第1話『デッド・ワイズ・サーキット』END

「何だと!」

雷は二機に命中し、パイルの機体は完全に制御を失うと、砂漠へ墜落する。

シャリダンは一瞬制御不能になるが、最新型リビオンの予備電源が発動する。

「危ねぇ……」

リュカは煙から飛び出すと、シャリダンが動けなくなっている僅かな隙に追い抜く。

「ブースター全解放!」

リュカのリビオンは噴射口から青白い炎を出し、どんどんと加速する。

——ギギギィィィ……。

それに連動して機内がきしみ、嫌な音を発する。

今のうちに距離を稼がないと……。 耐えてくれ!

「ライム! 鉱山まで、あと何キロだ!」

『あと二キロってとこだ。

入り口まで五百メートルの地点で合図する』

「了解!」

シャリダンは鬼の様な形相を浮かべてリュカを追いかける。

「絶対にブッ殺してやる!」

——ガガガガガガガガァァ!

レーザーガンの攻撃をシャリダンが始めると、リュカは再び、リビオンを左右に回転させて避けながら進む。

——バキンッ!

リビオンの左肩にレーザー弾が命中し、火花が出る。

このままじゃ、長くは持たない……。

リュカの額には汗が流れる。

そして、シャリダンはどんどんリュカとの距離を縮めていく。

「チッ! ブースター全開でも、こんなに性能差があるのか!」

リュカが右を見ると、鉱山が見える。

『五百メートルだ!』

ライムの声が聞こえ、リュカはコントロールパネルの黄色いボタンを押す。

すると、リビオンの背にある蓋が開き、黄色い球体が発射される。

——パアァァァ!

球体は破裂し、強烈な閃光を放つ。

「うっ……」

堪らず、シャリダンは手で目を覆う。

その隙にリュカは操縦桿を力一杯に右へ切る。

「曲がれェッ!」

重い操縦桿の舵でリュカの腕は痙攣けいれんする様に震える。

そして、無事に曲がるとリュカはライムたちに語りかける。

「もうすぐ鉱山に入る! あとで必ず会おう!」

『ああ! ゴールで待ってるぞ!』

閃光が収まり、シャリダンが前方を確認すると、そこにはリュカが居ない。

辺りを見回すと、鉱山に向かって進むリビオンが見える。

「コイツ! 鉱山でショートカットするつもりか! させねぇ!」

シャリダンも鉱山に向かって舵を切り、リュカに向かってレーザーガンを発射する。

——ガガガガァァ! カチャ、カチャ……。

「何だ?」

弾が出なくなり、シャリダンは画面に表示された残弾を確認する。

『EMPTY』

「クソがァ!」

そして、リュカとシャリダンは鉱山へ入っていく。

——ブチッ!

リュカが鉱山に入ると、無線は完全に切れてしまう。

リュカたちが入った鉱山を中継画面で見ているライムたち。

ラビがライムを不安そうに見つめる。

——ピピピ……。

ライムはラビの頭を撫でる。

「大丈夫さ。リュカは必ず戻ってくる。お前も無線聴いてた筈だ」

ラビはライムに頷くと再び画面を見る。


 鉱山の中は電球の僅かな光のみで、一歩運転を間違えると即追突する様な狭い道を

二機のリビオンは物凄いスピードで飛んでいる。

「早いとこ、ケリつけてやるよ!」

シャリダンはミサイルの発射準備を始める。

ホログラムの画面にはリュカの機体に標準が合わさっている。

『DANGER』

警告の文字がホログラム状で画面に表示され、リュカのリビオン内にアラームが鳴り響く。

「こんな所でミサイルだと! マジで正気じゃ無い!」

リュカはフレアの準備をする。

「お前らのせいで、この俺の地位は落ちた! 

忌々しいガキどもめ! 死ねぇ!」

——ブシュゥゥゥゥ!

ミサイルが発射され、リュカはフレアを発動する。

——ボッガァァァァァァァンッ!

ミサイルは無事に誤爆したもの、爆発の衝撃で鉱山の天井が崩れ始める。

「クソ! だから言わんこっちゃ無い! ここを早く脱出しないと!」

降り注ぐ瓦礫を避けながらリュカは出口に向かって一目散にリビオンを走らせる。

「絶対に、ここで殺してやる!」

シャリダンは再びリュカに標準を合わせる。

リュカのリビオン内にアラームが鳴り響き、画面を確認するが、フレアはもう残ってはいなかった。

だが、閃光弾は一発だけ残っている。

もうすぐ鍾乳石しょうにゅうせき溜まりだ! ヤツを倒すなら、やるしか無い!

