第12話 ハズレ騎士

 僕がのひらをくっつけ、ステータス測定用石板そくていようせきばんうす緑色みどりいろひかる。


 おくで、椅子いすにもたれかかり、ひじけにうで頬杖ほおづえをついた騎士きしアランを見ながら、僕は思った。


 ――おそらくあの人が、サラさんの言っていたハズレ騎士にたるのだろうな。


 普段ふだん業務ぎょうむ失敗しっぱいによるたりのために、目下めした人間にんげんにでかい態度たいどをとる騎士。

 まさに、あの騎士と、僕のえがくハズレ騎士の想像そうぞう一致いっちしたのだった。


 石板からは、光がらしされる。

 空中くうちゅうに、お馴染なじみのステータス画面がめんかびがり、たりまえだが測定結果そくていけっかは、今朝けさの結果とまったおなじものだった。


 僕は、口を開ける。


「ステータスの結果が出ました」


 アランが、部下ぶかに言った。


確認かくにんしてこい」

「――はっ」


 アランの部下が、僕のとなりちかづいてくる。

 そして――


「なっ!?」


 驚愕きょうがくあらわにした表情ひょうじょうとなった。

 アランは、眉間みけんにしわをせる。


「何かあったか?」

「そ、その……」

「その?」

報告ほうこくされたステータスのあたいと、大きな誤差ごさがありまして……」

「ほうほう」


 アランは、くつくつとわるそうなみを浮かべていた。僕が、鯖読さばよみしたステータスを報告していたのだろうというせつが、やはり当たったのだと確信かくしんしてきる様子ようすだ。

 顔が、完全かんぜん小悪党こあくとうのそれだった。


 アランの部下が、大きな声で言う。


「その――記録用紙きろくようし記載きさいされていたステータスよりも、高い値が出ているんです!」

「…………」


 アランは、きゅう真顔まがおになった。

 その表情のえのはやさは、中々なかなかのものだなと、ぎゃく感心かんしんできた。


「――は?」


 そして、部下に威圧いあつした態度たいどを向けてくる騎士。

 僕の隣の男性は、もう一度言った。


「本当に、昨夜さくや確認した記録用紙に記載されていた値よりも、はるかに高い数値すうちなのです!」

「その石板を、俺のところまで持ってこい!」

「は、はい……!」


 部下があわてて、僕のステータス値を表示ひょうじしている石板を、アランのまえまで持ってくる。


「ごらんください」

「…………」


 アランは、ステータス画面をまじまじと見つめた。

 そして、だんだん顔がけわしくなっていき、


「ステータスが、すべての項目こうもくにおいて、ほぼ306まんだと……? 昨夜確認した数字すうじは、180万だったはず……」

「スキルの効果こうか……ではないでしょうか?」

「……まあ、確かに。あのスキルの中身なかみが本当だったら、この数値になることも納得なっとくできるが。しかし――」

「な、なんでしょう……?」


 首をかしげる部下にたいして、アランはつめたいかおつきで言った。


「そこ、邪魔じゃまだどけっ!」

「は、はいっ!」


 アランは、椅子から立ち上がり、僕のほうへ向かっていく。

 正直しょうじき、僕はさっきの光景こうけいを見て、こう思わずにはいられなかった。


 ――典型的てんけいてきなパワハラ上司じょうしだな。


 あの人の部下には、絶対ぜったいになりたくないものである。


 そんな、したの人間からは絶対にきらわれているであろうブロンドかみの騎士が、僕の前に立ち止まる。

 大きい身体からだが、僕の全体像ぜんたいぞうくろかげった。


「おい、ソネ」

「はい?」

「どんなきたな使つかいやがった?」


 ――またこの質問しつもんか。


 そう、ツッコんでしまいそうになる。

 僕の返事へんじは、さっきと何も変わらなかった。


「汚い手を使ったおぼえは、どこにも無いのですが」

「汚い手を使ったやつは、みんなそう言うんだよ」

「…………」


 僕は、何を言うのが正解せいかいなのだろう?


 現実離げんじつばなれしたステータスの値が、しんじられない気持きもちは分かる。

 しかし、実際じっさいに石板が結果を出してくれたのだから、これ以上いじょう僕のステータス値をうたがっても仕方しかたないだろう。


「どうせだ。何らかの方法ほうほうを使って、石板に細工さいくほどこしたにまっている。俺には、全部ぜんぶ見通みとおしだぞ」


 とか、言われる始末しまつであった。

 そんな、めちゃくちゃな仮説かせつまで出されると、僕も困惑こんわくしかまれない。


「あの石板を用意よういしたのは、あなたたちなのでは?」

「それはな……」


 アランは、うしろをく。

 彼の視線しせんさきにいるのは、四人の部下たちだった。


「こいつとんでいる裏切うらぎものは、おまえらの中のだれだ? 今すぐ出てこい!」


 え、え――? と戸惑とまどいを見せる部下たち。

 僕は、近くにいる黒縁眼鏡くろぶちめがねの女性――ヴィオラさんに声をかけた。


「すみません」

「何でしょう?」

「あの人は……頭がヤバい人なのでしょうか?」


 彼女は、小声こごえこたえた。


少々しょうしょうおもみがはげしい人ですね」

「少々どころではないと思うのですが」

「……頑張がんばってください」

「…………」


 頑張れ、と言われてもだった。

 どうすれば良いんだ? 僕は。

 本当のことを言っても、すべて虚言きょげんだとめつけられるし……。

 むずかしい騎士様きしさまであった。


 そんな騎士アランは、僕にふたたび顔を向ける。


口止きとどめの教育きょういく徹底てっていされているようだな」

「そんな教育を徹底した記憶きおくは、存在そんざいしないのですが」


 アランは、言葉ことばはっする。


「俺が、お前のうそ自力じりきあばしてみせるぞ」

「はあ……」


 何だろう?

 誘導尋問ゆうどうじんもんでもするつもりなのだろうか?

 そう思っていたら、アランはこう言った。


「俺と、サシの勝負しょうぶをしろ」

「勝負……?」

「ああ。もちろん、物理的ぶつりてき戦闘勝負せんとうしょうぶだ。桁違けたちがいのステータスを持っているお前なら、俺なんて一撃いちげきばせるはずだろう。ちがうか? それとも何だ? こわいのか? 怖いなら、素直すなおに言えよ。まあ、今更いまさらもうおそいがな」

「……あなたのステータスは、どれくらいなのですか?」


 アランは、得意とくいげな顔でそれをおしえた。


平均へいきん2000だ」

「…………」


 なるほど。

 その数字は、この世界ではほこれるステータスになるのだろう。

 少し勉強になった。


「その……」

「なんだ?」

怪我けがをさせてしまうかもしれませんが、それでもよろしいですか?」


 アランは「ちっ!」と舌打したうちをした。


「なめやがって……!」


 彼は、続けて言葉を口から出す。


「逆にお前こそ、怪我してもくんじゃねえぞ。ボコボコにされてもなぁ」

「僕も、ころさないように手加減てかげん頑張がんばります」

「はあ!?」


 そうして、僕と騎士アランの勝負が決まったのだった。

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