実りあるバッドエンドを何度でも!

磨白

1話目 またここからやり直し

またここからやり直しか、


人ごとのように思えるほど私はこの状況に慣れきっていた。


目を覚ますと何万回も見た森の中。


木の本数も、手に触れる草の感触も全部覚えている。


そして、私は同じ場所でまた同じ人に助けられるのだ。


「あ、あの。ここは危険ですよ、大丈夫ですか?」


「ん、あなたは……」


「私は、この近くの街に住んでいる……」


モイラです。今からおばあちゃんの家に髪飾りをを届けに行く途中だったんです。


うん、一文字違わずに覚えている。


「そうなんだ、あの、申し訳ないんだけど一緒について行ってもいいかな?道に迷っちゃって」


驚いたような顔をした後、モイラは口に手をあてて、小さく笑う。


「おっちょこちょいなんですね、良いですよ。私が案内してあげますね」


座り込んでいる私にモイラは手を差し伸べる。


こうやって私は何万度もこの子に救われてきた。


私が、初めてここに転生してきて何もわからなかったあのときも。


パニックになって取り乱す私を見捨てずに声をかけて、一緒に村まで来ないかと誘ってくれた。


誰かの歌詞で聞いたことがあるが、私は一万回目と一万一回目なんてやっぱり変わらないと思う。


だって、私は百万回以上死んでも、こうしてモイラに一目惚れするから。



















「おばあちゃんの住んでいる村は結構遠いんです。一人で行くのは暇だったから、こうやってえっと……」


「ユイだよ」


「え、私が名前知りたいってよくわかりましたね!」


「そんな顔してたからね」


「え゙、私そんな顔に出やすいですか!?」


あはは〜と笑って流すが、

嘘である。ただ、この会話をすでに何度もしていただけだ。


でもそんなこと伝えたって困惑されるだけ、というか実際困惑されたことがあるので、言わない。


そうして楽しく会話をしながら村に向かって行く。内容は全部聞いたことがあるものだったが、彼女が喋ってくれるというだけで得られる栄養がある。


ずっとこうしていたい。




っと、まぁ気を抜いてもいられない。ここではあるイベントが起こるのだから。


「グオオォォ!!」


「ぐ、グレートグリズリー!?」


グレートグリズリー、ランクCの魔物だ。


角の生えたデカいクマって感じ。


三年間鍛錬し続けた冒険者でも、遭遇したら尻尾巻いて逃げるくらいの脅威である。


私も何千回とコイツに殺され続けてきた。


「モイラ、下がって」


「えっ、でも……!!!」


「良いから、安心して」


対面したグレートグリズリーは私に睨みを効かせている。が、もうちっとも怖くない。


コイツがしてくることなんて全部分かってる。


冗談抜きで親より合ってるからね!!!


モイラを後方に下がらせ、待機させたときに行う行動パターンは三種類。


1、待機

2、モイラは無視して、私の右脇腹を狙って爪で攻撃。

3、モイラを警戒して、一度咆哮したあと、近くの木を使用しての薙ぎ払いで同時に仕留めようとする。


確率的には、80%で2番。モイラと私の距離が近すぎると、3番の選択肢をとって来る可能性が高まる。1番は、私が何かを隠し持って居るような演技や、始めから魔法を使った身体強化をしなければとって来ない。


今回は楽な2番だった。


「ユイさん!!!!」


モイラが叫ぶ声がはっきりと聞こえる。


そんなに、心配しなくていいのに。と思ってしまうがそれが正常な反応だよね。私の……では残念ながらないけど、モイラは心優しい子だし。


今の状況でさえ、私を庇おうとしてきてくれている。


だから私は、積み重ねたバッドエンドを活かしてモイラを安心させるのだ。


「【身体強化】!!!」


私が唯一使える魔法である。


転生してきたんだから、もっとチートじみた力が欲しかったものだが、もらえないものはしょうがない。


後に教会に行くことで分かる事なのだが、私は全属性の魔法適性がないらしい。


だから出来るのは魔力を身にまとうだけで使える、無属性の強化魔法だけなのである。


それでも、私はなんとかやってきた!


グレートグリズリーの攻撃をギリギリで躱したあと、瞬間的に足に魔力を込めて蹴りを放つ。


グレートグリズリーのは近くの木をなぎ倒し、ぶっ飛んでいった。


「す、凄い……」


モイラが目を丸くして驚いている。うん、好きな子の前でカッコつけられるのは気持ちがいい。


後半になってくるとそんな余裕なくなるからね。


グレートグリズリーは私の蹴りを食らって、結構効いている様子だったが、立ち上がって咆哮する。


「やっぱ、魔物ってのは凄いね、タフだ」


私は近くの木を軽く蹴って、枝を落とす。


ちなみに、どの木の枝が落ちやすいかも把握している。


私ってば天才!!!


地面に落ちた枝を私は手に取り、構えた。


「グルルゥ!」


ノーガードで突っ込んでくるグレートグリズリーを私は真正面から迎え撃った。


正面に放たれた交差する爪をスライディングして回避、そして【身体強化】の魔法を私の右腕全てを覆うように発動する。


手に持ってる枝も包み込むような厚みで。


スライディングの勢いのままに私が枝を思いっきり振り抜くと、グレートグリズリーの胴体は引きちぎれ、弾け飛んだ。


このときに、枝も【身体強化】で強化し、思いっきり振り抜くのがコツだ。


でないとグレートグリズリーの体が上手く吹き飛ばず、血を被って大変なことになる。特に村に入るときに……。


って今はいい。


「モイラ、大丈夫?」


声をかけると、腰を抜かしていたモイラは私のことを恐怖と感謝の入り混じったような顔で見つめる。


「ゆ、ユイさんは一体…」


そう問いかけるモイラに私はいつも言う言葉を投げかけた。


「私はただの旅好きの冒険者だよ」












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