第29話 灯台下暗しってやつ
ここは僕の屋敷なんだけど、今晩の食卓はいつになく賑やかで華やかだった。
それもそのはずで、明日に向かう予定のエドガータワーもここから距離が近いってことで、前夜祭のために【狼の魂】パーティーは全員うちに集合していたんだ。
メイドのエルシアが怒るかどうか心配したけど、ここまで賑々しいのが興味深いのか満更でもない様子。
ちなみに、僕の師匠は庭のテラスにあるハンモックでお休み中だ。マイペースな人だからね。休みたいときに休む、遊びたいときに遊ぶって感じの人だから。
そういうわけで、師匠だけがいない席で晩餐会で話題に上ったのは、当然の如く【超越者たち】パーティーの件についてだった。まあ、あんなことがあったばかりだからね。
「立派に貢献されていたピッケル様を理不尽に追放した上、友人に金を握らせた挙句脅し、悪評を垂れ流すなんて言語道断ですわ……!」
特にマリベルがこの話題に積極的で、怒り心頭の様子で捲し立てていた。
「ピッケル様も、優しすぎですわよ? ギルドにはあのクレイスという男をちゃんと監視しておくようにと、注意勧告しておきました」
「ま、まあ、クレイスも反省してたから……。それに、ギルドから戒告と減給処分も受けてたからね。次はないってことは身に染みてわかってるはずだよ」
「まあ、そのおかげでピッケルがこっちに来てくれたんだから、【超越者たち】とクレイスには感謝しても足りねえくらいだけどな?」
「ベホム様、なんてことを仰るのです⁉ ピッケル様がその件でどれだけ傷ついたと思っていますの⁉」
「うむ。マリベルに同意だ。ベホムは配慮というものが足りん……」
「ですです、マリベルさんの言う通りですぜ。ベホムなんて今すぐここから退場しやがれです!」
「……ジェシカ、ロラン、お前らなあ、俺はこう見えて、一応リーダーなんだぞ……?」
「「「リーダー失格!」」」
「ちょ、ちょっ……⁉」
ジェシカ、ロランだけでなく、新人のマリベルにも詰め寄られてベホムが参ってる様子。
「くすくす……好かれておりますのね、ベホムさん」
レビテはそんな光景がおかしいのか笑っていた。笑い方もとても上品で、エルシアがそれを見て密かに真似をするほどだった。
「笑ってる場合じゃありませんことよ、レビテ!【超越者たち】パーティーはいくら化けの皮が剥がれたといっても、ろくでもない男がリーダーなのですから、今後何をしでかすかわかったもんじゃありませんわ」
「……そうですね。その可能性はあります。残念なことにメンバーもそれに盲目的に従っていて、自分で考える力もあまりないように見受けられますので。ピッケル様の偉大な才能を見抜けなかったのもこのためなのでしょう」
「……」
マリベルとレビテの言葉は嬉しいけど、ディランたちが悪い方向に動くことは僕としては望むような展開じゃない。【超越者たち】パーティーの元一員としては、彼らにこのまま大人しくしていてほしいと願うばかりだ。
「……さすがレビテ。まったくもってその通りですわ。愚鈍な彼らが追い詰められたら、それこそ危険な香りが漂ってきますし、今のうちに対処しておくべきかもしれません。ピッケル様もそう思いますわよね?」
「……うん、確かにね。でも、そのときはそのときで、ちゃんと手は打つつもりだよ」
ディランたちのことは、一緒にいた僕がよく知ってるわけだしね。灯台下暗しって言葉もあるけど、そこから離れたからこそわかったこともある。これから彼らがどう動くのかは注意深く見守っていくつもりだ。
「そういや、あいつは向こうで何してるんだろうなあ」
ベホムがそこで思い出したように言う。
「ベホム、あいつって?」
「ほら、ピッケル。お前さんにも、以前ここに回復術師がいたって言ったことがあっただろ?」
「あぁ、そういえば……」
「カインっていう、大事なイベントがあるときでも遅刻するようなずぼらなやつでな。悪いやつじゃなかったんだが、そいつが今や【超越者たち】に所属してるって話だ」
「ここから追放したの?」
「いや、カインのやつが自分から勝手に出ていったんだよ。ウルスリには向上心がないっす、おいらにはもっと上のパーティーが似合うっす、とか言い出してよ」
「うむ。おいらはこんな狭い世界じゃなく、広い世界が見てみたいっす、とも言ってたな」
「おいらは新しいパーティーでハーレムを作ってやるっす、とも抜かしてましたぜ。大丈夫なんですかねえ?」
……確かに、大丈夫かな。逆に心配になってくる。
「まあ今更戻りてえなんて言ってももう遅いが」
「うむ。必要あるまい」
「ですです。引っ込んでやがれです」
……ベホムもジェシカもロランも、みんな結構ご立腹みたいだ。このパーティーって居心地がとてもいいし、多分今頃カインって人も戻りたいって思ってるんじゃないかな。この様子じゃ復帰は難しそうだとは思うけど。
「――ふわあ……わしの弟子のピッケルよ、いよいよ晴れ舞台じゃな……!」
「あっ、師匠……」
師匠が起きてきたかと思うと、寝惚け眼で僕に抱き着いてきた。
「誇らしい限りだのう。わしの弟子なら、きっとやってくれるであろう……」
「し、師匠……」
「ん、ピッケルよ、どうしたのだ? そのように怯え切った顔をして。もしや、緊張しておるのか……?」
「い、いや、後ろ……」
「ぬう、後ろに何かおるのかの……?」
「「「「「ジー……」」」」」
「「ひっ……⁉」」
五人の女性が僕らのことをじっと見つめていた。一人だけ、恨めしそうな感じじゃなくて、何か可愛いものでも見るような顔だったけど、それがまた妙に怖かった……。
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