第177話 おチビすぎる佑奈ちゃん、先が思いやられてしまう

「で、何。その具現化ってのをやってみたらその姿になったってわけ?」


 澪奈が呆れ顔で俺に念押しするように聞いてきた。


「う、うん。私だってまさかこんなことになるなんて思わなかったし! 目が覚めたら澪奈の顔が目の前にあってビックリしたし!」


 頭に響く大きな声で目が覚めたら、でっかい手で持ち上げられててさ。目の前いっぱいに澪奈の顔が迫ってるしで、めっちゃ驚いたって。


 心臓止まるかと思った!


「佑奈様、ずいぶんとおチビちゃんになられて……、とても可愛らしいのはいいのですけど、ちゃんと元のお姿に戻れるのでしょうか?」


「そうそう! まさかずっと小っちゃいままってことないですよねっ? 妖精さんみたいな佑奈様も捨てがたいけど、やっぱ普通の人サイズじゃないとお世話し甲斐がありません~」


 いつの間にかそばにいた楓佳と彩如がそんなことを聞いてくるし、澪奈と千弦ちずるちゃんもうんうん頷いてる。ちょっと千弦ちゃん、なんでここに居んの?


 そもそも、そんなこと俺も知りたい。今現在、自分がおかれてる状況だってよくわかってないんだから!


 まぁね、こうやってだべってる間に澪奈が軽く説明してくれたから、ここが『爰薙ひようの宮』の俺の私室ってことはわかった。っていうか、落ち着いて周りを見ればそんなこと一目瞭然いちもくりょうぜんだったわけだけど。


 澪奈のやつ、俺の私室に長期滞在してるみたいで、驚いたことに俺が月にぶっ飛ばされてからひと月近く経ってるらしい。


 いや、一ヶ月って嘘だろ?


 ってことはもしかして俺、もう二十五歳になってんの? 四捨五入で三十じゃん、やだー!


 ま、冗談はさておき、あっちの引きこもり空間にいるとマジ時間経過がバグる。でもって、そこで地球に戻る方法を色々考え、地球上に自分の分身を具現化すれば! なんて思って色々頑張った結果がこれとか……。


 くはぁ~。


 とりあえず。戻る目標としてココを目指してたのは間違いないし、実際こうしてみんなと再会できたんだから成功は成功なんだろうけど。


 まさか、こんなチビっちょい姿になっちゃうとは――。



 あまりにも釈然としなさすぎる!



「――とりあえず、まだよくわかんない。澪奈がさわれてるんだから実体があるのは間違いないし、一応、いちおう具現化は成功とみていいのかな? けどさ、だけどさっ! それにしたって、なんでこんなチビにぃ、ううぅ、やだやだやだ~!」


「ああもう、お姉ちゃん、うっさい」


 嘆き、わめいて、ジタバタする俺を鬱陶しく思ったのか澪奈が俺をPCデスク上に放り出した。いや、もうちょっと静かに降ろしてくれや。こけそうになっただろうが!


 そんな俺の前に楓佳が卓上ミラーを持ってきた。


「はい、佑奈様! これ見てしっかり現実を認識してください。ですが、ほんと~に、とてもお可愛らしいですよ?」


 そう言いながら人差し指で俺の頭をそっと撫でた楓佳。


 いや、撫でんなし!

 頭グワングワンなるから!


 つうか、この際、可愛いかどうかはまったく別問題なんだわ!

 てか俺が可愛いのは前からそうだし。今さらなんだわ!


 とは言うものの、今の自分の見てくれに興味あるのもまた事実。だからつい鏡を見てしまう。卓上ミラーなのに、普通に姿見になってて笑う……、いや笑えない!


 小さい。俺、マジ小さい。でも、サイズはともかく見た目は大きい時の俺そのまま。まんまの姿でフィギュアサイズ化してしまった。泣ける。


 ちゃんと背中に翼生えてるし、なんなら着てる服もあの時のコスプレコスのまま。こんなのまで再現しなくたっていいっての!


 でも、こんな俺を具現化したのも俺自身。これって、もう『ひえん様』の力じゃないんだよなぁ……。


「佑奈様! 妖精のような小さなお姿になられたのはきっとまだまだ佑奈様を敬う人々の数が足りないのだと思いますの! ですから、もっともっと佑奈様を信仰する人々が世界中で増えれば、いずれは元のお体そのままな具現化とやらができるに違いないのですわ!」


 千弦ちゃんが自信たっぷりにそう言い切った。相変わらず中学二年のしゃべりとは思えなくて草。


 う~ん、信仰の力……ね。俺みたいなキワモノ野郎に信仰もクソもあったもんじゃないと思うんだけどさ。


 俺、別に宗教の教祖さまになった覚えもないし。ただのかんなぎなだけだったのに。……まぁ、ちょっとばかり変な力持ってる巫だったけど。



 どうしてこうなった! 



