第8話  我、動物に殺される

 ☆《ジョニー【仮名】の称号》


 ・日本人(職:農業)

 New・《先導者チーター》(タネ:野菜)

 ☆《所持品》

 ・茶色の手提げ袋

 ・財布(13800円)

 ・ガラケー(圏外)

 ・野菜のタネ各種(夏野菜) 

 New﹂旧式育苗箱

 ﹂トマト(アイコ、つやぷるん)

 ﹂ナス(千両ナス)

 ﹂ピーマン(京まつり)

 ﹂キュウリ(四川キュウリ)

 ﹂カボチャ(坊ちゃん)

 ・軍手

 New・鎌

 New・鍬

 New・スコップ(大)、(小)

 New・マルチ(マルチング)フィルム

 現在→・空き地⇒畑(開拓中)




 ◆◆◆◆

 《ステップ2》

 ・切り株の排除。


複数個所に生えている切り株は、取り除かなければ畑には、まずならない。

普通だと切り株は、業者委託でシャベルカーなどの重機で掘り起こすものである。異世界に重機などの車はないだろう。――ガソリンがあるかどうか、それすら怪しい。


 《馬車》が使われている時点でガソリン車など間違いなくと言っていいほど存在しないであろう。


 電気そのものがないに等しい世界なのだから当然だろう。


 手持ちの道具で何とかするには、地道にスコップで根っこ掘り当てて少しずつ除去して行く他は存在しない。


「これは切り株の周辺を鍬で掘り起こし、シャベルを使って切り株の根を取っていくしかないな」


 シャベルで切り株をトントンと叩いてみると、大樹だった切り株のようだ。

 もちろん木の根っこがどれだけ深く根付いているかは、誰でも想像でわかる。


 ――、常識で木はよほどの台風でもなければ倒れないほどの根だということは想像すれば分かる。


「三日はかかるかもしれませんね。木の根をすべて取り切らないといけないんでしょう…?」


「そうですよ。木の根が強く根付いていれば、畑に作物を作る際、邪魔になってくる……」


 切り株に腰掛けて、これからの作業を確認しあう。――、しかし始まる前から絶望的だ。


 車で切り株を引っ張ることができれば、あるいは、シャベルカーがあれば、魔法で取り除ければ、


 ――いや、待てよ。もしかして魔法はいけるかもしれない。



「なぁミツハさん、この切り株を粉砕・玉砕する破壊魔法的なものはないか? そしてそれを使える者なんていたりするか?」


「破壊魔法ですか。イーゲル(都市)に魔法を使える者は余ほどの修道士に限られてきますね。私は、その方たちの知り合いはいません。お役に立てずすみません」


「うーん。やはり手作業で撤去するしかない、……か」


「あ、魔法ですが、使える者を仲間にするというのはどうでしょうか? 外れのシュナウザーの迷森に魔法を使える魔獣がいると聞いたことがあります。比較的に温和で言葉が通じるらしいのですが、一人で行くには危険が多すぎます。道中の迷宮とも呼ばれる森の攻略と《殺戮動物キラーイーター》の妨害を搔い潜る必要があります」


 妨害とは何ぞ、普通はこの手の異世界では魔獣は、倒されるべきもので第一種危険動物に分類される。その類いの魔獣が取る行動が我には不思議としか思えなかったのは、この時だ。


 この世界では《魔獣》はトクベツな生き物だと知るのはもう少し後のことだ。


「妨害ってどういうことー?」

「【殺戮動物】は、人間を殺しません。ただ嬲って、嬲りつくして仕舞いには森の外へと追い返すんですよ。その《殺戮動物》に嬲られたものは、半身不随になるそうです」


 《殺戮動物》、とは恐ろしすぎて、勝てる見込みも勝率もない。嬲られて半身不随とか、いっそ殺された方がよくないか?、という次第で、寒くないのに身震いしてきたというのが


 現状だった。むしろそのような残忍な魔獣は、何故駆逐されないのか、疑問に思う節もある。


「ただ《殺戮動物》たちは、集団で群れを作る習性を持っています。一匹一体はそれほど強くありません。酒場で傭兵を一人雇えば《殺戮動物》は何とかなりますよ」


「で、迷宮の攻略というのは…?」


「迷うことはありません。迷う前に入り口に戻されるからです。なんでもよいので鼻の利く魔獣を一匹、レンタル屋さんで借りれば迷うことなく案内してくれるそうです」



 チートダンジョンあるあるパターンだ。チート×ダンジョンには《鼻のキく魔獣》と《つよつよ戦士》とが付きものだ。《魔獣》を解き放ち、戦士がダンジョンの敵を華麗に散らすのが、チートダンジョンの由緒正しい正当な攻略法だ。畏れるものは無しっ!!


 まぁ他人に丸投げというのは置いておこう。


 ◆◆◆◆


 ギルドでは強い傭兵が集まっていると聞き、三番街にあるギルド&酒場酔いどれホライズンの扉を叩く。


 木製の椅子に腰かけ、獣人族から精霊使い、青年から老人まで昼間から呑んだくれている。


 ギルドと酒場は一心同体だ。酒と《シゴト》は、深い関係で繋がれている。


 そしていざ傭兵を雇うとなるとギルドに属す傭兵は、狂人的な力を貸してくれるらしい。


 人込みをかき分けて、ギルドを管理してくれている若い女性に声をかける。ギルトの受付係の若いネーちゃんだ。



「あのー、これからシュナウザーの迷林に行くのですが……」


「傭兵の雇用ですね。この方たちはどうでしょうか?」


 受付のお姉さんは下の引き出しから、丸められた紙を広げては、傭兵リストを見せてくれる。


 どこぞの小話だが、傭兵リストを見せられた時点で、《クエスト》は発注されるらしい。断ることは一切できない。ひぇー。



 ベルリン・ウォール(25)男【武道家】       銅貨1枚

 ・強靭な肉体でドカンと一発!魔物が吹っ飛ぶ!


