第4話 職人の血が騒ぐ!
疲れ切った体を丸一日休ませたあと、僕が次に向かったのは、不動産屋だ。
このまま宿に泊まり続ければそれだけお金を効率的に失うことになるし、冒険者も諦めきれない状況なので、とりあえず都に拠点が欲しいと思ったんだ。
「あのー、ちょっといいですか?」
「……いいぞぃ」
ありゃ。なんかやたらとテンション低めのお爺さんが出てきた。
「……で、何か用かの? ないなら早く帰っとくれ」
「……」
この露骨すぎる塩対応……。僕がこうして一人だけで来店したせいか、冷やかしか大した客じゃないって思われてる可能性もあるけど。
まあ都内の土地を買うには最低でも1000ギルスは必要っていわれてるからね。ちなみに、中心部からは少し離れてるものの、都内にある【
「えっと、都内の物件で一番安いのは?」
「……一番安いのだって? どうせ買わんじゃろう。まあ一応聞いておくが、予算はどれくらいかの?」
「予算は5000ギルスです」
「……ん? 5000ギルスと聞こえたような気がしたが、どうせ500ギルス程度じゃろう。わしが年寄りだと思ってバカにしおって……」
「ホントですって! ほら、これ!」
僕は例の竜のポシェットの中身を、疑い深いお爺さんに見せつける。
「こ、これは……! お、お客様でしたか。これは失礼しましたじゃ!」
「……」
大金を見せた途端、いきなり笑顔&揉み手で低姿勢になるお爺さん。わかりやすすぎる……。
「で、ここで一番安い物件はいくらなんですかね?」
「ここに載っておりますので、どうご御覧くださいですじゃー」
パンフレットを見せてもらうと、一番安いので3000ギルスだった。高っ……!
「あの、お爺さん。もっといい感じの物件はないですかね? 劣悪すぎる物件だけど昔はよかった、みたいなやつで破格なものとかないですか?」
「……昔はよかった?」
「あ、えっと、そんな哀愁漂うお値打ちな物件が欲しくて」
さすがに訳あり物件を購入したあと僕が回復術で回復するとは言えない。
「ふむ……それなら、ここには載っとらんが、良いところがありますぞい」
「え、それはどこですか⁉」
「……絶対に購入するなら、の条件でお願いしますじゃ。それなら案内しますぞ」
「う……じゃあ、それで……」
結構計算高いお爺さんだな。まあいいや。どんな悪い環境なのか逆に気になるので早く見てみたい心境になった僕は、不動産屋に連れられてその場をあとにした。
「着きましたぞい。ここですじゃ」
「え、もう――ぬぁっ……⁉」
案内された場所は、強い悪臭のするゴミ屋敷だった。かなり傾いてしまってる上に、コケやツタでびっしりと覆われている。
広い庭もついていたものの、玄関が見えないくらい植物が生え放題で、しかも屋敷からはみ出した生ゴミに虫やカラスが集まっていた。
うえぇ、吐き気がする……。
「ど、どういうことか説明してもらいたいんですが……」
「それがですなぁ……」
不動産屋の話によると、この屋敷の前の住人が逃げたため、撤去するのにもお金がかかるし、当然売れないのでずっと放置されてしまってるんだとか。
「ここなら、格安の1000ギルスで譲ってもいいですぞい!」
「……も、もちろん買います」
「まいどありーですじゃ!」
……まあ絶対に購入するっていう条件だったからね。
僕は鼻をつまみながらもお爺さんにお金を渡した。これで豪遊できるわいっていう独り言も聞こえてきて少しだけムッとなる。
ただ、ここは都の中心部に近いし、普通なら1万ギルスでも買えない一等地だから、1000ギルスは確かに破格だ。
「っていうか、お爺さん、この臭い、平気なんですか……?」
「……慣れ、ですじゃ」
「……」
お爺さんはなんの曇りもなく、ニコリと笑ってみせた。この人、実は凄い人っていうか、プロ意識の塊みたいな人なのかもしれない。
「あ、そうだ。もう一つ聞いても?」
「いいですぞい」
「この屋敷は、いつからこんな状態に……?」
この質問をしたのにはちゃんと理由がある。
回復術を使うにしても、時間を戻すよりも早めたほうが消耗が少ないパターンもあるからだ。
「忘れましたが、多分5年ほどですじゃ」
「なるほど。それじゃ、早速回復――」
「回復?」
「あ、いや、こっちの話です!」
お爺さんが訝しげに立ち去ったあと、僕はすぐに作業を開始した。さー、やるか!
まず、庭に掘った穴に大量の生ごみを投下して、時間を進める回復術を使って堆肥化させる。これにはあまり時間がかからなかったのか、そこまでエネルギーを使わずに済んだ。
あとは、それ以外の部分――埃と蜘蛛の巣だらけのお化け屋敷内、植物園と化した庭に時間を戻す回復術を行使していく。
「――ふうう……」
この作業には大分エネルギーを消耗しちゃったけど、屋敷は中身だけでなくコケやツタも消えて外観も新築同然になった。
って、何この豪邸……⁉ こんな凄い家が今日から僕のものっていうんだから、疲れよりも感動のほうが遥かに上回っていた……。
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