正敵邪正

第45話


なぜ笑っている?

なにがそんなに楽しい?

殺し合いの中で、どんな喜びを見出せるというのか……。


カルテア王女のところへ敵兵が3人向かった。

でも、ダンヴィル指揮官補佐が傍に控えている。

エンドリ3兄弟に王女の方へ救援に行くよう指示した。

笑っている兵士は3人でひとりを相手にするよう伝える。

3人であれば、油断さえしなければきっと勝てるはず。


それに敵が2人ならダンヴィル補佐官であれば十分に渡り合える。

自分はそこには行かない。

やることが他にある……。


本陣を守るキサ王国兵は精鋭の集まり。

だが、次々に倒されている。

目の前の笑っている男たちが、あまりにも強すぎる……。


自分も笑う兵達を倒していく。

自軍の兵が狩られる前に狩り尽くす。

いかに笑う兵達と言えど、地下迷宮最下層を攻略した自分には及ばない。

激戦に次ぐ激戦が続いた。

本陣の兵が、残り10名となったところで、笑う兵をすべて倒した。


危なかった……。

あと数十秒、倒すのが遅かったら逆にこちらが全員やられていた。

それほど僅差の戦いだったと思う。


中央軍の片方が、右翼本陣を追い抜き、帝国軍と衝突する。

その勢いは凄まじく劣勢だった右翼側が一気に息を吹き返した。


「サオン小隊と合流します!」


カルテア王女が、中央軍の動きを見てそう決断した。

本陣は今、限りなく手薄で、とても危うい状態。

ダンヴィル指揮官補佐が王女を庇って、深手の傷を負った。

本陣にいた魔法使いも聖職者も全員やられてしまった。


現時点では、サオン小隊に合流するのが、最良の選択と言える。

後退はとても目立つので、危険性が高い。

だが、このままではダンヴィル指揮官補佐が手遅れになってしまう。

指揮官補佐を自分が背負って、川の近くまで後退する。

エンドリ3兄弟に負傷兵の運搬を頼もうと振り返る。

ミカしか残っていない。

シカとルカは笑う兵にやられてしまったようだ……。



どうにか、サオン小隊と合流できた。

すぐにセレが治癒魔法を唱える。

だが、それでも命が助かるかは難しいところだと思う。


「ちょっといいアルか?」

「どうした?」


メイメイから背筋が寒くなる話を聞いた。

先ほどの笑う兵は、キューロビア連邦の紋章をつけていた、と……。

彼女は、魔導具「魔眼鏡」で前線の状況を確認していたそうだ。

もしそれが本当なら、帝国と連邦が手を組んだことになる。


メイメイは魔道具で先ほど他の2カ所も確認してくれたそうだ。

それによると、他の2カ所に向かったのも連邦兵だったとのこと。

移動には狼型の魔物を使っていたらしい。

移動速度が並外れていたので、とても驚いた。

騎乗者が降りると、狼の魔物は明後日の方向へ走り去ったらしい。


「それより左翼が危ないネ……」


メイメイが魔眼鏡を見ながらそう呟いた。

裸眼でもわかるが、遠目でもかなり分が悪そうに見える。

笑う兵達は明らかに指揮官であるカルテア王女を狙っていた。

同じように各指揮官の下へ笑う兵達が送り込まれたのだとしたら……。

巨象人トゥスカーのゴードやシンバ将軍は大丈夫なのだろうか?


「それでどうするの?」


たまらず、ポメラが口を開いた。

反王国派の彼女が、王族であるカルテア王女を頼っている。

本来すごく喜ばしいことだが、あいにく今はそんな感傷に浸っている暇はない。


「シンバ将軍は今、右翼側にいます」


王女カルテアはポメラの目をしっかりと見据えて返事をする。

シンバ将軍が率いる中央軍の精強さは大陸中が知るところである。

だが、それでもあの笑う兵はあまりにも危険極まりないと説明した。


「ここから3つの部隊に分けます」


シンバ将軍の本陣に行く部隊。

この場所で、右翼の退却に備えて煙を焚く部隊。

そしてダンヴィル補佐や負傷兵を先に後方の丘へ運ぶ部隊。


サオン小隊って50人しかいないのに3つのことを同時にやれるのか?


「その話に乗せてくれると嬉しいなぁ!」

「──誰だっ!?」


いつの間にこんなに接近していた?

見るとハイレゾ達、傭兵部隊。

顔なじみだが、今はレッドテラ軍側に雇われている。


森へ向かって右側の方へハイレゾだけが立っている。

だが、傭兵が100名近く草むらに潜んでいるはず。

剣を抜いて駆けだそうとしたミカを手を横に伸ばして抑える。


「よお、兄ちゃん、見覚えがあるし」

「そんなことより、早く用件を」

「まったく、せっかちだねぇ……まあ、いいさ」


ハイレゾの提案は以前と同じでキサ王国への離反の申し出。


「そんな話、こちらが信用すると思っているの?」

「アンタらの首を取るのは簡単さ、でも……」


カルテア王女が問い質す。

それに対して、ハイレゾが自分を見て、ニヤリと笑う。


「その兄ちゃんに俺達、全員狩られそうだからやめておくよ」


首をすくめながら両手を広げて持ち上げる仕草をするハイレゾ。


「カルテア様、実は……」


ハイレゾは最初から自分に頼るつもりでいたようだ。

以前、王女とダンヴィルを彼がワザと逃がした話をした。


「……わかりました。では、頼みましょう」


正直、王女はハイレゾ達をまだ信用しきっていないのだろう。

シンバ将軍の下に自分と傭兵隊が行くことになった。

彼らが裏切っても自分ひとりなら大丈夫だと判断したらしい。


「よおし、ようやく金ヅルができたぜ」

「ハイレゾ隊長、客人がいますぜ?」

「なぁに本当のことだ。構わないさ、なあサオン?」

「まあ、傭兵に無償で助けるって言われた方が気持ち悪い、かな」

「ははっ、言えてる! なかなか面白いことを言うじゃん!?」


中央軍の右翼へ合流した場所へ迂回しながら向かう。

ハイレゾが軽口を叩くので合わせてみた。

以前、ジェイドとハイレゾがやっていた軽口の応酬。

こういったのも慣れておけば、いつかきっと役に立つ。




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