 くぅ~、こればっかだな、俺。


 千弦ちゃん、わかってるなぁ。月に居た時もどこからともなく謎の力が満ちてくるのを体感できてたわけだし。『ひえん様』にもそれっぽいこと言われたし。多くの人に認知されればされるほど、この湧いてくる力は増えるってことだったし。


 つうか俺のほんとの体は今も月にあるんだけど、そんな力はちゃんとこっちの……、この具現化されたチビボディにも伝わってくれるのかね?



「ま、そうなのかもしれないね。でも、そうとなれば普通の大きさになれるのは一体いつになることやら? はぁ~、こんな体じゃPCいじりだってまともにできない……」


「PCって、お姉ちゃん、あのさぁ、仮にも神様っぽい立場になった感じなんでしょ? なのに未だにPCいじりがどうのって……、はぁ~信じらんない」


 澪奈がまた呆れ顔で俺に突っ込んできた。


「そんなこと言われたって……、こんな状況、望んでなったわけじゃないし。私、引き籠って趣味に没頭できればそれが一番幸せだし!」


 つい本音を漏らしてしまった。


 楓佳と彩如は普段の俺を知ってるから苦笑い。千弦ちゃんは「佑奈様は冗談がお好きですなのですわ」とか言ってさらっと聞き流された。


「ほんとお姉ちゃん、どうなってもぶれないね」


 ただ……、そう言う澪奈はなぜか嬉しそうな顔してた。なんで?



「まぁ何はともあれ、妖精サイズなフィギュア佑奈様とはいえ、こうして具現化……って神秘? のお力でここにお戻りになられたわけですから、良かったです」


 楓佳の言葉にみんながウンウン頷いてる。


「ところでお姉ちゃん。具現化っていうのはまあわかったけど、それじゃほんとの体は今どうなってるの? それもわかんないの?」


 あ、やっぱそれ聞く?


 そりゃ聞くよな。


「ん、当然月にある。私が作った引きこもり空か――、あ、いや、神域ってやつに置いてきたまんま」


「ぷふっ、お姉ちゃん、今引きこもり空間って言おうとしたでしょ? 受けるんですけど。まぁお姉ちゃんだしね。――それでそんな空間に体ほっぽっといて大丈夫なの? っていうか月に生身のままって……ほんとお姉ちゃん、人間やめちゃってるね」


 うっさい、色々ほっといて!


「大丈夫。なんならこのままず~っとほったらかしでも大丈夫、なはず。きっと」


 うん、きっと大丈夫。


「ええぇ、なにそれ。お姉ちゃん自身の体なんだからほったらかしにしないでよ。ま、ど~せ私なんかがなに言っても、いうこと聞いてくれないんでしょうけど~」


 あ、澪奈が拗ねた。


「澪奈様! 佑奈様が大丈夫と言われてるのですからきっと大丈夫なのです! 今こうして具現化されたお体があるのがその証拠といえるのではありません? そもそも神の域へと至られた存在であるわけですし!」


 千弦ちゃんの俺に対する認識がヤバすぎるんですけど!


 どんだけ俺を神格化してるんだっての。



「まぁまぁ、そう熱くならないで。その辺も含め、とりあえず侍従長なり、瑛莉華さんにご報告入れましょう! 爰姫様……、あぁいえ、爰月えんげつ様がお戻りになりましたって」


「そうだね~、瑛莉華さんもすっごく心配してたし、早く教えてあげないとね~!」


 巫女さんズが、一見まじめにそんなこと言ってきたけど……、そんなこと言いつつも俺にスマホ向けて写真撮るのやめてくんない?


 俺の存在に慣れてきたのか、ある程度状況が把握できたからか、みんなの俺に対する態度、めちゃ緩くなってきた。



 ん?


 っていうか、あれ?



「え、爰月えんげつって……、楓佳、なんでその名前知ってるの?」


 俺、まだ誰にもそのこと言ってないよね?



「ああ、それでしたら紡祈つむぎ様です。お引き籠る前に神託をお受けになったらしく……、そのお話しの中で『爰月』という神名も出ましたし、月の神域についても、そのとき説明がありました。と言っても私たちが直接伺ったわけではないですけど……」


 な、なるほど。


「紡祈様……、引き籠っちゃったの?」


「はい、もう二週間は前のことになります。『ひえん様』のことと、それに佑奈様のこと。ひと通りご説明くださった後に」


「紡祈様、全然覇気がなくなって、とても気落ちされたご様子で……、見てる私たちも辛くなってしまいました……」


 さすがの巫女さんズも紡祈様の話しをするとちょっと元気なくなった。



 そっか、そうだよな。紡祈様が仕えてた『ひえん様』が隠れちゃったんだからな。つうかこのままじゃ紡祈様、やばいじゃん!


『ひえん様』の神力? あってのあの若々しさなんだろ? 神託だってもう出せないだろうし……。



 う~ん、どうしたものか。


 ま、なんにしても本人の意志を確認しなきゃだな。



『ひえん様』の置き土産の厄介ごと対応もしなきゃだし。



 はぁ~、メンドクサイ。


 やること山積みで萎える~。

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