戦火再演
第41話
「ひとつ聞いてもよろしいですか?」
メイメイが姉への報告を終えた後、手を挙げる。
ヤオヤオ皇女から発言する許可をもらったので、気になることを伝えた。
「この辺りに怪しい船か、大きな船が停泊できる島はありますか?」
例の逃げられた男がやけに浮橋の上で軽やかに動いていた。
男の顔はトネルダ中隊長も覚えがないという。
あと、定期的に失踪者が出るということは、どこかにアジトがあるはず。
ポペイの街中にアジトがないから、兵士たちは探し当てられないのでは?
これらのことを踏まえると、身元の怪しい船や、近くの島が怪しいと考えた。
陸地側の森の中というのも考えられる。
だが、海上側で攫って、街の中を陸地側へ横断するのはかなり危険が高いはず。
なので、海の方がより怪しいので、海から先に調べた方が良い。
「このポペイは三日月半島の礁湖の中にあります」
半島と呼ばれているが、陸続きではなく、大きく張り出している環礁。
ポペイは環礁に囲まれていて、外海の波は内側にほとんど入ってこない。
だが、座礁しやすいため、ポペイにはいくつか「海の道」があるそうだ。
そのうちのひとつが、大きな島に繋がっているとのこと。
その島は昔からよく海賊の住処になるらしい。
なので、数年に1回は討伐隊を派遣するそうだが……。
この数か月、商船を襲う海賊の被害がまったく起きていないそうだ。
未遂も含めると月に1回か2回くらいは被害が起きるのが普通。
略奪行為が起きないので、この海域からどこかへ移動したと考えていたようだ。
「トネルダ隊長。見てきてもらえます~?」
「はっ!」
「メイ達も連れて行くアル」
ヤオヤオ皇女がトネルダ中隊長へ様子を見に行くよう指示を出す。
すかさずメイメイが姉に希望を伝えた。
「あら、大丈夫なの~? 怪我でもしたらお父さまに私が叱られるわ~」
「大丈夫ヨ、メイにはこのサオン君がついているネ!」
「サオン?」
メイメイが胸を張って答えてくれたが、ヤオヤオ皇女が首を傾げる。
「サオン君を知っているアルか?」
「いえ……ただ」
ホン皇国の最北端。
キューロビア連邦との国境近くにシーツ―という城塞都市があるそうだ。
そこにサオンという長年、連邦の侵攻を食い止めた優秀な指揮官がいたそうだ。
剣の腕も超一流。
おまけに内政にも力を入れる才徳兼備の人で、領民にとても慕われていたという。
そんな彼に憧れ、シーツ―では自分の子にサオンと名前をつけるのが当時流行したそうだ。
だが、その有能な指揮官も10数年前に亡くなったという。
戦争や病気で命を落としたわけではない。
原因は外交交渉。
内容は、サオン指揮官の身柄と誘拐された人質の交換。
サオン指揮官は喜んで自分の身を連邦に差し出し、子ども達を取り返した。
だが、ひとりだけ戻らなかったという。
指揮官と同じサオンという名前の子ども。
「あなたに両親はいますの~?」
「いえ、孤児院で育ちましたが、その前のことはあまり……」
孤児院に行きつく前は、名前も覚えていない大人と一緒に旅をしていた。
幼すぎて記憶も曖昧だし、どこを回ったのかも覚えていない。
唯一、覚えているのは、その男性の頬に大きな傷があること。
キサ王国の王都にある養護施設に自分を預けたきり、一度も顔を見せなかった。
「まあ、シーツ―に行けば同じ名前の人が、たくさんいますけどね~」
そうなんだ。
いつか行ってみようかな?
自分の故郷かもしれないし……。
でも今は先に片付けることがある。
「それでは今から準備次第、出発します」
トネルダ隊長からそう伝えられた。
急ではあるが、時間が経てば、より状況が悪くなるかもしれない。
外出用の荷物を取りに借りている部屋へ戻った。
「あれが海賊たちが住処にしている『骸骨島』です」
「どこが骸骨アルか?」
「ここから裏へ回って見て頂いた方が早いかと……」
メイメイの問いにトネルダ隊長が言葉を濁す。
見た方が早いってどういう意味なんだろう?
外海用の大型船に乗って、環礁の間にある礁溝部から島を眺める。
木が生い茂っており、中央に岩山がある。
一見何の変哲もない島にしかみえない。
そこから礁溝部を抜けて島の裏に回った。
そこで骸骨島と呼ばれている理由がわかった。
島の裏側は急峻な岩でできた崖になっていた。
そして、崖には三つの穴が開いている。
その穴が骸骨の両目と口にみえることから骸骨島。
巨大な口が、船で入って行ける洞窟になっている。
まるで船ごと飲み込んでしまうかのように……。
さっそく海賊船を見つけた。
洞窟の入ってすぐ左岸に停泊しており、見張りも誰もいない。
トネルダ隊長が言うには洞窟の中は、輪っかの形をしている。
潮は左側から奥へ流れており、潮の流れに任せて左側に船を進める。
ぐるりと1周できるのだそう。
海賊船の停泊している奥側へ船を接岸させようと船の動きが緩慢になる。
「おかしいアル……」
メイメイが腕を組み、顎に手をやり、何やら考え込んでいる。
「メイなら輪っかの奥、洞窟の外から見えないところに停泊させるアル」
メイメイの考えは正しかった。
答えを知ったと同時に手遅れだと思い知らされた。
洞窟の入口から死角になっていた奥の方。
そこに巨大な鋼のような筒をこちらに向けた謎の船が姿を見せた。
赤い光と轟音が肌を焼き、鼓膜を破った。
遅れて、焼き焦げた煙の臭いが漂ってくる。
目をやられてしまい、真っ黒で何も見えない。
足を踏み外し、海中へ落ちた。
水面へ上がろうともがいた時に気が付いた。
自分の腕が
鎖帷子を着込んでいたせいで、身体がどんどん沈んでいき、意識を失った。
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