのか?

メーライトはわからないまま、神官に「救済のペン」を見せて、「神官様、私は何をすればよろしいのですか?」と質問をした。


老神官は「救済のペン」を見ると五体投地をはじめて、「ありがとうございます!」と言い出す。


ドン引きのメーライトが「あの…、使い方」と言った時、奥からは「裏口からナイヤルトコが入ってきた!」と聞こえてくると、すぐに剣のぶつかる音や怒号、魔法の爆発音なんかも聞こえてくる。


メーライトは分かっていなかったが、今いる部屋から門の開錠が可能で、1人で乱戦を抜けた斥候が部屋に来ると、騒ぎを起こす為にメーライト達にナイフを投げつけてきた。


だがその行動自体は間違いで、偶然メーライトを狙ったナイフは老神官が身を挺して庇い、斥候は後を追ってきた老騎士に討ち取られる。


老騎士は「ロシピキ!」と言いながら老神官に駆け寄ると、老神官は「大丈夫です。神託の女神様をお守りできて良かった」と苦しげに言う。


「神託の女神?」

「この方です。メーライト嬢が神様から救国の御力を授かりました」


老騎士は首を傾げながら、「わかった。とりあえず負傷者や戦えぬ者を連れて、二番まで退がる!行くぞ!」と声をかけるが、「レーカンパー、それは若い騎士に頼み、メーライト様と私をこの場で守ってくれ」と返される。


正直、古い友の言葉とは言え、世迷言、耄碌、痴呆を疑いたい気持ちの老騎士は、「この方が神託の女神だとしても、あの細腕で何が出来ると言うのだ!?今はまず二番を目指すんだ!」と詰め寄るが、老神官は「やる事は神様から賜っている…。見届け守ってくれ」と言うと真剣な眼差しでメーライトを見る。


その間に非戦闘民を逃がす指示を若い騎士に出す老騎士。


眼光だけで威圧されてしまうメーライトに、「メーライト様、そのペンで誰の事を書かれましたか?」と聞くと優しく微笑む老神官。


「え…、アーセワのことを書きました」


メーライトは話しながら荒唐無稽なやり取りに恥ずかしくなるし、老騎士は「誰の事だ?」と言っている。


「はい。神様からはその方がメーライト様のお世話をなさると言っていました。私はその方とメーライト様を、お繋ぎする為にここにいます。アーセワ様の事を書かれた紙とペンを持ち、来るように命じてください」


周りからは絶叫と怒号が木霊する。

そんな時に何をやっているのかと老騎士は思うが、メーライトは「やってみます」と言うと、ペンと紙を握りしめて、「アーセワさん、来てください」と言うと、紙は光り輝き、前に行き、光は人の形になり、「神様、お喚びくださりありがとうございます。このアーセワがお世話をさせていただきます。尽くさせていただきます」と言った。


見目麗しいレイド服の少女は、感涙する老神官に「お勤めご苦労様でした。あなたは退去してください。神様の事はお任せなさい」と声をかけると、老騎士に「大体の状況は察せますが、戦況と古い物語を用意してください」と指示を出す。


目の前で神の奇跡を見てしまった老騎士からすれば従うほかなくなる。


老騎士は戦況を伝えながら、若い騎士に老神官を連れて二番まで退がる指示を出していく。


「本をここに、本さえあれば神様ならこの状況を逆転可能です」


アーセワの言葉に、メーライトは「えぇ?私ですか!?」と驚き、老騎士は「わかりました!」と言って娯楽室を目指していく。


「アーセワさん!?」

「ふふ。アーセワとお呼びください。神様になら可能です。路地裏で倒れた私に素敵な人生をありがとうございます」


アーセワが微笑む中、戻ってきた老騎士は、煤汚れた本を出して「奴ら、火を放ったせいでこの一冊しか確保できなかった」と報告してくる。


笑顔で受け取ったアーセワは、「神様、お時間が限られていますが、この物語を読み、私のような救うべき存在を見つけ、その者に生と使命をお与えください。そしてそれを「救済のペン」で書き起こし、お喚びください。喚ぶ者は武芸達者な者が良いです」と言うと、怒号や絶叫、悲鳴なんかが飛び交う戦場にも関わらず、テーブル席へとメーライトを案内した。



メーライトはこんな時なのに新しい物語に心躍ってしまった。


【太陽の戦乙女】

地の底から魔物達が溢れかえり、地上を目指してきた。人と魔物は相容れない存在。一進一退の戦いの中、人々は陽光山の山頂に眠る聖剣を抜いて魔物との戦いを終わらせようとする。


だが聖剣を振るえるのは若き乙女だけ。


過酷な試練に耐えた3人の乙女達、ワノーレ、ナマラマ、アルーナ。

3人は臆する事なく、戦装束に身を纏い陽光山に挑む。


聖剣を護る神獣との戦い、聖剣に群がる魔物との戦い、途中アルーナは谷底に滑落してしまい、ナマラナはワノーレの前に聖剣に辿り着き、聖剣に手を伸ばしたが、乙女ではない為に聖剣に相応しくないとして拒まれて消失してしまう。


その後、聖剣デイブレイドを手にしたワノーレは、空を駆け、一振りで万の魔物を切り裂き、魔物を地の底に追い返して世界に平和を取り戻す。


最後は3人の戦乙女の像に聖剣デイブレイドが安置されて、太陽のような光を放っていた。



読み終わったメーライトは、喚び出すのは神獣を弱らせてたくさんの魔物を率先して倒したナマラナだと思った。


消失したが実は助かっていた。

そう思ってイメージをしてもイメージは固まらない。


その間も戦闘音は聞こえていて、焦ってしまっている。

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