第20話 ルナ
俺はアリーシャを見送った後
ニュートラリアを見物して回ることにした。
ニュートラリアの街に足を踏み入れた瞬間、僕はその活気と異世界特有の風景に圧倒された。
石畳の道を行き交う様々な種族たち、異国情緒溢れる建物や装飾、すべてが目新しく、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのようだ。
特に印象に残ったのは、いくつもの文化が混じり合い、調和を保ちながら共存しているこの街の独特な雰囲気だ。
「さあ、どこから見て回ろうかな……」
僕は軽い興奮を覚えながら、街の中を歩き始めた。
そして、歩き疲れたころ、ふと目に留まったのが、一軒のカフェだった。
木製の看板に『月光のカフェ』と書かれていて、どこか懐かしさを感じる名前に心惹かれた僕は、そのままドアを開けて店内に入った。
中に入ると、木の温もりが感じられるインテリアと柔らかな陽光が、僕を包み込んだ。
カウンターの奥から漂うコーヒーの香りに誘われるように、僕は窓際の席に座り、店内を見渡した。
ほっと一息つけるような空間で、長旅の疲れが少し和らぐのを感じる。
しばらくして、店員が運んできたのは、香り高いハーブティーと色鮮やかなフルーツパイだった。
一口飲むと、その甘く芳醇な香りが心地よく体に染み渡り、異世界にいることを一瞬忘れさせてくれるほどだった。
そんなとき、カフェのドアが静かに開き、風に揺れる銀髪が目に入った。美しい女性が優雅に店内に入ってきて、カウンターで何かを注文した後、僕の隣の席に座った。
「お邪魔ではないかしら?」
その静かな声に、一瞬驚きながらも僕は微笑んで答えた。
「いえ、どうぞ。」
彼女は微笑みを返しながら、自己紹介を始めた。
「私はルナ。この街に住んでいる者です。あなたは?」
「僕はナオル。最近ニュートラリアに来たばかりで、今は観光中です。」
ルナは僕の話に興味を示し、街の歴史や見どころについて詳しく教えてくれた。
彼女の話を聞きながら、僕はこの街が持つ奥深さに惹かれていった。
ルナは、ただの住民ではないことはすぐにわかった。
彼女の知識の深さと優雅な物腰は、普通の人とは違う何かを感じさせる。
だが、彼女と話している最中に、僕の注意は店員に向かっていた。彼が歩くたびに、足を引きずっているのが見えたからだ。理学療法士としての習慣で、つい気になってしまったのだ。
「すみません、足を痛めていますか?」
僕は思わず声をかけてしまった。店員は驚いたように僕を見てから、小さく頷いた。
「ええ…少し前に転んでしまって、それ以来痛みが続いているんです。でも、この世界では怪我が治るのは難しいことですから、ただ我慢しているんです。」
やはり、この世界では怪我や病気が自然に治るという概念がほとんど存在しないらしい。
痛みや不調を抱えたまま生きることが、彼らにとっては当たり前なのだ。
「もしよければ、その痛みを軽くできるかもしれません。少し試してみてもいいですか?」
僕は、静かに店員に提案した。彼は半信半疑ながらも、希望の光を見たかのような表情で頷いた。
僕は立ち上がり、彼の足に手をかざした。そして、「改善する者」を発動させる。手から放たれる光が彼の足に染み込み、怪我の部分を包み込むように広がっていく。
「えっ……」
店員は目を見開いた。痛みが徐々に和らいでいくのを、はっきりと感じたからだ。
「信じられない…痛みが消えました!」
彼は驚きながらも足を動かし、その痛みが完全に消えていることを確かめた。
「どうして…?こんなことが…?」
この世界の常識が、僕のスキルによって覆された瞬間だった。
「ナオルさん、今のは一体…?どうしてこんなことができるんですか?」
ルナが驚きの声を上げ、僕に問いかけてきた。僕は少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「僕は理学療法士なんです。人の体の不調を改善するのが仕事で、このスキルもその一環なんです。」
ルナはその言葉に驚愕し、深い考えにふけるような表情を浮かべた。
この世界では、怪我や病気が自然に治ることがない。
魔法や薬でも限界があり、重症の場合は一生そのままの状態が続くことが常識だ。
僕のスキルは、その常識を覆すものであり、彼らにとっては未知の力なのだ。
「りがくりょうほうしとはよく分かりませんが…ナオルさんの技術は、この世界にとって本当に奇跡のようなものですね。もしこれが広まれば、多くの人々が救われるかもしれません。」
ルナの言葉に僕は少し照れながらも、自分の使命を再確認した。
異世界に来てから、このスキルがどれだけ役立つのかは未知数だったが
今この瞬間、僕はその答えの一端を見つけたように感じた。
その後、ルナと僕はカフェでさらに会話を楽しんだが
彼女がこの街でただの住人ではないことはますます明らかになった。
だが、彼女の正体については問いかけることなく、そのまま楽しい時間を過ごすことにした。
1時間ほどすると、ルナは立ち上がり、僕に別れを告げた。
「今日は本当に楽しい時間を過ごさせていただきました。またどこかでお会いできるといいですね。」
僕も同じ気持ちで彼女に感謝を述べた。
「こちらこそ、ルナさんと話せて良かったです。また、どこかでお会いできることを願っています。」
ルナは微笑みながら軽く手を振り、カフェを後にした。その後ろ姿が店のドアの向こうに消えていくと、僕は今日の出来事が特別なものだったと実感した。
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