第26話 見覚えがある
「――よし、もうこの辺でいいだろう。みんな、よくやった。お疲れさん!」
「「「「「お疲れ!」」」」」
ベホムが会心の表情でそう告げたことで、僕たち【狼の魂】パーティーの連携を深める作業は終わった。大分疲れたけど、それでも心地いい疲労感だ。
「っと、そうだ。そういやボスが残ってたな。どうする、ピッケル?」
「え……ベホム。僕がどうするか決めていいの?」
「そりゃ、ピッケルは影のリーダーみてえなもんだからな。お前さんに自覚がねえだけでよ」
「えぇ……?」
影のリーダーって……なんか弄られてるみたいだけど、ベホムの提案にみんな納得顔で頷いてるし、まあいいや。
「んで、どうするよ?」
「んー……ここまで来たんだし、どうせならボスと戦ってみたいかな。初心者パーティーがやられたなら仇を取りたいし」
「さすがはピッケル。お前さんならそう言うと思ってたぜ。それじゃ、早速ボスを倒しに行くとするか」
「「「「「おーっ!」」」」」
単純に、地下水路ダンジョンのボスを久々に見てみたかったっていうのもあるけど、僕を受け入れてくれたこのメンバーで戦いたいっていう気持ちが強かったんだ。
「――こ、ここから100メートルくらい先にボスがいやがりますぜえぇ……」
「「「「「っ……⁉」」」」」
ロランが緊張した様子で立ち止まり、僕たちもそれに続いた。
一見すると、なんの変哲もない通路と水路があるだけに見えるけど、さすが盗賊なだけあって索敵能力は抜群だ。
地下水路ダンジョンのボス、キングアリゲーターは隠蔽能力が高いので、盗賊の索敵能力がないと先んじて見つけるのはほぼ不可能なんだ。
「今のところ競合相手もいなさそうだな。ボスに気づかれないように少し離れて、どうやって倒すか考えるか」
「「「「「了解」」」」」
とういわけで、ベホムの言葉を皮切りに僕たちは作戦会議をすることになった。
まずはボスの特徴をお
キングアリゲーターは、古代地下迷宮のボス――アンチマジシャンの特徴とは真逆で、物理攻撃がほとんど効かない。
水路以外での動きは鈍いものの、硬いだけじゃなく攻撃力も甚大なのでタンクですら迂闊には近寄れない上、そう易々とは抱えきれない。
それなら、時間を戻す回復術でボスの存在そのものを消すか、あるいは時間を進めて老衰させるっていう手もある。
よって、ただボスを倒したいだけなら、戦士ベホムを盾にして彼と僕に予約先行の回復術を使い、一気に近づいて時間操作の回復術を使えばいい。
でも、それじゃあ今までと同じで面白くないし、折角頑張ってパーティーの連携を深めたのに、その集大成を披露する舞台としては物足りない。
なので、今回はあくまでもパーティーの一部として貢献したいと思う。
セオリーな戦い方としては、タンク役の戦士が後退しつつ、ボスを引き付けて、そこを魔術師が火の魔法、すなわち炎の壁を出してタンク役を援護しつつ遠距離攻撃し、回復術師が回復するというものだ。
だが、魔術師ジェシカは氷の魔法が得意な代わりに、火の魔法の威力は小さいという。氷の魔法を習得すると、炎の効力が弱まるんだ。実際、彼女は火の魔法を照明やキャンプ、料理くらいでしか使わないのだという。
「ジェシカ、火の魔法を出してみて」
「うむ? やってみるが、大したことはないぞ――って……⁉」
僕はまず、ジェシカの氷魔法の時間を戻して、火魔法の時間を進めることにした。これによって、ジェシカは一瞬で火魔法のエキスパートになれるってわけだ。
「気に入ってもらえたかな?」
「さ、最高ではないか。これはいい。実にいいぞおおおっ……!」
「……」
ジェシカ、炎に愛着を持ったのか抱き着きそうになってる。危ない……。
「ベホム。ちょっと転んでみて」
「へ……? ピッケル、正気か?」
「いいから」
「こ、転んでみてって言われてもよ……。こうか? って、あれ……⁉」
ベホムは意図的にバランスを崩して倒れかけたけど、そうはならなかった。何度やってみても同じことだ。
「な、なんじゃこりゃ。自分の体が自分のものじゃねえみてえだ……」
「リスタートの回復術を使ったんだ」
「「「「「リスタート……⁉」」」」」
「うん。この回復術を使用すると、足を滑らせるとか、障害物にぶつかるとか、なんらかの失敗したとき、その時間を戻して回復するっていう回復術なんだ。失敗した記憶は維持されるし体でも覚えるから、同じ失敗を繰り返してループするなんてことは滅多にない」
「「「「「……」」」」」
「タンク役がボスを誘導するべく少しずつ下がるとき、敵を見ながら後退するから、どうしてもミスをして転倒しがちになるよね? あと、その途中でモンスターが即湧きするなんていう不測の事態もある。なので、転ばぬ先の杖でこの回復術を使うってわけ」
「「「「「な、なるほど……」」」」」
みんな納得してくれたみたいでよかった。さあいよいよボス戦だ。
「来やすぜ……!」
「グオオオオォォッ……!」
盗賊ロランの声がした直後、紫色のオーラを纏った、見覚えのあるモンスターが姿を現す。
キングアリゲーターだ。最初にこれを見たときはもう、大迫力で心臓が口から飛び出るかと思ったくらいだ。
「ふむ。ゆけっ……!」
魔術師ジェシカが分厚い炎の壁を出し、戦士ベホムに接近しようとするボスの進路を阻みながらダメージを与える。
ボスの纏う魔力は周囲に飛散してて、ちょっと近づくだけで少しずつダメージが蓄積されるので、僕は後衛からベホムの体力を回復しつつボスが弱まるのを待った。
「――グガアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!」
よし……断末魔の悲鳴とともに、キングアリゲーターの体が消えてなくなっていく。
おや、ボスが魔石とともに何か落とした。宝石がついたなんとも煌びやかな赤い靴だ。
もしや、ドロップアイテムなのかと思ったけど、ここのボスが靴を落とすなんて聞いたことがない。
ってことは、誰かが食べられちゃったのかなってことで、僕たちはその場でお祈りしつつ、靴を回収した。
……それにしてもこの靴、どこかで見た覚えがあるものの、思い出せない。なんせ、僕はあんまり人の服装とか装飾品とかには興味がないから、ただの気のせいかもしれないけど。
自身の記憶に時間を戻す回復術を使ってみようかと思ったけど、かなりエネルギーを消耗したこともあって、もうちょっと時間が経ってからにしようと思う。
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