第28話 メリルの訪問
「え?王都に遊びに来るの?今週末……?」
『ええ、ええ!バニラとサルートも連れて行くから、久しぶりに会わない?夫の仕事の関係で急に決まってね』
「嬉しいわ!もちろん会いましょう。土曜ね、了解」
『はぁい!』
ガチャンと電話は切れて、後ろから「だれー?」とプラムの声が飛んで来る。
以前住んでいた街、マルイーズでの唯一の友人とも言えるメリルが王都に遊びに来ることになった。せっかく会えるのならば、おすすめの場所などを紹介したい。だけど、おすすめ出来る場所って?
(公園ぐらいしか………)
ハッとしてカレンダーを確認する。
今日は水曜日なので、明日皆に会った際に三班のメンバーに確認してみよう。もともと住んでいたクレアあたりはこの辺りの事情に詳しそうだし、フィリップも色々とお店を発掘している気がする。
その時、キャーッと大きな声が上がって、目をやるとプラムとフランが絵本を手に笑い合っていた。どういうわけか、私が相手を選べと伝えた日からフランの帰りは早くなった。今ではほとんど私と同時刻に帰宅する。
もしかして意外と育て甲斐があるのだろうか。
だとしたら有難いのだけど。
「プラム、土曜にメリルがバニラとサルートを連れて来るみたい。一緒に遊びましょう」
「やったー!パパもあそぼー!」
「ぱ…パパは……」
チラッとフランの反応を盗み見る。
さぞかし困ることだろう、と踏んでいたフランはこともなげに「分かった」と頷いた。私は面食らって内心飛び上がる。彼は自分の時間を極力自分のためだけに使いたい人間だと思っていたが、いつの間に考えを改めたのか。
「貴方、訓練とかは……?」
「あんたと同じように休みだが?」
「出掛ける用事は?」
「その必要があるのか?」
「…………、」
「やったね!ママとパパがプラムといっしょ!」
喜びのあまり飛び跳ねるプラムを嗜めながら、私は混乱する頭を押さえ付ける。メリルが遊びに来るのは問題ない。だけど、フランのことを私は彼女に話していない。急な引越しが決まって手紙を王都から出したけれど、色々と事情が事情だったので同居のことは話せていなかった。
今から手紙を出しても届くだろうか?
待ち合わせにフランが居たら驚く?
プラムを見ると、嬉しそうな顔でフランの脚に抱き付いている。まだ腰にも届かない背丈の頭を撫でる手首に、テーピングが巻かれているのが気になった。
「フラン、手のところ捻挫でもしたの?」
「……あぁ。少し捻っただけだ」
私の視線に気付いてフランはすぐに手を引っこめて腕を組んだ。ちらりと見えた包帯の下には以前見えた青痣のようなものがあった気がする。治癒が可能な傷なら対応するのに、と思ったけれど本人があまり積極的では無さそうなのでそれ以上の追求は避けた。
(当日……なんとかなるかしら?)
大人の事情でメリルに会わないよう別行動を提案するのも気が引けるし、とりあえず一緒に集合して彼女には頃合いをみて本当のことを話そう。
いずれにせよ、久方ぶりに古い友人と会えるのは私にとっても有難い。王都に越してきて、慣れない場所で寂しい気持ちもあったから、リフレッシュにもなりそうだ。
◇◇◇
「んへ?王都でおすすめの場所?」
「うん。友達が来るんだけど、何か良い場所はない?」
クレアは顎に手を当ててウンウンと唸りながら考えてみせる。話を聞いたフィリップやダースも加わって、あれやこれやとアイデアを出してくれた。
「やっぱりウロボリア王宮の周辺じゃない?あの辺は店も多いし、お買い物にはぴったりよ!」
「私はサンピガの教会がおすすめですね。建築物としても価値がありますし、昼時の祈りの儀式は圧巻です」
「俺は……コデグの港だな」
ポツリとダースが溢した意見に皆、注目した。
「コデグ……?」
「ああ。夕焼けが綺麗なんだ。愛する人と共に見れば永遠に結ばれるなんて噂もあって…… おいクレア、なんだその目は!?」
「んふっ、いいえ!大男でも意外とロマンはあるのねぇ」
「良いじゃないですか、クレアさん。私は彼の思想を支持しますよ。ロマンチストはウェルカムです」
フィリップの歓迎を受けて更にダースが顔を赤くする。
聞けばゴデグの港には広場も隣接しているようで、子供たちを遊ばせるにも良いかもしれない。私は場所の名前と大まかな住所をノートにメモしておいた。
一応、フランの意見も聞いた方が良いだろうか?
時間が合えば話してみたいけれども。
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