 カルロス・オーストリアン(30)男【素早い剣機】 銅貨3枚

 ・素早い剣技で魔物も人もキリキリ舞い!


 ブレンディ・ブレン(20)女【精霊剣士】     銅貨7枚

 ・若手の魔法剣士。剣技も魔法も逸品!


 ベルリンさんは、銅貨1枚で済むが、格闘家は《柔道》選手みたいな異世界版の印象しかない。

 カルロスさんの職である【剣士】みたいなのだけど、【剣機】ってなんやねん!

【素早い】って自称だよね……?


 ブレンディさんは、銅貨7枚も持ってないが強そうな感じがする。

 剣技のほかに魔法も使えるっぽい、頼りがいがあって使えそうだ、――だが金は無いっ!


 ◆◆◆◆


「ワイはベルリン!よろしくっスよ、あ、よろしくっス」


 やってきたのは武道家のベルリンさんだ。――酒場の一角で自己紹介される。ペコリと頭を下げる礼儀正しい武道家さんだった。――でも、やはり柔道服を着ていた柔道選手の異世界版だった。


 魔獣レンタル屋で、【チワワ】という魔獣を一匹雇うことにした。出てきたのは、ここでもやはりチワワというコイヌだった。チワワという生き物は我は既に知識としてはあったので、大して驚きはしなかった。むしろレトリバークラスのイヌなら索敵の他に戦闘要員としても加えられたのだが、今しかし金が底を尽きていた。



 ◆◆◆◆


 外れのシュナウザーの迷林は、徒歩半日は掛かるらしいが、《先導者》が作ったとされる《転送鏡ミラー》というものがあるらしい。入り口まで1秒もかからずに転送ワープによって行けるらしい。


 ここでも銅貨1枚を通行料として払うしかないけど、まぁ高速道路みたいなものか。便利な移動手段があるものだとツクヅク感心させられる。



 《転送鏡》に手をかざし、行き先を告げる。――そこはゲームで見たダンジョンの入り口だった。


 見たことがない色鮮やかな草木が生い茂って、目玉の付いた花がこちらを見ている。


 そこには、開拓されたような通路がある。道は獣道だがなんとか人様が通れるくらいの僅かな隙間が開いている。すると、ベルリンが立ち止まる。



「その魔獣を先に歩かせてくれっス。最深部までの行き先を匂いを嗅ぎつけてくれるっス。そして野生の魔獣はこのワイがおっ飛ばすっス!」


「任せた」


 チワワが走り走る走る。二番手ベルリン、三番手(我)と次いで疾走する。走る走った走り切った。――このチワワ、結構早いぞ。


 そのたびに目玉の花がこちらを観察するようにジロジロと見ている。某ゲームのお花のようで気色が悪いことは確かだ。


 横やりをいれるかのように巨大化された蟻の軍勢がこちらに飛び掛かってくるが、ベルリンが地面を叩くと、その波動で蟻が下から上への衝撃波で吹っ飛ぶ。



「最深部はまだかっ!」


 ギルド屋の情報によると、迷わず攻略すれば走りで10分前後らしい。チワワは道なき道を先陣を切って駆けていく。すると、例の殺気がじわりと襲ってくる。ついに来たか《殺戮動物》めが!



「はっ、《殺戮動物》が来るっス!!気を付けるっス」


 高速で現れたソレは、イヌだった。見たところハスキー犬のような姿をしているがその姿は禍々しい影を纏っている。ソレは軍勢に近い。咆哮を上げて、向かってくる。


 しかし、ベルリンはソレを超えていた《超人》と呼ばれるその腕力で《殺戮動物》を一体掴むと、難なく半分に引き千切る。血はどす黒く、飛沫を上げて散る。


 何体かの《殺戮動物》を引き千切ったところで、――その間にもチワワは先へ進む。


「おい、待て。ワン公、先に往くな」


 チワワは、何かを見つけたように立ち止まる。そこ掘れ、ワンと唸る


 ――そこは、肥溜めだった。


 ミツハが言っていた《肥料》の素となる素材が迷林にあると言っていた。


 幸いにもビニール袋があったので、手持ちのスコップ(小)で袋に詰める。


 ――しかし、ここでまたしもジョニーの命運は尽きた。


 ベルリンが相手をしていた《殺戮動物》に偽物が混ざっていたのだ。――本物ならば嬲られるだけだろう。それが《ホンモノ》じゃなかったらどうなるのか?


 しかし、《殺戮動物キラーイーター》の偽物■■■は、強き者には勝てずと悟り、弱きものを一直線で殺しにかかる。


 ベルリンの攻撃を股下から掻い潜り、ジョニーの背中を《殺戮動物キラーイーター》の偽物は、強靭なかぎ爪で引き裂く。


「ぐはっ――■■■■■」


腹からに臓物が真っ赤な血液と共に溢れ出す。

 頭に血が行き届くか届かないかの問題ではない。

 身体を維持するための1/3の血液が損なわた。

 ジョニーは何が起こったのかわからず死んでいった。


 つづく。





◆◆◆ ◆◆◆

昼過ぎ~夕方に9話投稿します。

宜しくお願い致します。

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