26.◯人称のこと

珍しく創作論ちっくなことを書きます。

ただ、私は「~するべき」などと言える立場ではないので、主に「自分はこうしている/こうしていた/こう考える」という話になります。


小説は一人称と三人称で書かれることが多いですよね。

私ね、両方書いてはいるのですが、三人称のほうが得意なんです。

大大大好きな村上春樹は初期から一人称が多いというのに。

何でだろ? と、理由を考えてみました。

で、あくまでも自分はストーリーを考えて練って書く立場であり、主人公ではないからという結論に。

これまで意識してはいなかったけど、ストーリーに必要なのは自分ではなく登場人物だという思いが強いのかもしれません。

あと、以前人様の近況ノートのコメントで主張したことがあるのでご存知の方もいるかもしれませんが、普段から自分が目にしたものを元に三人称の文章を頭の中で練り上げていくクセがあるからかもなぁとも思ったり。

例えば


彼はバスの前方の座席に着いた。いつもはアナウンスの女性の声が自分の降りるバス停名を読み上げると同時にブザーを押すのだが、今日は違った。もう夜の帳が下りてしばらく経つというのに、小さな子供がブザーを押したがる声が彼の耳に届いたのだ。『こんな時間に?』という疑問を持ちながらも、彼は一旦ブザーに近付けた指を再び膝の上に置いた。


云々。

自分が主役にはならないんですよね。

「私」ではなく、「彼」や「彼女」になるわけです。

ストーリーを進めるにあたって必要なので。

逆に言えば、自分自身なんかストーリーに必要ないと私は思っています。

だから三人称の方が得意なのかなー。

ちなみに「彼の耳に届いた」は「聞こえた」だけでもOKなのですが、あえて客観的に捉えられるよう「彼の耳に届いた」にしています。

「聞こえた」だと一人称っぽいかなぁと思って。


村上春樹のことばかりで恐縮ですが、彼の長編小説「海辺のカフカ」について話します。

「海辺のカフカ」は一人称と二人称と三人称すべてが使われています。

ストーリーは、「ナカタさん」というおじいちゃんの行動と「僕(田村カフカ)」という少年の行動を元に、別々にストーリーが進められます。

章ごとに違う人称が使われていて、「ナカタさん」を中心に話が進められる章は三人称で書かれています。

おそらく、「ナカタさん」と行動をともにする重要登場人物の「ホシノさん」が単独行動するシーンも描かれるからかなと。

また、「ナカタさん」は頭が弱いという設定なので、彼の視点だとどうしても描写できるものが限られてしまうわけです。

(他にも理由は思い付きますが、ネタバレ防止のため省略します)


「僕」のほうでは普通に一人称で話が進みますが、小説の冒頭や途中で「カラスと呼ばれる少年」の語りが入ることもあります。

冒頭部分では「僕」が「カラスと呼ばれる少年」と会話するシーンなので一人称ですが、途中で出てくるシーンは二人称になったりもします。

「カラスと呼ばれる少年」が「きみは~だ」などと語りかける文が、淡々と続く。

これはストーリー上、「僕」が成長するうえで欠かせない要素だと私は考えます。

そのように、村上春樹はストーリーに必要な◯人称を使っているわけです。

(本人に聞いたわけじゃないけど、たぶんそうw)


二人称は書き手になってもほとんど使わないので省略してもいいのですが、このエッセイの11話目で二人称ミニストーリーを書いたので、よろしければどうぞご覧くださいませ。

悩んでしまって大変でしたが、「視点」というものを考えるための良い修行になりました。


読み専だった頃はあまり◯人称◯視点などは気にせず読んでいましたが、いざローファンタジー(現代ファンタジー)の処女作を書こうとなったときには、◯人称はどうしようかな……と悩みました。

んで、ネットでいろいろ調べてみたところ、「一人称は簡単、三人称は難しい」と書かれているサイトなんかもありましてね。

ほんとかよ、と思いました。

そして初心者のくせに三人称で始めるという負けん気の強さよww

つまり三人称でも破綻させずに書くことができればいいんでしょ、ってw

あと、長編にするつもりだったのもあって、三人称に決めたんですよね。


ちなみに「穢月祓~」改稿にあたって三人称を一人称に直したのですが、まだ直せていない三人称の名残りがあるんです……。

前述の「聞こえた」「彼の耳に届いた」のように、一人称だからこういう表現、三人称だからこういう表現、というのはやはり、都度気にしたほうがいいのでしょう。

まだまだ私はそういうことが完璧にはできていないし、書き手になって1年7ヶ月経った今だからこそ、こういう基本を振り返ってみるのも必要なのかも、などと生意気にも思っています。


あ、そうだ、◯人称の話題については、一つ強く言いたいことがあります。

転移・転生以外の異世界ファンタジーは三人称のほうがお得です!

転移・転生の場合は主人公一元視点で、もとの世界と比べて◯◯はあーだ、✕✕はこーだと言わせるのもいいと思います。

でも、それ以外では三人称のほうがお得ですよ!

様々な事物を描写するのに、主人公一元視点だとやりづらいんですよね。

主人公にとっては当たり前のものも描写する必要性が出てきたときなんかに、読み手に違和感を覚えさせることになりかねない。

何せ異世界、いろいろとこの世界とは違うものもあるでしょう。

(ここがうまくできるのであれば気にすることはないです)

また、戦闘シーン含むアクションシーンは三人称の方が書きやすいです。

スローライフ系だからそういうシーンないよ、というのなら、まあお好きなほうでw

でもアクションシーンがあるなら、慣れている方以外は三人称で書くことをおすすめします。

私の異世界ファンタジーは、一人称の練習で書いたBL「チョコレート」以外全部三人称です。


というわけで、異世界ファンタジーの「墓守のティアナ」続編ももちろん三人称で書いています。

たぶんしばらく新たに投稿できないと思います。

ティアナを最優先させているので。

コイツ全然動きないなと思われるかもしれませんが、見捨てないでください(泣)


ではみなさま、ごきげんよう。

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