水面下で絶望の淵に立たされている世界に《英雄》が帰還する

赤いねこ

第1話 プロローグ

 この世界では異能を授かった者を祝福者と呼んでいる。

 祝福者は主に2つの勢力に分けられている。

 一方は、世界を終わらせるためにすべての敵となり、もう一方はそんな勢力から人々をそして世界を守るために日常を生きるために戦った俺含め《英雄達》、その2つの勢力の戦いは1800年代前半から2080年の現在までずっと続いていた。

 そんな戦いは一度、佳境を迎えていた時期があった。

 今から60年前、俺の世代の《英雄達》には

 傑出した力があった。

《英雄達》は人々を恐怖に陥れていた勢力、

《レイシャ》を壊滅の危機にまで追い込むことに成功した。しかし、《英雄達》は戦いのなかで死んでいってしまった。

 ただ俺一人を除いて。












「ここが指定された場所か」


 そう呟きながら日本のとある山奥にある洞窟の入り口に立っている黒い鞘をした大太刀を腰に携えた青年――――神楽かぐら ゆうは、手紙で記されていた通りに誰にも伝えず、そしてたった一人で罠かもしれない要求に従いここまでやってきた。

 というか確実に罠だろこれ。まぁ罠かもしれないけど行かないといけないんだけどな。

 優は自分が死ぬ可能性を考えず――否、絶対に死なないと考えてこの要求通りに罠にかかりにきたのである。

 優は後ろを振り向き空を見上げる。今は6月。日本では梅雨の季節のため雨は降っていないがとても不快な天気をしていた。

 怪物でも召還されるみたいだな。


「ふ~~、ふ~~、ふ~~………よし、行くか」


 深呼吸をして覚悟を決めた俺は重いような軽いような足取りで洞窟の中へと足を踏み出した。

 しばらくはずっと長い道のりを歩いていたが、

 10分ほど歩いたところで少し――いやかなり開けた場所に出た。


「なんだこれ………」


 洞窟内では考えられないようなものがそこにはあった。

 扉だった。おそらく鉄の扉だ。6mほどの高さの扉があり俺は動揺せずにはいられなかった。

 洞窟にこんなもんがあるとはな。だがこんなものがあるということは場所はここであっているというようなもの。

 ……………入ろうか。


 ギギギギギギィ


 若干錆びたような音を出した鉄の扉は一般人なら開けられないような重さだが、俺にとっては簡単に開けることができるようなものだった。


 扉の中はただひたすらに広かった。

 ただ広いだけで何もない。その広い洞窟にはいくつかの鍾乳洞や盛り上がった岩などがありそして人の気配がした。暗いからわかりづらい。

 確認できる数は8人。かなり遠い位置の岩の近くに8人全員が固まっている。


 ガシャン


 …………扉が閉まったな。これもしかしてピンチ?

 扉が閉まると敵の中の1人が何かしだした。異能を掛け合わせようとしている?いや!違う!生け贄みたいなものか!

 明らかに嫌な気配を察知した優は焦る。


「まっ……ずいなぁ!!」


 優は敵の方に走り出した。距離は50mほど。

 50mを1秒もかからずに走りきる優は一瞬で距離を詰めようとした。しかし、動ける敵5名が優と同時に走り出す。

 ただ優の方が圧倒的な速さを持っているため敵が走り出した瞬間に優に距離を詰められる。

 優は出てきた敵5名を無視して何かしようとしている敵の方を優先して殺そうとするが、5名の敵が優の邪魔をしようと自身の体で肉壁を作る。異能を発動しようとする。だが、発動するまえに優が大太刀を抜いて一瞬で敵5名の首を跳ねる。


 間に合え………!!


 優が残りの敵を殺そうとする。しかし、

 既に手遅れだった。

 最後の一人となった敵は、生け贄としたであろう2人の敵の横で立っていた。

 最後の敵は異能を発動していた。

 瞬間、最後の敵を中心に何かが広がる。透明な何かだ。優は大太刀を振りかぶり不敵に笑っている敵を切り捨てようとするが、透明な何かが優の体を通りすぎる。

 優は体が動かなくなった。

 同時に視界がなにも写らなくなる。真っ暗だ。


 あ~~~………詰んだかなぁ。

 これは詰んだわ~。


 優はいたって冷静に自分の状態を分析する。

 無理やり体を動かそうと全身に力を入れる。しかし動かすどころか力を入れることすらかなわない。


 ……………終わったか。

 感覚からして動けないじゃなくて、

 動かすことが不可能だみたいな感じだな。

 もしかして時が止まってんのか?

 どうしようもできないか。

 時間が過ぎるのを待つことにしよう。


 優はもうどうしようもできないと悟り、ひたすらに何かができるようになるまで待つことにした。


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