一章 殺せない存在

一話

「もう、終わりか……」

 朝、目が覚めると、枕元にある時計を見ながらそんなことを口にした。

 4月8日、月曜日。

 昨日で春休みが終わって、楽しかった期間が懐かしく思える。

 それと同時に、また学校という名の職場に通わなければならなかった。

 日暮蓮人は、しょぼしょぼする目をこすりながら身を起こす。

「ええと……」

 もう一度時刻を確認する。

 7時15分。

 朝ごはんを軽く食べてから制服を着よう。

 ベッドメイキングなんか適当でいい。そのままベットから降りて部屋を出る。

「……ん?」

 と、不意に家のインターホンが鳴り響く。

 特にネットショッピングなんかを見た記憶はない。

 不審に思いつつも、玄関の扉を開ける。

「おっはよー、蓮人」

「……玲華か」

 そこにいたのは、幼馴染である立花玲華だった。

 高校の制服に身を包み、笑みを浮かべている。

 長い黒髪が風でなびく。

「あー……どうしたんだ?」

「ん、ちょっとね」

「……まぁ、どうぞ」

 なぜ玲華が蓮人家を訪ねてきたかは分からないが、とりあえず家に入れることにした。

「朝ごはんは食べたの?」

「いや、これから」

 リビングのソファに座る玲華。

「そういうお前は?」

「ちょっとだけ食べてきた」

「そうか」

 冷蔵庫から卵とウインナーを取り出す。

 戸棚からパンを取り出し、トースターにセット。3分くらいでいいだろう。

 その間、フライパンで目玉焼きとウインナーを焼こう。

「そういえば、今日も親御さんいないの?」

「あー、まあな。……って、勝手に人んちのテレビつけるなよ!」

「いいじゃーん、幼馴染なんだし。ね?」

「……」

 カウンターから見えるのは、特に面白くもないニュースだった。

「はぁ……」

 ため息をつきながら、コロコロとウインナーを転がす。

 蓮人の親は、どちらも出張という言い分でしばらく家を空けている。

 父はIT関係の仕事、母はデザイナーの仕事。

 時々家を空けることが以前にもあったので、別に物珍しさは無かった。

 そのおかげで、疑似一人暮らし体験ができている。そして、一人だとやることが多いんだなという事が分かった。

 食事、洗濯、掃除などなど……親がいるときは、自分の部屋だけを掃除すればよかったのだが、こうなってしまうとリビングやらトイレやら、他にもやらなくてはいけないところが出てきてしまう。

 これを大変と思うのではなく、楽しいと感じるようにしている。

「……できた」

 チンッ、という甲高い音が聞こえたかと思うと、トースターからパンが飛び出してきた。

 目玉焼きとウインナーもそろそろだろう。

 パンと一緒に皿に盛り、リビングへと移動する。

「うわ、美味しそう」

「あげないからな」

「分かってますよぉー」

 ソファに座り、ニュースを眺めながらそれらを食べる。

「ん……?」

 数分後。ちょっと変わったニュースに、蓮人は眉をひそめた。

「どうしたの?」

 その様子を不思議に思う玲華。

「いや……このニュースって、事故だよな?」

「そう書いてるけど」

「……事故にしちゃあ、奇妙じゃないか?」

「?」 

 ニュースをジッと見つめながらそう言う蓮人。

 それに対し、玲華の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。

「なんで、車が真っ二つになってるんだ?」

「……あー、なるほど」

 そのニュースには、車が運転手側と後部座席側に、真っ二つに分かれている映像が流れていた。

 事故と言えば、色々な損傷があるが——このタイプは、全くといって見たことが無かった。

 なぜか、その部分が奇麗に真っ二つになっていたのだ。

「なるほどねぇ……」

そのニュースを見ながら、玲華は顎に手をやりながらぼやいた。

「蓮人、今日は何の日か知ってる?」

 そろそろ食べ終わるという頃、急に玲華が訊いてくる。

「今日?……入学式?」

「せいかーい」

 なぜそんなことを訊いてきたのだろう。

 蓮人は食べ終わった皿を食洗器に入れ、一度自室に戻ろうとする。

「ね、入学式終わったら、どっかお昼食べに行こうよ」

「あー、まあいいけど」

「約束だからね。忘れないでよ?」

「……はいはい」

 玲華に背を向けたまま、小さく首肯すると自室へと戻った。




 

 

 

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