第37話 好きで嫉妬でごめん

「成海はさ……引っ込み思案だけど、なんだかんだで良いやつだった。僕は高校の頃と打って変わって、成海と仲良くなった。別にめちゃめちゃ遊びまくるとか、どこかに行くとか、そんなじゃなくて。ただ普通に世間話して、たまにご飯を食べて……それぐらいの関係だよ。ま、それぐらいが一番良かったんじゃないかと思う」


「そうなのか?」


「そうだよ。だって常に一緒にいると疲れちゃうじゃない。君も恋人できたらわかるよ。ずっと一緒にいるよりは、ある程度の距離感って大事だよ。お互い好き同士なら、たとえ離れも信頼できるだろうからね」


 鈴城に恋愛について語られてしまった、超意外過ぎて何度もまばたきしてしまった。


「話がそれたね。そんな中、僕達は社員の一人だった夢彦と出会ったんだよ。夢彦はずっと前からツクルGに就職してたけど、会議とか何かしらない限り、会う機会なんてないからね。で、僕達は夢彦を見て、そのカリスマ性に惹かれた、好きになっちゃったんだ」


 さすがは夢くんだ。きっと鈴城や成海さん以外の人も夢中にさせちゃうんだろうなと思うと……(くそ、やだな)と思ってしまう。


「その時、成海はちょうど夢彦の下に配属されてね、彼の下でゲームプランナーの仕事は学んでいた。で、いつしか仲良くなって二人は付き合うようになってしまったわけ」


 それがいつかも見た二人の仲良し写真。とても楽しそうだった。でも鈴城の心境を思うと――。


「そんな成海が僕はうらやましかったな。あの夢彦の笑顔をそばで見れて幸せそうでさ」


 わかる、とてもわかる。自分だって鈴城が夢くんといた時は頭に血が上った。伊田屋さんから夢くんは矢井部長の権限を用いて鈴城と無理に付き合わされていると聞いて。鈴城という敵から夢くんを奪い返してやるんだーっ、なんて思っていたけど。


「ってことはさ……あんたは夢くんと付き合いたかったんだよな?」


 プライドの塊の鈴城は、どんな手を使ってでも手に入れようとした。でも成海さんは一応友達だから直接手は出したくはなくて。矢井部長を使って成海さんを追い詰めて……?

 そんな考えを抱いた時。鈴城はそれがわかったのか、首を横に振った。


「あのさ、僕だってそこまで悪役じゃないよ? そこは、それだけ。成海がうらやましかったけど。君もさっき言ったように恋愛なんてね、二人のもんだから。それを邪魔することはしなかったよ」


「そ、そうか」


 それは悪い考えをしてしまった。鈴城、意外とロマンチストな一面もあるようだ……というか自分と同じ考えみたい。


「だけど……おじさんが」


 鈴城は今度はイラ立ち混じりのため息をつく。

 おじさん……白髪部長のことだ。


「成海を気に入り過ぎて……夢彦の知らないところで成海に手を出した。僕もそれを知った時はもう遅くて……成海は追い詰められてしまったんだ」


 その事実に胸が痛んだ。 頭の中に浮かぶのは、あの嫌な男だ。自分のことも突然襲ってきた最低なやつ……動きを封じられ、どうにもできなくて怖かった、成海さんも同じだったんだろうか。


「成海は夢彦に期待されていた。それは成海にとってはプレッシャーもあったろうけど、嬉しかったと思う。頑張って応えようとしていた……前に僕は夢彦が成海を追い詰めたなんて言っちゃったけど。本当の本当に精神をどん底まで追い詰めたのは――」


「……あんたはそれでいいわけ?」


 日々希は歯ぎしりをした。成海さんのことを、夢くんのことを思うと。悲しくて、切なくて、イラッとした。


「身内が友達を追い詰めて死なせたんだぞ。あんたはそれでよかったのかよ」


「――いいわけ、ないだろっ」


 鈴城の目つきが不愉快そうにキッと細められた。


「いくら僕でも友達……人を死なせた人間を許せるわけない。けど証拠がなかった。社会的制裁を与えるための証拠がね……だから逆におどしてやった。おじさん、部下に手を出したんでしょうって。それを秘密にして欲しかったら僕の言うこと聞いてよねって……成海がいなくなったのは好都合だと思ったこともあるよ、これで夢彦をってさ」


 ここまでは鈴城が良いやつに見えていたのに。その話で急に悪いやつに見えた。

 けれど鈴城の表情が苦しそうに見えたから前みたいに“このヤロー”とは思わなかった。


「とりあえずおじさんを泳がせて、何かしら証拠が出ないかと思ったんだ……そこまでして夢彦を縛ってしまったのは悪いと思ってる。僕もただ夢彦が好きだったんだ。無理にでも手に入れればいつか振り向いてくれると思って。でも夢彦は何をしても僕の方を見てくれないんだ。むなしかった」


 そう言われると鈴城のことを怒れない自分がいる。好きな人にそばにいて欲しい、手に入れたい気持ちはわかる、どんな形であっても。


(俺だって夢くんを手に入れたい、なんて思っていたから。同じなんだよな)


「……やれやれだね」


 鈴城はあきれたような声を出すとカップのコーヒーをまた一気飲みした。さっきからカフェインばっかりで身体に悪そうだ。


「なんでこんなこと、君に言っちゃうかな〜。まっ、久々にくだらない遊びに付き合って楽しかったから。たまにはいいよ、またやってあげても」


 そう言う鈴城の方が楽しんでいたくせに。

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