第39話


魔導車を飛ばして2日。

ホン皇国南東にある海上都市ポペイ。

海上都市周辺には村が点在しており、その村々を含めて、ポペイ領と呼ぶそうだ。

ポペイ領は第2皇女ヤオヤオが統治しており、ホン皇国の主要都市のひとつである。


海上都市と呼ばれているが、実際は陸上部が7割ほど占めていた。

陸上部は平民、海上部は金持ちと貴族が住んでいるそうだ。

でも別に差別的な統治をしているわけではないとのこと。

単に海上部の居住用の建物が海に浮かんでいる分、管理費用が高いというだけ。


魔導車は近くの森の中へ隠して、ポペイの街中に徒歩で入った。


「あら~メイちゃん、大きくなったわね~」

「3ヵ月前に会ったアル」

「3ヵ月も経ったら女の子は変わるものよ~、ねえ、皆さん?」


海上部は、建物の他に道となる浮橋、舟のための水路の3つで構成されている。

海上部の中央にひと際大きな建物が、第2皇女の屋敷になっていた。

目尻が下がってニコニコしている。

温厚そうな柔らかい物腰。

とぼけているのか、メイメイを軽くあしらっている。


「それより、失踪事件の詳細を教えるアルネ!」

「ごめんなさいね~メイちゃんしか頼れる人がいなくて~」


ホン皇国の現在の皇帝には8男6女と多くの子ども達がいるそうだ。

皇位継承権は、子ども達全員に与えられており、年齢による優越はない。

あるのは、皇民を指導するための圧倒的で超人的な実力ちから

それが軍略の才能であったり、政治的な手腕でも構わない。

メイメイは、魔導学の才能が小さい頃から傑出していたらしい。

なので、幼い当時から兄や姉たちに疎まれてきたそうだ。

もちろん、他のきょうだい達も次期皇帝の座を狙っているため、仲が悪い。

要するに目の前の皇女2人の方が変わり種だということ。


「貴族ばかりが失踪、アルか……」

「そうなの、おかしいと思わない~?」


異変が起き始めたのは約1か月前。

貴族のひとりが失踪したのを皮切りに今日まで13人が行方不明になっている。

第2皇女も兵を使って調査したが、手がかり一つ見つからないそうだ。

当主だけではなく老若男女問わず攫われているため、より一層謎が深まっている。


「身代金目当て……いや、それなら犯人から何かしらの行動があるはずアル」


メイメイも顎に手をやり、考えに耽り始めた。

失踪した貴族の家族からは不満の声が上がっているという。

皇都への応援要請を皇女へ求めているそうだ。


「まずは失踪した場所と時間を調べるアル!」

「わかったわ、では調査班の責任者を手配するわね~」


だが、調査班の責任者はあいにく陸上部側へ調査に出ており、戻りが遅いらしい。

ただ待っているだけでは時間がもったいない、とメイメイは早速動き始めた。

とりあえず、第2皇女の屋敷前で手当たり次第、声をかけていく。


「いやぁ、最近は夜間、外出を禁止されていますからねぇ」



「邪教神に魅入られてしまったんじゃないですか?」



「平民の連中の仕業に決まってますよ」



「そういえば夜中に何度か大男・・が歩いていましたね」


10人近く聞いて、ようやくある男性から目ぼしい情報が出てきた。


「それで、その大男はこの海上部の人間アルか?」

「いえ、違うと思います」

「見覚えもないネ?」

「ええ、メイ様・・・。ですが地上部側の住人だと多すぎて探すのは厳しいかと」


体格の良い大男か。

目立つからすぐにわかりそうなものだが、この国には結構いるのかな?

兵士たちは本当にちゃんと調べたのだろうか……。

もう少し聞いて回ろうとしたら、調査班の責任者が地上部側から帰ってきた。


──デカい。


体格の良い大男。

だが、目撃者の男性は海上部では見覚えがない、と話していた。

こんなに体格が良ければ目立つので、顔をすぐ覚えられると思う。

身長は190CMセルチ近く。

胸板の厚さが尋常ではなく、戦ったらかなり強いと見た目だけでわかる。

こんなにデカければ、人を攫うなんて訳もないはず……。


だが、証拠がない。

メイメイやリャム、リードマン姉妹も皆、考えていることは恐らく同じ。

とりあえず・・・・・泳がせる・・・・

彼はまだ、自分達が大男が怪しいという情報を得たのを知らない。


情報は「力」であり、他者を思いのままに操ることができる。

情報を制した者が勝者となる。

これは時代が変わっても変わらない普遍的な真理である。


彼の名は中隊長トネルダ。

一介の兵士から、その巨体を活かして中隊長まで昇進した生え抜きの戦士。

彼の案内で、失踪者の最後に目撃された場所を歩いて回る。

結果、失踪したのは夜間という情報以外は得られるものが何もなかった。


「ご苦労アル!」

「では、私はこれで失礼します」


トネルダ中隊長の背中を見送りながら、メイメイがポメラの肩を叩く。


「わかってるわよ!?」


ポメラが、浮橋の上にメイメイから渡された肉粘体ミートスライムの抜け殻を置く。

その周りに素早く魔法陣を書いて、詠唱を終えると小さな煙がひとつ上がる。


単眼蝙蝠アーリマン……魔術師の使い魔。


メイメイは、ポペイの街に入る前にポメラに使えるかをあらかじめ確認していた。

自分は聞いたこともない使い魔だが、すごく目が良いとのこと。

数百Mメトル上空からでも人の顔が識別できるらしい。

単眼蝙蝠アーリマンの視覚はポメラの左目と共有しているそうだ。


これは尾行には実に最適な追跡方法。

上空からトネルダ中隊長の監視が始まった。




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