リュカはリビオンの体勢を前傾にして、背を天井に向ける。

そして、二機が鍾乳洞に入った瞬間、お互いに発射ボタンを押す。

「くたばりやがれぇ!」

「絶対に死ぬもんかぁ!」

リュカのリビオンは背の蓋が開き、鍾乳石に向かって黄色い閃光弾が発射されると、激しい閃光を起こす。

すると、シャリダンが放ったミサイルは、閃光弾の高熱にセンサーが釣られて鍾乳石に向かって逸れる。

——ボッガァァァァァァァンッ!

爆発で崩れた鋭い鍾乳石は雨の様に降り注ぐ。

リュカは落下する鍾乳石の隙間を巧みに避け進む中、シャリダンは次々に鍾乳石が避けきれずぶつかり、機体はみるみると凹んでいく。

更にリュカは頭上の崩れていない巨大な鍾乳石をレーザーガンで撃ち落とす。

——ドスゥゥゥゥゥン!

シャリダンのリビオンに巨大な鍾乳石が降ってくる。

もう既に鍾乳石のダメージで舵がうまく効かなくなっていたシャリダンには、もうこれを避ける手段は無かった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

巨大な鍾乳石は踏み潰す様にぶつかり、シャリダンのリビオンは奈落の底へ墜落していく。

リュカは必死で生きるために舵を切ると、目の前に一筋の光が見える。

「出口だ!」

そして、リュカが脱出すると同時に、鉱山は完全に崩落する。

 巨大モニターに映る、無事に脱出したリュカのリビオンをライムたちと観衆は見て歓声を上げていた。

「「「「「「リュカ! リュカ! リュカ! リュカ! リュカ!」」」」」」

 リュカは安心する様にため息を吐くと、ブースターを減速させる。

——ガガガァァ……。

ずっとブースターを全開にしていたため、エンジンは故障寸前だった。

また、継ぎ接ぎ部分にも深いひびが入っている。

「だいぶ無茶させちゃったな。後で絶対に優勝賞金で直してやるからな」

そして、段々と見えてくる白黒の線で塗装されたゴール地点にはライムたちの姿があった。

ライムたちは、リュカに向かって満面の笑みで大きく手を振る。

リュカはゴール地点に着陸すると、リビオンの窓を開けて飛び降りる。

ライムたちはリュカに走って行く。

すると、周りを追い越すスピードでラビがリュカの元へ行くとリュカに飛びつく。

——ピピピ!

リュカは絵文字で満面の笑みを浮かべるラビをギュッと抱きしめる。

「おめでとうリュカ!」

「マジで凄かったぜ!」

「鉱山が完全に崩壊していた! もう少し出るのが遅かったらヤバかったな!」

ライムとデイヴはリュカに向かってグッドジョブサインをする。

「優勝はドラゴンローズのリュカァァァ!」

アナウンサーの雄叫びと共に再びリュカのコールが始まる。

「「「「「「リュカ! リュカ! リュカ! リュカ! リュカ!」」」」」」

そんな会場の空気に感極まり、リュカは涙を流しながら観客に向かって手を振る。

やったよ! 兄貴……。

そんなリュカの姿を会場席からシュライは微笑みながら見つめる。

「こりゃ、本当に凄いヤツが現れたな」

シュライは立ち上がると、会場を後にする。


× × ×


 日もすっかり落ちて、リュカたちは会場近くにある小綺麗なレストランで祝杯を挙げていた。

「いやぁ! チャンピオンが二人もいるなんて、ドラゴンローズは全く凄いチームになっちまったなァ!」

デイヴは大きなジョッキに入ったビールを片手に、顔を赤くしながら上機嫌に立っている。

「もう……私たち、まだ未成年なんだから程々にしてよ。

あと、ちゃんと座って食べなさい!」

マイカにデイヴは叱られると、急いで席に座る。

「どうだ?チャンピオンになった気分は」

ライムの問いにリュカは照れ臭そうに俯く。

「凄く嬉しい……」

リュカに抱き抱えられているラビはニコニコとリュカを見つめている。

「おいおい! もっと胸張ってくれよ、チャンピオン!」

バッカスとテリーはリュカに向かってグラスを突き出す。

「楽しそうな所にすまない!」

男の声が聞こえ、一同は声の方を見る。

すると、そこにはシュライが立っている。

「おっさん。なんか用か?」

ライムの問いにシュライはアロハシャツのポケットから軍人手帳を取り出す。

「おじさんは、こういう者でね」

一同は軍人手帳を凝視する。

「防衛軍の軍人が何の様だ。まさか……」

ライムたちはいつでも逃げられる様に身構える。

「別に捕まえに来たわけじゃ無い。むしろ逆だ」

シュライはリュカにゆっくり歩み寄る。

「それ以上、近寄るな! 要件を言え!」

ライムの声でシュライは止まると話を続ける。

「では、早速本題に入る。

リュカ! 是非、地球防衛軍のパイロットになって欲しい! 

君なら絶対、流星の名を手に入れる逸材になるだろう!」

リュカたち目を見開き、シュライを見つめる。

「私が流星に……」


第一話『デッド・ワイズ・サーキット』END

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