第4話 ロビーで蘇生させたり換金したり

 地下六階から五階に上がると、なんだか不思議空間となるね。

 具体的には洞窟だった迷宮が急に開けて空が見えるんだけど、迷宮の中で、階段を上るとまた違う空がみえるという、なんかへんな空間なんだよ。

 いったいどういう仕掛けなんだろうなあ。

 不思議でしょうがない。

 

「空は天井に映ってる幻なのよ、一応外界の時間に合わせてあるらしいけど」

「そうなのかー、大がかりな事をするんだなあ」


 しかし、深い所から上がってくると息が切れるね。

 運動不足かもしれないな。


 迷宮は階層を上がるごとにのんびり度が上がっていくね。

 空はもう赤くなって、来ている配信冒険者さんたちも帰り支度のようだね。


 三階まで来た、あと二階で地上ロビーに出れるのだ。

 地上一階の地獄門を入った所はロビーになっていて、各種手続きとか、迷宮で出た品物を売っている売店とかがあるね。

 地下二階はレストランが入っているんだけど、もの凄く高いね。

 超高級レストランみたいだなあ。


 で、三階から五階までは草原になっている。

 不思議な構造だよねえ。


 三階の階段を上がると、途中で景色が変わって、二階のレストラン街が急に現れる。

 そのまま階段で上がって行くと、一階ロビーに出られる。


 俺のゴリラは透明なので、死体とか荷物が空中にふよふよ浮いている感じになって、行き会う冒険配信者さんが、ぎょっとしていた。


「山下さんと野末さんをこっちに」

「解ったよ、なんか、怖そうな場所ね」

『ふふふ、怖くは無いぞ、ヒデオよ』

「ぎゃあああっ!!」


 なんだか巨大な一つ目の化け物がドアの向こうから現れたので、俺はびっくりしてしまった。


『うわ、やめたまえ、ヒデオ、透明ゴリラを止めるんだ、痛い痛い』

「あ、やめなさいよ、ヒデオ、閣下だから」

「か、閣下? 悪いバケものじゃないの?」

「悪魔教会の悪魔神父さんだよ、乱暴しちゃだめ」

「ああ、ごめんなさい、ゴリ太郎、止まって」

『うほ?』


 ゴリ太郎が思いきり殴っていたのに、閣下と名乗る大目玉さんは凹みをポコンと直して大丈夫だったようだ。

 意外に頑丈だな。


『酷い目にあったよ。今日は何の用だね、『サザンフルーツ』くん』

「護衛の、山下さん、野末さんを蘇らせてください」

『解った、お支払いは『リーディングプロモーション』からだね』

「はい、社長の許可は取ってあります」

『では、こちらの台に二人の遺体を乗せておくれ』


 俺は大目玉閣下の言う通りにテーブルに二人の死体を乗せた。

 しかし、本当に死んでるのに、復活って、できるの?


『『冥府の門よ再び開け、力尽きた同胞をわが大地にもどし新たな活力を与えたまえ、【復活リライブ】』


 まばゆい光が天から降ってきて二人の死体を包んだ。

 ごほっと咳をして、死体だった二人は動きはじめた。


「死んでたか」

「いつ味わっても嫌な経験だ」


 二人は顔をしかめて毒づいた。


「いま、【治癒ヒール】しますからね」

「すまない」

「しかし、よくあのトレインを切り抜けたね」


 ヤヤちゃんが治療魔法を生きかえった二人に掛けていた。

 ずいぶん簡単に生きかえるんだなあ。

 魔法って凄いなあ。

 それで、目玉のオバケがふよふよ浮いているのに平気なのもすごいなあ。


『ヒデオは、伝統系の霊獣使いとか、そっちの方面のようだね』

「んー、なんだかよくわかりませんが、そうかもしれませんね」


 閣下に、ビシリと言ったが、霊獣系ってのが良く解らないな。

 代々引き継いでいた超能力だぞ、これ。


「君が『サザンフルーツ』を守ってくれたのか、ありがとう」

「見た目よりも凄腕なんだね、君は」

「いえいえ、生きかえって良かったですよ、ははは」


 さて、用事は済んだので逃げようと思ったら、ヒカリちゃんがシャツの後ろを持っている。


「逃げるつもりね、ヒデオ」

「そそそ、そんな事は無いのだよ、ヒカリちゃん」

「嘘だっ」

「ぐぬぬ、おじさん早く換金して、飲みに行きたいのよ」

「じゃあ、一緒に行きましょうよ」


 ミキちゃんがほがらかに言って寄って来た。


『良いなあ、おじさんなのにモテモテだ』


 なんだか大きい目玉で閣下なのに、気さくな人柄の魔物さんみたいだね。


「ヤヤも行こう、山下さん、野末さん、もう大丈夫でしょ?」

「ああ、もう歩ける、ありがとう」

「ヒデオさんにお礼して上げてくれ」


 そんなに丁寧にしなくても良いんだけどね、俺はおじさんなんだから。


 『サザンフルーツ』の三人に連れられて、買い取りカウンターに並んだ。

 というか、凄く綺麗な外人のお姉さんが勘定してくれるんだなあ。

 というか、角が生えてたり、背中に小さな羽があったりするなあ。

 魔物というか、悪魔さんなのかなあ。

 なんだか、普通の人間にも見えるね。


 ゴリ太郎、ゴリ次郎の持っていた、魔石と装備品をドサドサとカウンターに下ろした。


「ハムとカレーは?」

「あれはアパートに帰って食べるよ」

「今日は一緒に夕食しませんか、きっと高橋社長から誘われると思いますよ」

「え、社長さんとお食事? おじさんなあ、あんまり偉い人とご飯たべるのが苦手なんだよ。いつも説教されて怒られるからね。あんまり美味しく食べられないのさ」

「わかるーっ!! 偉いおじさんって奢るの好きだけど、セットで説教してくるよねっ」

「そうそう、ヒカリちゃんも怒られる口かあ」

「まあねーっ」


 カウンターの女悪魔さんは無表情で魔石を数え、装備品を鑑定した。


「七万四千七百五十円となります、現金でお支払いしますか?」

「そんなに! すごいなあ、半日で七万も、迷宮は良い所だねえ」

「ヒデオ、Dカード発行してもらいなさいよ。配信料も入ってくるはずだし」

「配信料?」


 クスクスと笑い声がして、別の女悪魔さんが寄ってきた。

 あ、この子の事は、俺でも知ってる。

 世界一有名な女悪魔さんのサッチャンだ。


「わあ、サッチャンだ」

「おやおや、ヒデオさんでも私は知ってますか。はい、Dカード発行しておきましたよ」


 サッチャンは俺にクレジットカード状の物を押しつけた。


「あー、ごめんなさい、クレジットカードは作らんようにしているだよ。おじさん意思が弱いから、すぐ借金が膨らむからねえ」

「Dナンバーと紐付けされた口座のカードですよ。クレジット機能もありますが、身分証明書としても機能します。あと、Dスマホの最新型と、コメントチェッカーも上げましょう」


 なんか、怪しい物をどんどん押しつけられるぞ。

 おじさん知ってる、これは悪徳商法の匂い。


「わ、ヒデオ、サッチャンに気に入られたっぽい」

「ええ、こんな強い霊獣を従えているのですもの」


 サッチャンはうっとりして、ゴリ太郎ゴリ次郎を見上げた。

 おお、見えているのかな。

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