第22話 ダンジョンコア破壊

「いつまで拗ねてんだ嗚桜」



野心鬼は意気消沈している嗚桜を窘める。

ダンジョンコア破壊を最優先にする事が決まり、既に炎の仮面冒険者の姿は無い。



:100層踏破の瞬間を見れないから拗ねたのか【天譴】

:クランメンバーの弔いの気持ちもあったんだろう



「結局俺達は力不足だったって事だ。それを受け入れ奮い立ち再び精進出来るかどうかだろ?違うか?」

「……分かってる。いつか仲間と自力で100層踏破をしてみせるさ」



:それでこそ東京随一のS級冒険者

:【東魔天譴】応援してるぞッ!



暫くしてダンジョンが大きく揺れた。


:うおぉぉぉッ!?

:なんだこれ?

:めっちゃ揺れてるぞ


「大将ッ!」

「ああ。コアが破壊されたんだろう」


その地響きと共に真っ暗闇だった95層は黒から灰色の景色へと変化していった。


:これがコアが破壊されたダンジョンの姿なのか?

:幻想的

:日本初のダンジョン制覇きたああああああああああああッッ!!!!

:お前ら祭りだああああああああぁぁぁぁあぁぁッッッ!!

:コメ欄爆速www

:同時接続数430万ww

:SNSでもトレンドワード世界一になっとる

:これで日本が世界で5番目の100層踏破国か


:【防衛省からのお願い】アクセス過多によりサーバーダウンの心配が出てきた為、負荷軽減のブラウザバックの御協力お願い申し上げます。


:鯖落ちするかもしれんのか

:たしかになんかラグくなってきたな画面が

:なんかカクカクするわ

:しゃあない。窓閉じて酒やつまみ買ってくる


:【防衛省より】急ではございますが本日のライブ配信はここまでとさせていただきます。ここから先の映像は後日防衛省公式HPにて録画映像として公開させていただきます。


:ありゃ残念

:鯖落ちするかもしれないし

:でも急だな。政府が動いたのか?

:国にとって都合の良い映像しか公開されないパターンかもしれんのか

:民草はダンジョンコア破壊&100層踏破の事実だけ喜んでろよってか

:『休暇欲しいです』って呟きでお偉いさんに怒られてるパターンかも

:もしかして配信担当の人やっちゃった?

:和奏ちゃんまで処分されませんように



ライブ配信は終了となり、コメント欄も徐々に人が減り、閑散としていった。



「――そうか。配信終了か」



野心鬼にもインカムで配信終了が伝えられた。

コア破壊から30分程で依然として冷蔵庫姿の仮面冒険者が2人の元へ戻ってくる。



「コアを破壊してきました」

「この光景を見る限り事実なんだろう。アクセス過多によるサーバーダウンを防ぐ為、ライブ配信は既に終了が発表された」

「そうなんですか。異変調査に同行する条件はライブ配信って約束しましたよね?」

「ああ」

「なら帰宅させていただきます。配信が続くならコア破壊後の96層から100層の探索にも同行するつもりでしたけど」



既に自分の役目を終え、原宿ダンジョンへの興味も失い、心ここにあらずな口調で話す仮面冒険者。

立ち去ろうとする仮面冒険者に対し、嗚桜が詰め寄ろうとする。



「なあ?お前って――」

「やめとけ」


嗚桜が抱えていた疑念をぶつけようとする前に野心鬼が制す。



「それは不規則氾濫を鎮めた功労者に向ける言葉じゃない」

「……」


嗚桜もその言葉を発すれば二度と共闘する事は無いと自覚してる為か、憮然としつつも野心鬼に従った。



「俺からひとついいか?」

「なんでしょう?」

「その力、どうしてもっと早く人々を守る為に使ってくれなかった?」


野心鬼の問いに仮面冒険者は押し黙り、ややあって吐露する。



「……ガキの頃から両親に『絶対に冒険者にだけはなるな。頼むから親より先に死なないでくれ』と言われて育ってきたんで」

「親の願いか……嗚桜よ。この言葉に嘘があると思うか?」

「いや……馬鹿な事考えて悪かった」


嗚桜もバツが悪そうに謝罪した。



「じゃあ帰りますね」

「新クラン……【炎麗黒猫】だったな。活躍を期待している。また政府から協力要請があるかもしれんがデカいクランを創るならそこは覚悟しておいてくれ」

「土日は休みでお願いします」

「ハハッまあ善処しよう」



野心鬼は不規則氾濫の調査による重圧から解放されたからか快活に笑う。



「帰るにしても地上の原宿はもう凄い事になってるんじゃねぇか?英雄凱旋だな」


嗚桜の言葉に対して仮面冒険者は――。



「原宿は喧騒が凄そうなんで【池袋】から帰ります」

「お前何言ってんだ?」



「実は東京のダンジョンて120層で全部繋がってるんですよ。ではでは」

「お、おいッ!ちょっと待てッ!!」



炎燃え盛る冷蔵庫は突然強風に煽られたかのように姿形すがたかたちを崩し、その場から消えた。



「最後に爆弾落としてんじゃねぇぇええええぇえ!!!!」



嗚桜の絶叫虚しく、炎の仮面冒険者は帰宅した。




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