願い、死神は甘く香る
花崎有麻
プロローグ
中間秋那は鏡の前に立つ。
そしていつものように胸元までの長さの髪の毛先を、お揃いの秋桜の髪飾りで結び、自分が来年着るはずだった高校の制服に袖を通す。
高校の制服に身を包んだその姿は、自分でも思うくらいに瓜二つだ。本当なら、いつもなら、そんな自分の姿が誇らしかったし、嬉しかった。
だが鏡に映る自分の顔は笑っていない。
目の下にはクマが出来ているし、輪郭も少しばかり細くなった様に感じる。そんな自分の顔に、秋那はメイクを施した。だが目的は着飾るわけでも美しくなるためでもない。クマと輪郭を誤魔化すだけの最低限のメイクを、いつもの倍くらいの時間をかけて施すと、今度は手首や首筋に生まれて初めて買った香水を振りかける。
甘いお菓子のような香りが鼻腔をくすぐる。
「…………よし」
その香りを感じながら目を閉じ、気持ちを切り替えるために声を出した。
ゆっくりと目を開けると、そこには鏡に映る自分の顔がある。そして自分と瓜二つの、自分の半身といっても過言ではないその彼女へ向けて言葉を投げる。
「――行ってきます、お姉ちゃん」
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