第2話 飯 飯 飯!
「エゲレア!目が覚めたのか!エゲレア!」
「エゲレアァァァァ!」
うるさいな。
急に部屋の中に何かが入ってきたかと思ったらこれだ。
あんまり耳元で騒がないで欲しいな。
この枕元で騒いでいる人間たちが俺の両親なのだろう。
愛娘がほぼ死んでいる状況から目を覚まして言葉を発すればそりゃ感極まるのも分からなくもないが、出来ればやめて欲しい。
魔力の循環が乱れるからな。
まだこの体が子供の物かどうかは確定した訳じゃないが、体感両親の半分くらいに見えるからたぶん子供なのだろう。
それも、痩せほそりとても小さな子供だ。
ただでさえでも子供の体の魔力循環がどうなっているかなんて分かんない上に飢餓状態と病気のせいで上手く魔力を回せない。
集中したいから出来れば騒いだり揺らしたりするのはやめてもらいたいものだ。
と言っても現状、声が上手く出せないので伝える手段などないのだが。
「エゲレアァああああ!」
だ、か、ら、大きい声を出さないでくれ。
頼むからオットセイみたいな声で泣かないでくれ。
嬉しいのは分かるから、さ。
──というか、それにしてもこの体、どうなっている?
魔力を巡らせていてふと気づいたが、この体は病気だ、とか飢餓状態だ、とかそんなもんでは説明がつかないほど弱っている。
確かに肺は病に侵されていて息が苦しいが、それでもここまで弱るほどでもなし。さらに食事を受け付けなかったことにより飢餓状態だ、としてもこんなに弱らない。
病気や栄養失調が影響を及ぼすはずのない魔力循環そのものになんらかの干渉を受けているっぽいのだ。
だから、それ以外のなにかがこの体に悪さをしていると思うのだが……
……恐らく呪いかなにかだろう。
この状態は前の体の時に同じような事になった事があるから分かるが、魔力循環器を蝕む呪いを受けている。
この体の両親はこの事実に気づいていない様に見えるが……つまりは、この家のお嬢様は外部からの呪いを受けているという事になるな。
え、なにそれ、こわ。
俺いま命を誰かに狙われてるの?
なんで2度目の人生でも命狙われているんだか。
「エゲレアぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
……それにしても五月蝿いな。
ちらり、と目を開き非難の目線を向けると、両親は涙に顔をぐちゃぐちゃにしながら咽び泣いており……まあ、うん、こう言っちゃ悪いが滑稽な顔だった。
「お二人とも、お嬢様が困っています。嬉しいのはわかりますが、今はそっとしてあげましょう」
先ほどのメイドが両親を止めた。
そして、俺の心を察したのか両親はすまなそうに静かにした。
うん、物分かりが良くて助かる。
娘のことは大好きで大好きでしょうがないようだが、察しはいい様だ。
部屋から両親が去っていった。
それにしても、この体の主であったエゲレアは相当両親から愛されていたようだ。
両親の反応から分かる。
きっとエゲレアは可愛らしい普通の少女だったのだろう。
それだけに、複雑な感情になるな。
なにせもうエゲレアは死んでいるのだ。
誰かによってかけられた呪いにより、衰弱死。
それがエゲレアの死因だ。
そして、抜け殻となった体に偶然宿ったのが俺という訳だ。
本当に、偶然だろう。
稀に死の直後の死体に、魂が宿り再び動き出すなんて事を、ある種の都市伝説的に聞いたことがあるが、本当に自分がそうなるとは……
まあ、別に助けられなくて申し訳ないとかなんだとか感じている訳じゃないけど申し訳ないなど一ミリも感じていないが。
それでもエゲレアからこの体を貰ったのだ、最低限やるべき事はあるだろう。
──この体に呪いを掛けた人間を殺す。
それが俺なりにやるべき事だろう。
ただ、まだそれをするにはこの体は貧弱すぎる。
もっと鍛える必要があるだろう。
▽
魔力を体内で循環させ、呪いによって蝕まれた肺腑を無理やり動かす。
ただ、これはあくまでも一時的な処置だ。
きちんと栄養をとって魔力を循環させて、長い時間を経てようやくこの呪いに打ち勝てる。
だから、この呪いに勝つために最初にすべきことは……
「メイド……めし、をようい、し、ろ」
近くに控えるメイドに命令する。
「わ、わかりました!」
俺の言っていることを理解したのか、すぐに部屋から出ていった。
食事は正義だ。
魔力は無から生まれない。
しばらくの応急処置に必要な魔力に必要な魔力の確保にすら食事は必須だ。
さらにこの衰弱した体を元通りにするのにも魔力は必要。
つまりは俺に必要なのは飯なのである。
「は、はい。こちらです。粗末な物ですが……」
出されたものは粥だった。
シンプルに塩で味付けされている。
とにかく消化に良い病人食という感じだが、俺としては肉とかもっとエネルギーのあるものを食べたいものだが、この体では厳しいだろう。
まあ、正直食欲なんてないし、粥ですらも体が受け付けるとも思わないが、無理やり喉に詰め込む。
「うっ、おえぇ」
普通にえずいた。
そりゃそうだ。
この体はすでに一度死んでいる。
そんな状態の体の胃に無理やり飯を詰め込もうとすればこうなるのは当たり前だ。
「だ、大丈夫ですか、お嬢様!?」
「大丈夫だ。何も問題はない、おぇ」
拒絶反応が出た。
止めようとしてくるメイドを制止しつつ、胃に下す。
気持ち悪くて仕方がないが、ここは我慢すべきと食ったものを押し返そうとしてくる喉を押さえ、粥を食べた。
「お嬢様、全部お召し上がりに!?」
そんなこんなで粥を完食した私の様子を見たメイドは、どこか心配そうにしている。
そりゃそうだ。
だってお嬢様が急に起き上がったかと思えば飯を要求し、えずきながら無理やり喉に詰め込む様を見れば心配に思うだろう。
側から見れば異常な光景だろう。
俺だってそう思う。
でも、今はそうしなければならない。
今は吐きそうになってでも飯を食わなきゃならんからな。
「ふう、片付けておけ」
唾液やら胃液やら、いろんな物が混じって気持ち悪い事になった口周りをナプキンで拭かせつつメイドに片づけさせる。
さて、目下やるべき事はやった。
魔力の循環に集中しようか。
そして俺は目を瞑った。
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